表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編(ざまぁとかコメディとかテンプレ外しとか)

番と婚約破棄と別人格

作者: 渕澤もふこ

前々から番について色々考えてた結果、こうなりました。ハッピーエンドではありません。タグにご注意ください。

「これでお二人の婚約は破棄されました」


 瞬きをした「私」は、荘厳な雰囲気の祭壇の前に立っていた。

 目の前には神官長、周囲には何人かの神官と「私」の家族、と元婚約者の家族がいる。


「アリエナ、君が私の番だったのか!」


 そう言って抱きついてきたのは、アリエナと呼ばれる「私」の元婚約者のようだ。


「お離しくださいませ。私たちは先程、婚約破棄を致しました。既に他人でございます。軽々しく触れないで頂けますか」


 「私」はアリエナではない。アリエナと呼ばれていた娘は、自分が目の前の男の番とわかった瞬間、絶望を感じてどこかへ行ってしまった。


「何故そんなことを言うんだ?君は、私が番で嬉しくはないのか!君だって知っているはずだろう!私が、ずっと番を探し求めていたことを!」


 「番」とは本能によって選ばれる、運命の相手だと言われている。

 魔法も獣人もいるこの国では、この番というものがとても素晴らしいものだと持て囃されていた。

 番は同じ種族同士が惹かれ合うことが多いが、稀に別の種族でなることもある。利点としては、本能で惹かれ合うためか、番同士は子どもができやすいことだろう。

 現在のこの国では混血が進み、純粋な人間も獣人もほとんど存在しない。

 アリエナの元婚約者であるこの男も、獅子と虎の血をうっすらと引いているらしい。

 この男はアリエナのことが気に入らなかったらしく、婚約者らしいことは何もしてこなかった。

 アリエナの家が裕福な子爵だったことで、侯爵側からの希望で組まれた婚約だったが、本人と侯爵夫人にとって納得のいかない婚約だったらしい。

 出世願望が強かったアリエナの父は、侯爵家との縁組みを非常に喜び、侯爵家の領地の特産物を使って新たな事業を展開していた。

 アリエナも、始めはこの婚約を喜んでいた。見目麗しい侯爵子息との将来を夢見て、なんとか仲良くなろうと必死だった。

 だが、まだ見ぬ番への憧れを捨てられない冷たい婚約者の態度と、明らかに下の身分を蔑む侯爵夫人の態度に、アリエナはこの婚約の失敗を悟った。このまま結婚しても、絶対に自分は幸せになれないのだと。

 母親に相談しても、結婚は女の幸せ、破棄などあり得ない。お父様と同じように、いつかは気持ちが通い合うとか、話が通じなかった。

 それから、アリエナは渋る父親を、相手の有責で婚約破棄させることで説得し、婚約者には番との結婚の素晴らしさを煽り続けた。

 婚約した者には、番がいてもわからないように、神殿で魔法が掛けられる。過去に婚約や結婚をしたあとに番が見つかり、家庭が壊れた事案が多くあったからだった。

 当然、二人にも魔法が掛けられており、例え番が傍にいたとしても気がつかない。アリエナはそこを利用した。

 婚約破棄をしなければ、番は見つからないのだと、そう婚約者に囁き続けた。

 それを真に受けた単純な婚約者は、衆目の面前で高らかに婚約破棄を宣言し、アリエナは晴れ晴れとした思いで今日の婚約破棄の儀式を迎えたのだ。

 それなのに、運命はアリエナにとって、どこまでも残酷なものらしい。

 元婚約者が、番だったなんて……。


「だからなんだと言うのですか?私たちの婚約は先程破棄されました。私たちは何の関わりもない他人でしょう?」


「アリィ!私たちは番だ!それならば結婚すればいい!」


「先程、あなたの求めにより婚約破棄したのに?意味がわかりません」


「私は番と結婚したいから婚約を破棄した。君が番ならば君と結婚するのが当然だろう」


「そうよ、番だったらいいじゃない!何が問題なの!?」


 元婚約者は、今まで一度も呼ばなかったアリエナの愛称を、当たり前に呼んでくる。

 至極当然のように暴論をかましてくる男と、擁護する侯爵夫人に苛立ちを覚えた。

 だから、アリエナはいなくなったのに。


「『アリエナは獅子の血を持っていないから我が家に相応しくないわ』そう仰っていましたわね、侯爵夫人は。それなら、最初から婚約などさせなければよかったでしょう。何故、後から文句をつけたのですか、それも自分の夫である侯爵ではなく、婚約を打診された側の私に」

 

 アリエナは婚約破棄の瞬間、歓喜し、そして絶望した。

 自分が元婚約者の番だと気が付いてしまったからだ。

 どこまで行っても、自分はこの男から逃げられないのか。この男と添い遂げなければならないなら、いっそ、死のうと思った。

 本能で惹かれることは動物と同じ。アリエナにとって、番としてこの男に惹かれることは、自己の死でしかなかった。


「番だとわかったなら、結婚すればいいではないか」


「そうよ、アリィ!婚約者が番だったなんて、素敵じゃない!」


 味方であったアリエナの父親も、本当の意味では味方ではない。

 貴族の婚約破棄は、女側には不名誉で不利益。アリエナがこれから結婚相手を探すのは難しくなる。それを考えれば、番である元の相手にもらってもらったほうがいいと考えたのだろう。

 それほどまでに、番というものの影響は強かった。


「お父様は、私の気持ちがわかっていたはずでしょう。婚約者にないがしろにされた、惨めな娘を、忘れてしまいましたの?」


「いや、しかし番ならば、もう大丈夫だろう。きっとお前を大事にしてくれるはずだ!そうでしょう!?」


「もちろんだとも!大切な番を粗略に扱いなどしない!」


「番だから、ねぇ。……わかりました」


「わかってくれたのか!」


 わかったのは、この人たちがアリエナではなく、「番」という存在でしか見ていないということ。

 可哀想なアリエナ。「私」はあなたの味方。でも、この人たちと付き合っていくのは「私」には無理だわ。自分たちの要求ばかりで、まともな話し合いができない人たちだもの。誰かにここは任せて、早くアリエナを捜しにいきましょう。


 「私」は、ゆっくりまばたきをした。

 ここにいるのは、本能の「私」、番の「私」、誰よりも自分を優先する「私」。



「番になりましたので、もう今までの私ではありません!これから私を『リエ』と呼んでくださーい。お父様もお母様も、私を『アリィ』とは呼ばないでくださいね!」


 本能を優先する「私」は「リエ」。

 アリエナの心に生まれた三人目の「私」。アリエナはもう一人の「私」に守られて眠っているの。

 辛いことは任せて、ゆっくり眠っていてね。

 番の感覚なんてただの本能だもの。「私」には理性なんて関係ない!

 アリエナが我慢していたこと、全部開放できるもの。愛想笑いなんて絶対しないし、嫌でもやらなきゃいけないこととかあってもしない。

 元婚約者のことだって、番って以前にむかつく男だから、まずはきっちりしつけないとね!


 「私」が本能のままに、盛大に皆への復讐をしてあげるからね!

その後のリエちゃん。


「えー、私オレンジ嫌ーい!あなたなんで番のくせに私の好きなものすら分からないわけぇ?信じられなーい!何年間婚約者やってたのぉ?番のことなぁんにも知らないのに愛してるとか、笑えるぅ」

 元婚約者を、存分にいびり倒す。


「侯爵夫人ったら、知らないんですかぁ?常識ですよぉ。あ、でも今の流行りだから夫人にはきっと分かりませんよねぇ。あまりお買い物できませんもんね!やだぁ、リエったら気が利かずにごめんなさぁい!」

 侯爵夫人にマウントをとる。


「うちの実家の子爵家から、侯爵家が資金援助受けてるの知らないのぉ?あなた達のお給料、私がいなくなったらどうなるのかな?あはっ」

 使用人を教育する。


「私が生きてて侯爵家と縁続きになれてればいいんでしょう。死なない程度に侯爵家を援助すれば?私にはどうでもいいわ、侯爵家も子爵家のあなたたちも。あなたたち家族のために苦しんだ、家族思いの『アリィ』はもういないの。残念ね、おとうさま。あなたたちの希望通り、番と結婚して『幸せ』になるわよ、『私』はね」

 家族なんて同じ家に住んでいる他人。



番と結婚できるのが幸せなら、元婚約者が一番幸せなはずだから、アリエナにとってはハッピーエンドがなかったのでかわいそう。理性の「私」と二人で、静かに眠ってます。

取り敢えず、元婚約者は一生愛されない。従順な下僕としてしつけられる。脳の回線が繋がって、アリエナに対して申し訳ないと思って謝罪したら、多少は扱いが変わるかもしれないが、本能に支配されているから、そんな日はこない。


転生や生まれ変わりとかも多重人格かもしれないなぁと考えたら、ちょっと怖くなりました。

お読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ