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雑談と帰り道

「瑞希ちゃん、僕部活入部します」


「え? あれ、前入部してくれるって言ってたよね?」


「その……改めてです! 矢筒貰っちゃったし、瑞希ちゃんじゃなくて『紅羽先輩』を超えたいんです」


 僕が感じた事、思った事を紅羽先輩に全て言葉にしてぶつけた。

 何も知らない、弓道の世界。

 どんなときも一歩踏み出せば新しい未来が見えてくるはずだ。

 紅羽先輩は嬉しそうに笑って

「ふふっ、嬉しいこと言ってくれるじゃん。瑞希ちゃんは簡単に超えれると思うけど紅羽先輩は手強いぞ〜」

 と自信満々に言い切った。


 部活に入部する意志を紅羽先輩に伝える事は出来た。

 入部届けは書いて担任の先生に提出すればいいし、あとは大丈夫……だよね。

 帰る時にお金は僕が払う、これは最初から決めていたことだ。


「あ、優人君。こっち向いて」


 振り向くと僕の頬に付いていたご飯粒を紅羽先輩は取って食べた。


「まだまだ優人君はお子ちゃまだね〜。可愛い!」


「もう、完全に恋人のやることですよ? それ」


「いっその事恋人になっちゃおうか!」


「なりません」


「ちぇー」


「でも、前向きには考えますよ。前は付き合うなんて絶対嫌だと思ってましたけど最近は付き合ってもいいんじゃないかな? と思い始めてますし」


「え? ……本当?」


「でも、変な事をしたらすぐに考えが変わりますからね?」


 一応警告はしておかないと。

 事前に防げるように対策をしておくのは必至だ。

 お互いにご飯を食べ終え少し休憩した後、会計に向かった。

 レジで店員さんに伝票を差し出し

「お会計お願いします」とお会計をする。


「お会計が全部で2380円です」


「瑞希ちゃん、ちょっと鞄持っててもらってもいいですか?」


「あ、うん。わかった」


 あえて荷物を預けてお財布を取り出せないようにする。

 これで紅羽先輩はお金を払うことは出来ない。

 我ながら頭がいいと思う。

 2500円を出しお会計を済ませる。


「ありがとうございました。またお越しくださいませ」


 店員さんの挨拶を聞きながら店を出た。

 店を出て紅羽先輩から鞄を返してもらう時にお金を一緒に渡そうとしてきた。


「奢って貰う訳にはいかないよ。うち先輩だよ? 寧ろ奢る側なのに」


「いいですか? 先輩後輩、男女だから奢るとかじゃなく、瑞希ちゃんだから奢ったんです。それに矢筒も貰いますし、値段でいったら瑞希ちゃんの矢筒の方が高いですよ?」


「もう……うちより対応が先輩っぽいじゃん」


「そんなことないです。瑞希ちゃんはしっかりとした生徒会長、弓道部部長なんですから」


 実際生徒会の仕事、弓道部の部長をこなしてるしすごい人だ。

 僕は絶対出来ない。片方ですらまともに出来るとは思えないし両立ともなると絶対混乱してしまう。

 雑談しながらいつも別れる公園まで歩いてきた。

 街灯があるからまだ明るいように見えるが日没しすっかり真っ暗だ。

 またLINEしますと伝え帰路に就こうとした時

紅羽先輩が抱きついてキスをしてきた。


「ご飯奢ってもらったお礼とかのつもりじゃないけど、好きの証と付き合って貰えるようにひと押しの気持ち。

 ……それに、今のは別に変な事じゃないよね?

 うちは優人君のこと大好きだから、今日はありがとね」


「え……あ、はい」


 今度は意識を失くす事はなかったが

 突然の出来事でまともに返事をすることが出来ない。

 唇に残る優しく柔らかな感触。

 紅羽先輩の目が顔が数センチの距離にある。

 目と目が合いまた時が止まる感覚に襲われる。


「ねぇ、今時が止まってない?」


「は、はい。時が止まってると思います」


 なんて馬鹿な会話だろう。

 でも、実際に時が止まっているように感じるんだ。

 心臓がいつもより五月蠅く感じる。

 視覚と触覚は完全に紅羽先輩に支配されている。

 いや、息を吸えば嗅覚が声を聞けば聴覚も支配されてしまうだろう。


「本当にこのまま時が止まってくれればいいのにな……」


「え?」


「ねぇ……もうすこしだけぎゅーしててもいい?」


「はい。大丈夫ですよ」


 今日の紅羽先輩はかなり甘え気味だ。

 まるで飼い主に甘える小型犬のよう、僕に抱きついたまま離れようとしない。


「ねぇ、またさ放課後デートしようよ。

 今度は部活が休みの日にさゲームセンター行こ?」


「そうですね。部活がなければゲームセンター行ってからご飯食べて帰っても遅くはなりませんからね」


 次のデートとはいってもいつになるか分からないけど約束を立てた。

 それに、今度……いや今後は紅羽先輩を泣かせない。

 もう涙は見たくない。紅羽先輩にはずっと笑顔でいて欲しいんだ。


「ねぇ、今度うちに……」


「なんですか?」


「いや、なんでもないや。気にしないで」


「?」


 何を言おうとしたんだろう。

「うちに」とか言ってたけど何か考えている作戦とかあるのかな?

 とにかく、紅羽先輩と仲直りが出来たし万事解決かな。


「あ、忘れてた」


 そう言うと抱きつくのをやめ、先程購入した矢筒から調整して貰った矢を取り出し矢筒を渡してきた。


「え……? これ瑞希ちゃんの矢筒ですよね?」


「うちは自分のあるもん。この矢筒は優人君のものだよ」


「あれ? 待ってください。矢筒って高いですよね?」


「値段は関係ないの。あ、やっぱり関係ある!

 いい? うちを部活でもっとドキドキさせて!」


「ドキドキ……?」


「恋愛じゃないよ? 弓道でドキドキさせて欲しいんだ。

 最近は部活や学校生活じゃ全然ドキドキ出来てないからさ。

 今までだって何となく推薦されたから生徒会長に立候補したらなっちゃったし、弓道部の部長も指名されてなったって感じで流されるような生活しててさ……」


「そうなんですか……」


「部活紹介もめんどくさいと思いながらも壇上に立った時に優人君と目が合ったんだ。その時だよ! うちが学生生活で1番ドキドキしたのは。だから期待してる」


「困ります……期待に応えられるか分かりませんし」


 そう、僕は期待されるのが苦手だ。

 いくら過度な期待をされても皆結果ばかりを見て批判や称賛してくる。

 そこに行くまでの過程なんかどうだっていい。

 大人なら尚更結果ばかりを求め見て判断する。

 判断材料が数字でしか見ることが出来ず、結果が伴わなかったら熱意や過程はなかったことになる。それが今の社会だ。


「ううん。優人君なら大丈夫!」紅羽先輩が肩を掴み自信満々に言った。


「え……?」


「いや、結果を出すなってわけじゃない。出してくれた方が嬉しいよ? でも、結果ばかりを気にしてていいプレーなんて出来ないでしょ?」


 肩から手を外しもう一度抱きついた。


「大丈夫、今から緊張する必要なんてない。

 緊張するのは人生の大事な場面だけにしておくの。

 面接とか……プロポーズとかさ」


「両方とも緊張が常に付きまとうイベントじゃないですか!」


「練習してみる? ……そのぷ、プロポーズの練習してみる?」


「してもいいんですか?」


「ふぇ!? や、やだな~。冗談だよ。

 プロポーズは大事な人にしかしちゃいけないんだよ?」


 紅羽先輩が慌てて僕から離れる。

 所々可愛い一面が見えるのがずるい……。


「大事な人か~。今大事な人って思い当たるのは瑞希ちゃんだけですかね」


「え、えええええ!?」


「さっき言いましたよね? 『最近は付き合ってもいいんじゃないかな?』と思ってるって」


「い、言ってたけどさ。……付き合えないんでしょ?」


「……はい、付き合えないです。

 でも、大事な人に変わりはありません! でも、それ以上に弓道に力を入れたいんです」


「そっか、なんか残念な気もするけど……うちも吹っ切れた。弓道頑張ろうね!」


「はい! 頑張ります」


 紅羽先輩と握手をして弓道を頑張ることを誓った。

 その日は紅羽先輩に買ってもらった矢筒を背負い今後の事を考えながら帰宅した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘ください。



ご意見ご感想なども大歓迎です。

☆の評価もよろしくお願い致します。

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