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目覚めると膝の上だった

「君……小野……君……小野寺君!!」


 心地のいい声……とても落ち着く声。

 永遠にこの心地いい空間に浸っていたい。

 体は軽く、優しく、温かい存在に包み込まれ、

 頭は人の体温を感じさせるような適度な弾力がある素材に乗せられている。


「小野寺優人君!!」


 僕は名前を呼ばれそこで目が覚めた。


「あれ……? ここは……」


「よかった、意識が戻って。

 しばらくは動かないようにこのまま安静にしててね」


「は、はぁ……わかりました」


 今の状況を確認しよう。

 僕は待合室などに置いてあるベンチのような椅子に仰向けになっていて、

 天井のほう見ると紅羽先輩の顔と胸が見える……は?

 待てよ? 

 となると、僕の頭が乗っているのって紅羽先輩の膝ってこと?


「せ、先輩?」


「ん? どうしたの?」


「ぼ……僕の頭先輩の膝の上に乗っちゃってますよね?」


「だって小野寺君急にうちに倒れかかって来たんだよ?」


「え……え?」


「びっくりしたよ……でも安心して!!

 頭をぶつけないように抱きしめたからさ!!」


 知りたくない情報だった……。

 というか、先輩に迷惑をかけてしまった。


「ごめんなさい……紅羽先輩に迷惑をかけてしまって……」


「ううん。うちの方こそごめん……。

 ちなみにどこまで記憶ある?」


「えっと……紅羽先輩と手繋ぎましたよね?」


「うん!! 手は繋いだね」


「そのあとの記憶があやふやになってるんですよね……」


「そっかー。覚えてないんだ」


「ごめんなさい……お恥ずかしい話女性と手を繋ぐことはおろか話したことすらあまりなくて……」


「そ、そうなんだ。

 ごめんね? うちもいきなり手を繋いだりしちゃって」


「紅羽先輩は悪くないです!!」


「小野寺君……いい子過ぎる!!

 うーん。教えておいたほうがいいのかな」


「何がですか?」


「うちと小野寺君が手を繋いだ後に起こった出来事」


「お、教えてもらってもいいですか?」


「意識失わないようにしっかりと心して聞いてね?」


「は、はい」


 意識を失わないようにってそんな失礼なことを紅羽先輩にしてしまったのか?

 これから罪悪感を背負って学生生活を送らないといけないのか?


「えっとね、小野寺君とうちとでキスをしちゃったの」


「……はい?」


「だから、小野寺君の唇とうちの唇とが重なったんだよ!!」


 紅羽先輩が人差し指を自分の唇に当てながら話す。


「ちょ、ちょっと待ってください?

 僕全く記憶がないんですけど!?」


「小野寺君さぁ、うちと手を繋いだだけでめっちゃ緊張してたよ?」


「し、仕方ないじゃないですか……」


「ダメだよ? 何でもできないことを『仕方ない』って言葉で片付けちゃ」


「はい……」


「中学生の時に小野寺君は恋人とかいなかったの?」


「さっきも言った通り女子とは喋る事すらなかったです」


「小野寺君はさ、初恋の相手はいないの?」


「初恋ですか……。

 そもそも恋ってものが何なのかわからないんですよね。

 高校になれば自然と色々なことが経験できるかなと思ってて」


「自分から動かないと無理なことも多いよ?」


「そうですよね……」


「一応先輩だから言っておくけど、行動を起こしたから結果が付いてくるって思ったほうがいいよ。何事においても」


「そうなんですか?」


「失敗しても恐れない、当たって砕けろってことじゃないけど行動しないと何も始まらないし変化も起こらない。

 行動すれば、いい方向か悪い方向どっちかには行くからさそれを経験に次のステップに進むんだよ」


「なるほど。勉強になります!!」


「あ、あのさ……」


「はい? どうしました?」


「うちに恋してみない?」


 その瞬間、部活紹介の時感じた時間が止まる感覚に襲われた。


「え……?」


「そのさ、うちの初恋の相手って小野寺君なんだよね」


「え、それってどうい——」


 ——キーンコーンカーンコーン

 授業終了のチャイムが二人の会話を遮った。


「あれ、もうそんなに時間が経ってたの? 小野寺君動けそう?」


「あ、はい。動けそうです」


「とりあえず急いで教室向かわないと!!

 ごめんね? 長話ばかりしちゃって」


「謝らないでください。

 紅羽先輩は悪いことしてる訳じゃないんで」


 紅羽先輩に連れられて僕は教室に向かった。

 向かっている途中、紅羽先輩が僕に話した。


「小野寺君」


「はい? どうしました?」


「恋人の件なんだけどさ……真剣に考えて欲しい。

 いや、別にすぐ返事が欲しいとかじゃないんだけど……」


「……」


「ごめんね? 変なこと言っちゃって。

 忘れてもらっていい——」


「わかりました!! 紅羽先輩の事真剣に考えます」


 僕は紅羽先輩の言葉を遮って返答した。

 紅羽先輩はふざけているわけじゃない真剣に僕との交際を考えているんだ。

 それなら僕も紅羽先輩のことをしっかりと考えないと失礼だ。


「い、いいの?」


「まだ、付き合うとは確定したわけじゃないですよ?

 悪い人じゃないってことはわかりましたし、危険な人かもしれませんけど……」


「お、小野寺君? うちを危険な人って認識してるの!?」


「紅羽先輩、いきなり求婚してくる人は危険な人として認識するしかないですよ? 何されるかわかりませんし」


「そのことはごめんなさい!!

 初恋の相手ってこともあって緊張しちゃってたから……。

 でもうちの告白、真剣に考えてくれるのは嬉しいな」


「先輩の気持ちを無下にすることは絶対にできませんもん!!」


「あ、ありがと……」


 紅羽先輩が顔を赤らめながら小声で言った。

 今日初めて会って話したけど

 今までの印象は強く自分の意見を主張する女性だと思っていたが

 不意に見せるかわいい一面に『一人の恋する乙女なんだな』と思い直した。


「紅羽先輩!!」


「ん~? どうしたの?」


「今日って話せる時間とかあったりしませんか?」


「放課後は部活があるからな~。

 部活前なら少しだけ時間取れるよ」


「もう少しだけ質問したいことがあるんですがいいですか?」


「うん、いいよ!! それにさっき質問の途中でチャイムが鳴っちゃったからね。

 じゃあ、放課後でいいかな? 場所は小野寺君の教室で」


「わざわざ来てもらっていいんですか?」


「小野寺君、まだ学校のどこに何があるかわからないでしょ?

 うちが教室まで来るからおとなしく待ってて」


「分かりました。

 お手数かけますが何卒よろしくお願いします」


「そんな硬くならなくていいのに……。

 あ、一年生の教室は階段を上がればあるから。

 行けばすぐにわかると思う!!

 じゃ、放課後にまた来るからね。」


「分かりました。ありがとうございます」


 先輩と別れ階段を上がりきると一年生の教室があった。

 僕ら1年生は全員で95人。

 1-A、B、Cにクラス分けされていた。


「優人~」


「あ、大輝くん!!」


「どこ行って何してたんだよ。

 全然帰ってこないから心配してたんだぞ?」


「ごめんごめん」


「それで誰に呼び出されてたの?」


「えっとね……生徒会長兼弓道部部長『紅羽瑞希』先輩に呼ばれてた」


「は? ……え? あの綺麗で可愛い先輩に?

 優人、一体何をしたの?」


「いやいや何もしてないって」


「何もしてなきゃなんでわざわざ校内放送で呼び出しされるんだよ」


「分からないよ……」


「ちなみに呼び出しされた理由は?」


「えっとね……」


 紅羽先輩から告白されたことは言わないほうがいいよな。

 ここで大輝くんに話して面倒なことになると大変だし


「部活勧誘で呼ばれたんだよ!!」


「部活勧誘? 弓道部だよな?」


「弓道部だよ!! なんでか部活に入って欲しいって頼まれた」


「本当にそれだけか? 怪しいぞ?」


「本当だって!! 信じてよ。

 というか、僕の教室ってどこなの?」


「あ、場所がまだわかんないか!!

 一緒に行こうぜ!! 席も隣だったから仲良くしてくれよな」


「うん!! よろしくね」


 僕は入学初日に佐藤大輝君と友達になった。

 生徒会長兼弓道部部長紅羽瑞希先輩に弓道部にも勧誘された。

 そして求婚と告白をされた。

 まだ一日が終わってないのに濃厚な一日だと思う。

 これから放課後に紅羽先輩と会って話すこともあるし……大丈夫かな、僕。

 教室に戻りHR (ホームルーム)を行いその日の授業は終了した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘お願いいたします。

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