放課後デートその2です
「是非! 一緒に帰りましょう」
「なんで小野寺君は弓道部に入ったんすか?」
「部活動紹介のときにビビっときた感じですね」
「あ、もしかしてあれっすか? 紅羽先輩に一目惚れしちゃった的な?」
「な、なな、何を言ってるんですか! そんなわけないじゃないですか!」
動揺して思わず声が大きくなってしまった。
まさか紅羽先輩の事を言ってくるとは考えてもいなかったからだ。
「そんな大きな声出さないでくださいよ、びっくりするじゃないっすか。
でも美人で弓道部部長で生徒会長。まさに容姿端麗、文武両道って感じっすよね〜」
「確かに……完璧ですね」
「紅羽先輩の弓道の腕は別格っすよ。あれは勉強になる」
真剣な顔つきで藤原先輩が話す。
先程の練習で藤原先輩の姿を見ていたが姿勢も綺麗だし的にも中っていた。
その藤原先輩が勉強になると言うほど紅羽先輩は凄い人ということだろう。
もっとも、乙女な姿を知ってる自分からするとどっちがほんとうの紅羽先輩なのか分からない……。
その後藤原先輩と別れ際にLINEを交換してお互い帰路に就いた。
いい人だったな、なんて思いながら少し気になりスマホを見てみると予想通り紅羽先輩からたくさんのメッセージが。
《どこにいるの?》《何してるの?》《早く返信ちょうだい》と様々な多数のメッセージが……。
もしかして、紅羽先輩ってメンヘラなんじゃ……いや、さすがにそんなことはないか。
《藤原先輩と帰ってました》打ち込んで送信する、これで大丈夫でしょう。
すると今度は電話がかかってきた。
「はい! なんでしょう?」
いきなりの電話で慌てて応答すると紅羽先輩の声が少し怖く感じた。
「藤原の奴うちの事何か言ってた?」
はて……? 別に悪いことは言ってなかったよな?
紅羽先輩のことを勉強になる、とか言ってただけだし。
「紅羽先輩は容姿端麗、文武両道で弓道の事に関しては勉強になるって言ってましたよ」
「はぁ!? あいつ……明日しばく」
怖い怖い怖い。
いつもの瑞希ちゃんじゃない。
完全に生徒会長寄りの怖い紅羽先輩だよ。
いつもの明るくて甘えてくる小型犬みたいな瑞希ちゃんはどこに行っちゃったの?
「あの、瑞希ちゃ〜ん?」
「ん? どうしたの、優人君」
「声が怖かったです。いつもそんな声じゃないですよね?」
「優人君は気にしないで大丈夫だよ! うちは藤原に対してはこんな感じの対応だから」
「藤原先輩……何かしたんですか?」
「いーの! 気にしないで」
おそらく過去で何か藤原先輩と紅羽先輩で一悶着あったんだろう。
気にしないで、の一言で押し切られてしまった。
逆に気になるよ!
でも、気になったところで紅羽先輩は教えてくれないんだろうな……。
藤原先輩に聞いてみる? ……いや、紅羽先輩から何か聞いたんすか? と逆に質問されるに違いない。
モヤモヤするけど今回は気にしないようにしておこう。
翌日の部活動では昨日と同じようにランニングと準備運動をしてからそれぞれの練習が始まる。
先輩方の射形を観察しようと思ったがそうもいかず紅羽先輩に、ゴム弓練習をするように、と言われた。
1週間はゴム弓練習をしてその後に先輩方の射形を観察するらしい。
そんなわけで僕は端の方で紅羽先輩とマンツーマンで指導してもらえることになった。
正直嬉しかった。
今までは甘えてきたり求婚来てくる紅羽先輩しか知らなかったけどビシバシ指導してもらえることが新鮮で気持ちが良かった。……別にMとかじゃないからね?
その1週間はゴム弓練習をしていた。
基本的な動作を教えてもらい射法八節を体に叩き込んだ。
姿鏡で自分の姿を確認していないため、これでいいのか? と考えたりもしたが紅羽先輩の指導に従って毎日引き続けた。
一生懸命ゴム弓練習をしている時数名同学年の生徒が見学に来ていた。
もし、入部してくれるなら一緒に大会に出場する仲間……いや戦友になるだろう。
来週、正式な入部人数が決定するはずだ。
金曜日の練習が終わる時紅羽先輩がこっそりと声をかけてきた。
「今日の放課後時間ある? あったら買い物付き合ってくれない?」
「わかりました。ここで話すのはまずいのでLINEでやり取りしましょう」
弓道部の人たちに紅羽先輩と仲がいいことはあまり知られないほうがいいだろう。
今後部活動をしていく上でいろいろ問題になってきても面倒だし。
道具を片付け弓道場に鍵をかける。
先輩たちと歩いていると《コンビニに集合でもいい?》とメッセージが。
もちろんOKだ。
《わかりました。コンビニに集合しましょう》とメッセージを送りコンビニに向かった。
コンビニに到着すると、手を振る制服を着た女子高生が1人。
間違いない、紅羽先輩だ。
この無邪気さ……本当に紅羽先輩なのか? 部活動の紅羽先輩と真逆なんだけど。
しっかりする時はしっかり、だらける時はだらける、区別がつけれるのはいい事なんだけど、そこは見習わないといけないな。
「それじゃ、行こっか!」
紅羽先輩に手を引っ張られショッピングモールに向かって歩き始めた。
「おおっ、すげぇ……」
ショッピングモールに到着すると真っ先にゲームセンターに来た。
ゲームセンターなんていつぶりだろう。
いや、紅羽先輩、女性と2人きりでゲームセンターに来たのは初めてだ!
平日の夕方ということもあり休日ほど混んではいない。
ゲームセンターは所々に入学シーズンの装飾が施されていた。
クレーンゲームの景品は桜や入学をイメージした商品が多く並んでいた。
てっきりクレーンゲームをするのかと思ったらプリクラの機械が立ち並ぶコーナーにやってきた。
やっぱり女の子なんだな、なんてことを思いながら紅羽先輩を見ていると、プリクラ撮ろ、と呼ばれた。
機械にお金を半額ずつ投入し撮影ブースに入る。
撮影ブースにある荷物置き場にカバンやスマホなどを置いた。
なんでプリクラなんて撮るんだろ? と思い紅羽先輩に質問してみる。
「あの……撮る相手が僕なんかでいいんですか?」
「ふっふっふ。優人君……君はうちの彼氏だからね!」
「はい!?」
『撮影を始めるよ!』
戸惑う僕に構うことなく機械のアナウンスが流れ撮影が始まった。
最初はアナウンスの指示に従ってポーズを取っていたが最後に近づくにつれて指示されるものがハードになっていく。
最初はピースや手を繋いだりと難易度が低めだったが徐々に肩を組んだり頬を合わせたりと難易度が高くなっていった。
最後は男性からキスをしてみよう、と言ってきた。
この機械ふざけてるのか? 正気の沙汰じゃない。
まぁ、機械に思考力や判断力を求めること自体間違いかもしれないけど……。
紅羽先輩を見てみるとオドオドしている。
時間が無い……プリクラの画面を見てみるとシャッターを切るカウントダウンが始まり3という数字が出ていた。
「瑞希ちゃん……こっち向いてください」
「……うん」
プリクラのシャッター音が、カシャッ、と鳴った。
シャッター音の瞬間、僕は機械の指示なんかじゃない、
僕の意思で紅羽先輩とキスをした。
紅羽先輩は目を閉じて恥ずかしそうにしていた。
『撮影は終わりだよ! 落書きブースに移動してね』
機械のアナウンスが流れ荷物を持って落書きブースに移動するように促される。
さて……紅羽先輩に色々と聞きたいことがあるし、とりあえず落書きブースに移動しよう。
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