9: 黒猫のような魔女③
それはなかなかに、それなりに、なんともいじらしい青春と友情の光景だったように思う。
写真機がないのが悔やまれた。できれば残しておきたいと思った。
青春の、魔女学校での思い出の記録として。
なんだかんだ、僕はこういうのに憧れていたのだ。
隣国式の、上流階級の、とまでは行かずとも。
学校の寮。小さな部屋に、友達とふたり。こうしてくだらないお喋りに興じて、けらけら笑い合うような。
そういう、いかにも学生らしいことを、一度くらいはしてみたかったのだ。
「そうかしら……? 学生らしいこと……?
学生らしい、魔女のたまごらしい、そういう他愛もないおしゃべりの――つまりお茶会の会場としては、こう、あまりにもあんまりだと思うのだけれど」
ここに暮らしているのよね、あなた――落ち着きなく壁や天井を見渡すアガサ。
曰く「悪魔の館」だと、その例えは正直よくわからなかった。
なんでも、有名な活動写真の、確か二年くらい前に流行った、交霊会の話の。
それに出てきた館にそっくりなのよここって、と、だから見てないし知らないって言っているのに。それでも無理矢理押し切ってしまう、僕が好きなのはアガサのそういうところだ。
「あれはただの活動写真で、だから作り物の、嘘っぱちだけれど。
でも、逆に考えてみて? わざと怖がらせようとして作った館がああなのよ?
もしかしてここ、あなたのお家も、わざとやってるんじゃないかしら……」
きょろきょろと、蜂蜜色の長い髪を揺らして、いもしない何者かの影に怯える様子の彼女。
初めて見せる仕草で、でも思いのほかよく似合っていた。たぶん小柄なせいだと思う。よくちび扱いされる僕よりも背が低くて、特に手足の細さが際立っていた。
なんだか守ってあげたくなるような、実に可愛らしい姿だったと、本当ならそうなっていたんじゃないかと思う。
たぶん、そのあまりにも無骨な髪飾りさえなければ。
そういえば、もうしばらくしたら日が暮れる。
僕は想像した。
夜の暗闇の中、ぼうと浮かび上がる鉄仮面。
結構な絵面だ。夜中、お手洗いに向かう途中にこんなのがいたら、きっと大変なことになると思う。後々。お掃除とか。
「そうだアガサ、一応いまのうちに言っておくけど。
僕、〝お化け〟だけはダメなんだ」
「そうね、うん、そう――そうなの?
待ちなさいおかしいわ、あなたこんなところに住んでおいて」
そこまで一息に言ったあたりで、突然「――ああもう!」とぶんぶん頭を振るアガサ。
驚いた。やめてほしい。そういうの苦手だって言ったばかりなのに。
「ねえ! あなた、さっき学生らしい、えっと、青春の、友情がどうとか! そう言っていたわよね?
だったら、ねえ。いまわたしたちの間には、とっても大切なものが欠けていると思わない?」
なんだろう。
こう、誠意とか。そういうのを見せろ、みたいな話だろうか。
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