ご飯と雑談
少しすると店員さんがオーダーを取る用のハンディを持ってやってきた。
「お待たせいたしました。ご注文お決まりですか?」
「はい。唐揚げ定食を一つお願い——」
「あ、唐揚げ定食二つにしてもらっていいですか? 片方はご飯を少なくで、あとドリンクバー2つ。以上でお願いします」
「え、あ……」
「大丈夫、うちに任せて」
そう言うと紅羽先輩は注文を終わらせてしまった。
何だろう? たまたま同じ料理を食べたかったのかそれとも同じ料理にしたのか。真相はわからないけどもし前者なら完全に息はぴったりということになる。
注文を取り終えると店員さんは「少々お待ちください」と言い丁寧にドリンクバーの説明をしてから厨房のほうに向かった。
確認してみる必要がある……あとデザートはよかったのかな?
「瑞希ちゃん?」
「んー? どうしたの?」
「僕と同じ料理でよかったんですか? ほかにもいろいろなおいしそうな料理とかありましたけど」
「だってさ、優人君と同じものを食べたいんだもん。……ダメだった?」
「別にダメなんてことはないですよ。あ、僕ドリンク持ってきます、何がいいですか?」
「んー、オレンジジュースがいい!」
紅羽先輩のリクエストを聞いてドリンクバーコーナーに向かう。
僕はここではメロンソーダにしよう。
コンビニとかでメロンソーダを売ってることがなかなか無くてレアだからね。
グラス2つ用意、氷を入れてオレンジジュースとメロンソーダを入れる。
一応ストローを持って席に戻りましょう。
「おまたせしました〜。ご希望のオレンジジュースです!」
先程の店員さんを真似てジュースを渡した。
「ありがと」と優しい笑顔で言いながら受け取ってくれた。
この笑顔……守りたい。
ずっと隣で僕だけにこの笑顔を見せていて欲しい。
紅羽先輩の顔をじっと見ていると「な、何……? うちの顔なにか付いてる?」と困りながら言った。
「あ、いえ別に付いてないですよ。その……笑顔が素敵で可愛くて……守りたいっていうかなんていうか……」
数秒の沈黙。世界が時を刻むのを止めたように音が聞こえなかった。慌てて我に返る。
は? 何を言ってるんだ? いや、事実だけど、今言うべきじゃないでしょ!
紅羽先輩を見てみると俯いたままこちらを見ようとはしてくれない。
やってしまったと頭を抱えようとした時
「優人君……ずるいよ」と小さな声が聞こえた。
「へ?」
「うちの気持ち全く考えてないでしょ? 女の子が喜ぶようなことを平然と言っちゃダメだよ?」
「なんでダメなんですか? 実際に瑞希ちゃんのことは守りたいって思ってますよ」
「優人君さ、自分が何を言ってるのかわかってる?」
何って紅羽先輩のことを守るって言っただけだし。
人として守ったり助け合ったりするのは普通のことじゃないか。
それの何がおかしいと言うんだろうか?
「男として守るのは当然と思います!」
何も間違ってない、確信した僕は自信満々に言い切った。
紅羽先輩は顔を赤くさせ手で覆い隠した。
「確認だけどさ……告白と思っていいの?」
「え、えええ!?」
告白!? え、まったくそんなつもりなかったんだけど……。
告白になってしまうのか。
急いで弁明しないと、怒られるかもしれない。でもこのままにしておいてズルズル引っ張っていくほうがもっと怒られるから早く解決しておかないと。
「ごめんなさい。告白なんてつもりなくて、でも瑞希ちゃんを守りたい気持ちは本気なんです」
一生懸命、精一杯、出来る限り思いを伝えた。
少し間をおいてから「ありがとう……これからよろしくね」と紅羽先輩は言った。
「任せてください!!」
紅羽先輩に対する気持ちが段々と強くなっていることを感じた。
少しすると注文した料理が運ばれてきた。
さすが定食! ということもあり唐揚げに刻まれたキャベツ、数枚にカットされたトマト、マヨネーズが添えられていた。
ご飯と味噌汁も適量、漬物も適度にあり素晴らしい分量だ。
「「いただきます!!」」
二人で一緒に手を合わせて唐揚げ定食を食べ始めた。
表面はパリパリ中からジューシーな肉汁が溢れ出てくる。
お米も噛めば噛むほど甘さが出てきて唐揚げと一緒に頬張ることでさらに甘さが増す。
やっぱりメロンソーダは失敗だったか。ん? 紅羽先輩ってオレンジジュースだけど大丈夫かな?
紅羽先輩のほうを見てみると僕と同じようにご飯と唐揚げを頬張り満足そうにした後オレンジジュースを飲んだ。
その瞬間苦虫を噛み潰したような顔をした。
「瑞希ちゃん、お茶持ってきましょうか?」
「う、流石に定食にオレンジジュースは厳しかったね」
「お茶持ってきますね」
ドリンクバーコーナーに無料で貰える水とお茶があったので温かいお茶を2つ貰うことにした。
ジジくさいかもしれないけどやっぱり温かいお茶が定食には合うんだよ。
「おまたせしました〜。温かいお茶で良かったですか?」
「うんっ、ありがとね。お茶まで持ってきてもらっちゃって」
ご飯と唐揚げを食べてお茶を飲む。
これこれ。やっぱり定食にはお茶しか勝たん!
ふと紅羽先輩を見るとメロンソーダを飲んでいた。
!!!!????
え、あれ? メロンソーダ?
持ってきたのってオレンジジュースだったよね?
メロンソーダの横にはオレンジジュースが置かれていた。
「えっと、メロンソーダって僕のですよね?」
「そうだよ? うちはオレンジジュースだもん」
当たり前のように言ってきた。
なんでこうも平然としていられるんだろう。
意識しないように頑張っても無理だ。
だってさ、間接キスに近いことしてるよね?
「とにかくメロンソーダ返してください」
「ごめんってば。怒らないでよ」
「別に怒ってませんよ」
「うちのオレンジジュース飲んでいいからさ」
紅羽先輩はメロンソーダを返すのと一緒にオレンジジュースを渡してきた。
これ、紅羽先輩が飲んでたんだよね?
意識しちゃダメなのに……頭ではわかってるはずなのに。
「オレンジジュースは瑞希ちゃんが飲んでください」
「むぅー。飲んでくれないのか」
紅羽先輩は残念そうにオレンジジュースを自分の所に持ってきた。
しばらく様子を見ていると唐揚げを1つ箸でつかみ持ち上げた。
そのまま食べるんだろうなと思っていると
「優人君」
「な、なんですか?」
「はい。あーん」
は? え? こ、これってもしかして、いや、もしかしなくても食べさせてもらえる……のか?
紅羽先輩に!?
ある意味夢のシチュエーションだ。
紅羽先輩と目が合う見つめ合う。
心臓が飛び跳ねるのを感じた。口の中の水分が急激に無くなり乾く。
紅羽先輩から唐揚げを食べさせてもらう。
さっきと同じはずなのに緊張のせいか味が全く分からない。
心臓もさっきよりも激しく鼓動している。
お茶で流し込んで平静を装う。
そのうち心臓発作とかで急逝するんじゃないだろうか。
お茶を飲みながら心を落ち着けていると
「優人君、うちも唐揚げ欲しいな〜」
唇に人差し指を当ててアピールしてくる。
やっぱりこうなるのか……。
貰った以上返さないといけないとは思ってたけどさっきと同じようにして食べさせないといけないってことですよね?
鼓動がやっと落ち着き始めたはずなのにまた早くなるのを感じた。
食べるのは良かったけど食べさせるのってなかなか難易度が高いんじゃ……? というか、ものすごく恥ずかしい。
無意識に周りの視線が気になってしまう。
他のお客さんたちは僕たちのことなんて眼中にないんだろうけど僕自身が大問題だ。
箸を持つ右手が震える。
唐揚げを一つ掴み紅羽先輩の口元へと運ぶ。
「いただきまーす」
艶のある声で紅羽先輩が言った。
なんでこんなに意識してしまうんだろう、まだ付き合ってもないのに。
あ、そういえば紅羽先輩に言わないといけないことがあるんだった。
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