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ショッピングモールでデート

「ごめんね〜待った?」


 矢の調整を終えた紅羽先輩が走って弓具屋さんから出てきた。


「全然大丈夫ですよ‼︎ あれ? 矢は?」


「矢は調整してもらってるよ〜。後日郵送してくれるって」


「よかったですね。まだ買い物行くのに荷物があるとなると移動が大変になっちゃいますからね」


「優人君さ敬語ってどうにかできないかな?」


「え……け、敬語ですか?」


「そうそう。仮にもさ友達なんだしデート中なんだからさ〜。敬語はやめて友達感覚で話そうよ」


「は、はい。わかりました」


「敬語使ったらお願い事聞いてもらおうかな〜」


 はい!? そんな無茶な……


「紅羽先輩‼︎ そんなのめちゃくちゃです‼︎」


「「あ‼︎」」


「優人君‼︎ 今まで言わないように気をつけてたみたいだけどいよいよ言ってしまったね。ふふふ」


「うぅ……」


 つい流れで言ってしまった。

 今まで言わないように細心の注意を払っていたのに。

 別にお願い事を聞くのは大丈夫なんだけど一体どんな無理難題を押し付けられることになるんだろうか?


「お願い事聞いてもらうよ?」


「は、はい……」


「その……うちと手繋いでもらってもいい?」


 ……え? 手を繋ぐだけでいいの?

 もっと過剰なお願い事をされると予想していたから

 例えば、今すぐ付き合ってとか入籍予約とか。

 まさか手を繋いで欲しいのをお願いしてくるとは。

 紅羽先輩ってもしかして常識人だったりするのか?

 わからない……戦略なのだろうか?


「分かりました。手繋ぎましょ」


 僕は戸惑いながらも優しく声をかけながら手を差し出した。


「やったー‼︎」


 紅羽先輩は嬉しそうに僕の差し出した手を握り返した。

 手から伝わる紅先輩の体温が意識を引っ張っていく感覚に襲われる。

 それに心なしか普段より鼓動が早くなっている気がする。

 一体どうしちゃったんだろう。

 いつもの僕じゃない。紅羽先輩に主導権を握られているような……。


「優人君……?」


「は、はい!!」


「どうしたの? ぼーっとしちゃって。

 あ、もしかしてうちと手を繋いだのが嬉しかったとか?」


「あの……僕、女性と手を繋ぐの初めてなんですよ」


「あれれ? 初めてじゃないはずだよ?

 "キス"した時の記憶は残ってないかな?」


 う……なんとなく覚えているような覚えていないような記憶が。

 そっか。

 僕は紅羽先輩と手を繋いだ時に動揺しちゃってキスをして意識を失ったんだっけ。

 教えてもらった情報しかないから確証はないんだけど……。


「……手を繋いだ後の記憶はないです」


「もう一度うちと"キス"してみる?」


 紅羽先輩はもう片方の手の人差し指を唇に当て意識させてくる。

 もしもう一度キスをしてしまったら僕の意識はなくなってしまうのだろうか?

 いやいやいや、何を考えているんだ僕は。

 前のキスは事故だから事故……だから。


「キスはダメです!! また意識を失う可能性もありますし。

 それにもしするならしっかりとお付き合いをしてからにしましょう!!」


「優人君しっかりしてるね~。

 ますます惚れ直しちゃったよ!! でも悪いことしちゃったな……」


「悪いこと? ……ですか?」


「ほら、うち優人君に確認せずキスしちゃったから」


「前のキスのことは忘れ……いや、忘れちゃいけませんね。

 忘れませんけど、事故ということにしておきませんか?

 僕も記憶が曖昧になっちゃってて申し訳ないですし」


 これからは唐突な出来事にも意識を保っていられるように頑張っていこうと思う。

 何をどう頑張ればいいかは全く見当がつかないけど。


 取り敢えず今はデート中なわけだしそろそろお腹も空いてきた。

 紅羽先輩はお腹空かないのだろうか?

 12時のピークになると飲食店も混んでくるしできることなら早い段階で飲食店でご飯を済ませておきたい。


「み、瑞希ちゃんはお腹減っていませんか?」


「優人君ー。敬語だよ? やっぱり意識して直すのは難しいかな?」


 あ、しまった。敬語直さないと……。

 意識していかないと無意識に敬語になってしまう。


「やっぱり少し難しいで……す。

 ごめんなさい。もう少しだけ敬語でいてもいいですか?

 努力するので」


「……うーん。もしかして敬語の優人君が楽しめるのは今だけだったりする? そうなるとこのままの方が……」


 発言からして何かよからぬ事を考えてるのはわかる。

 既に僕は紅羽先輩の手のひらで転がされているかもしれない……。

 他人に主導権を握られるのは嫌なはずなのに……なんでだろう。

 紅羽先輩になら全てを委ねていいような……いや、Mとかそういうのじゃないよ? なんだろう……この気持ち。


「ま、まあすぐには敬語を直すのは無理なのでお願いします!!」


「そうだね!! しばらくは敬語の優人君を楽しむとするよ」


 ……いいのか? まぁ、なんとなく納得してくれたみたいだし良しとしよう。

 当たり前のことだけど、学校ではしっかりとした態度をとってくれるんだよね? まさか「優人君!!」とか呼ばれたりしないよね?

 先輩のことを悪く言うつもりはないけど大丈夫だろうか……心配でしかない。


「とりあえず、ご飯食べませんか? お腹減ってますよね?」


「あ、そうね。ご飯……優人君は何か食べたい物とかある?」


 食べたいものはない。

 ……いや、正直言えばラーメンが食べてみたいけど紅羽先輩とデート中でましてや初デートだし避けるのが正解だろう。


「和食とかは……瑞希ちゃん食べれますか?」


「優人君? ひょっとしてうちのことからかってる?」


「いやそんなつもりは!! ほ、ほら今日は和食の気分じゃないとかありますよね? ね?」


 後先考えずに発言すると揚げ足を取って来る。

 なんというんだか紅羽先輩は変なところに長けている気がする。

 流石生徒会長兼弓道部部長といったところだろう。


「どうしようかな〜。和食か洋食か。あ、中華もいいかも!!」


 どんどん自分の世界に入ってしまっている紅羽先輩。

 和食だけ提案したはずなのに色々なジャンルの料理が展開されて行く始末にどうすることもできない。

 一体どのジャンルになるんだろうと紅羽先輩を見ていると「決めた!!」と元気よく言った。


「どこにするんですか?」


「優人君が決めてくれたところにする!!」


 はい? ……え? さっき「決めた!!」って言ったよね?

 場所を決めたんじゃないの? 僕に全部丸投げにすることに“決めた”ってこと?

 そんな無茶苦茶な……。


「とんかつとかの油物は大丈夫ですか?」


「おお!! とんかつか〜。久しぶりに食べるな〜。やっぱり優人君はセンスがいいね!」


「センスなんてよくないですし、ありもしません」


「またまた〜。うちは知ってるんだよ? その類い稀なる奇跡のセンスなんだよ!!」


「もう、なんですかそれ」


 どんどん紅羽先輩のペースに陥ってる感じがすごくするけど最初の時と比べるとものすごく楽しい。

 中学生の時は女子生徒を避けて生活していたけどもう少し積極的に話してみればよかったな。

 高校生になったわけだしこれからは積極的に色んな人と話してみよう。


 僕と紅羽先輩は一緒にとんかつ屋さんで定食を注文した。

 注文するとまず胡麻とすり鉢を渡された。

 胡麻をすり潰して風味を出し、ソースと合わせてとんかつに付けて食べる。


「とんかつって胡麻を使うんですね」


 とんかつを店で初めて食べたため胡麻を使うということを知った。

 紅羽先輩と向かい合ってとんかつ定食を食べ進めていく。

 真剣に付き合うことになったら毎回向かい合ってご飯を食べたりするのだろうか。

 家族や友達以外とご飯を食べることなんてなかったから新鮮で悪くはないんだけど……なんだかむず痒い。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字、変な表現などありましたらご指摘お願いいたします。

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