ヤンデレ妹から逃げ出した俺は金魚に転生しても逃げられない。
ここはどこだ?水の中?その割に苦しくないな。
いや、ともかくあいつから逃げないと!
って、あれ?体が思うように動かない。
というか足の感覚がないぞ?
ちょっと待て。落ち着け俺。
まず、ここはどこだ?
感覚的に水の中なのはわかる。
ただ暗くて周りがよく見えないな。
体は違和感だらけ。腕はあるけど手がないし足もない。
いや、感覚がないだけだろう。さすがに。
なんで息が出来てるのかはわからない。
うまく動けないしわからないことだらけだ。
まずは、さっきまでのことを思い出してみよう。
そう、妹から逃げてたんだ。
高校生になった妹は何かにつけてオリジナル手料理を作ってくれるようになった。
察しの良い人ならわかってくれてると思うが、まともな料理が俺の前に出たことはない。
最初にうっかり褒めてしまったのが全ての始まりだった。
とはいえ、妹が手料理を作ってくれて褒めないなんて俺には無理だった。
それにはじめはただ失敗しただけの普通の料理に見えたんだ。
次以降も食べてしまったのは最初に褒められた妹の「お兄ちゃんだーいすき!」と言った笑顔に負けてしまったのもある。
何かがおかしいと感じたのは五度目の手料理を食べた後。
そのときも俺は作ってくれた嬉しさで自然と笑顔になり礼を言っていた。
しかし、気が付くと、風呂も着替えも終わった状態でベッドで横になって朝を迎えていた。
学校の課題も終わっている。
そこでちゃんと問い詰めればよかったのかもしれないが、勘の悪い俺は妹が何かをしたなどと気付けなかったんだ。
それでも何度目か後にはさすがの俺も気付いた。
だけど、妹の料理を目の前にすると何故か食べないという選択肢がない。
どうやら何かしら依存するように仕向けられたらしい。
そして、学校が夏休みに入った三日前から両親が仕事の都合で来月までいない。
その間俺は家を出られていなかった。
いや、正確には家にいる記憶しかない。
気付けば朝で、次に気付けば昼食が目の前にあり、夕食がある。
その間何をされているのか、自分が何をしているのか全くわからない。
幸い、それ以外に体に異常はないし、汚れも傷もない。
むしろちゃんと風呂にも入っているようだ。
そのことが俺の恐怖を呼び、朝食を目にする前に家を飛び出したんだ。
そうだ!それでどこにいても妹が追いかけて来るような不安にとり憑かれて走って――
――トラックに撥ねられたんだ。
俺、死んだのかな?
あれ、じゃあ、この記憶は?昨日今日じゃないのか?
ようやく現状を察して混乱していると、パッと明るくなる。
!!
なんだこれ!?
金魚だらけ?
俺が居たのは大きな水槽で周りには多種多様な金魚が泳いでいた。
もしかして――俺――も?
「問題なさそうだな」
「はい、しっかり管理してますから!」
「ウチはコレで稼ぐんだから頼んだぞ」
「任せてください!」
話し声が聞こえた。
どうやら俺含む金魚は売り物か何からしい。
「ほーら、しっかり食って重くなれー」
管理を任されていた男がエサをばら撒く。
!
体が勝手にエサに向かってる。
味覚はないらしい。
それでも体はエサを求めるようだ。
完全に俺が金魚だと自覚した瞬間だった。
そして数日後、俺は祭りの屋台の水槽の中にいた。
そう、俺は金魚すくいの標的だったのだ。
これはどうするべきか。
ちゃんと飼ってくれそうな客に掬われるのが正解なのか?
そんなことを考えているうちに何度か紙ポイが俺を掬おうとして破けていく。
ん?もしかして俺重いのか?
周りの金魚を掬った客も俺は掬えないようだ。
むしろ救ってくれ。
俺のそんな願いは最悪な方向で叶うことになる。
「お兄ちゃん、みーつけた」
妹だった。
なぜ俺だとわかったのかはわからない。
妹は間違いなく俺を見つめている。
そして、妹を見る為に止まった隙を突かれ、俺はあっさりと妹に掬い上げられた。
「ふふふ、こんなところにいるなんて。やっぱり死んじゃったなんて嘘だったんだね」
袋に移された俺を見つめて妹はご機嫌でそう言う。
やっぱり"俺"は死んだんだな。
「お兄ちゃん、すぐわかったよ」
「お兄ちゃん、こんなに可愛くなっちゃって」
「お兄ちゃん、お友達とかいらないよね?」
「お兄ちゃんには私がいるもんね!」
妹は矢継ぎ早に話しかけて来る。
妹の笑顔が怖い。
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
「お兄ちゃん――」
最早マシンガンか何かだ。
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」
途中からもうそれしか言ってない。
俺には聞く以外の行動はとれない。
そして久しぶりの家に帰ってきた。
「私が今度こそちゃーんと飼ってあげるからね」
一瞬意味がわからなかった。
そして理解して戦慄する。
俺はこの妹を止めることも自力で逃げることもできずに飼われることになった。
「お兄ちゃん、だいすきだよ」
お読みいただきありがとうございます。
夏といえば夏祭りに金魚すくい!と思って話を考えていたのになぜかこんな話が出来上がっていました。
評価とか感想あれば聞かせてください。




