7: 黒猫のような魔女①
できればもうひとり欲しいという、アガサの意見はもっともだ。
僕だって、伊達に空を飛んでいるわけじゃない。
伊達で飛んでいるかもしれないけれど、飛ぶことの意味くらいはちゃんと理解している。
と、思う。一応。自分の中では、そのつもりではあった。
この国、バルダヴィシュ共和国における魔女の文化。
源流はお隣の魔法大国、リストフレネアのそれと同一なのだけれど。
それでも結構な違いがある――というか、たぶん大国への対抗意識からか、差異を殊更に強調するような形で発展してきた、そういう面倒な歴史がある。
本当かは知らない。でも学校ではそう教わった。まあ嘘ではないと思う。
だって実際、魔法に限らず、この国は全部そんなのばっかだ。
何かにつけてはお隣お隣。そのお隣さんが立派すぎるのがいけないのだけれど、この国の文化や国民性みたいなものって、大抵「隣の芝生は青い」で語れてしまう。
だから、この〝一緒に飛ぶ〟という行為について。
僕の知識がどこまで通用するのか、そしてアガサがどの程度、〝こっち〟の常識を知っているのか。
その辺りが不安だったのだけれど――これはアガサが悪い、だって彼女は明らかに世間知らずで、実際ほとんどこっちの文化を知らなかったのだから!――少なくとも「僕らふたりだけじゃ無理」という、その現実に関して意見の一致を見たのは、まあ幸運だったと言えると思う。
あとひとり要る。
いいや、ひとりと言わず、何人でも。
それが競技形式であれ、あるいは儀礼飛行の類であれ。
本気で空を飛ぶならどうしても、『組』が必要になってくる。
それはお隣の、僕がいつか見た、あの魔女たちだってそうだった。
まず箒の乗手だけでも、ひとチームに正・副・控の三人くらいはいる。
それに箒の造手や整備手だとか、各種のケアやサポートをするお手伝いさんだとか、なんかそういうのがわちゃわちゃいるんですよ、と、ただの聞きかじりにせよでもそう聞いたことがある。
「それを、ただの野良猫と、あと潰れたひきがえるだけじゃ、ねえ?」
飛ぶには全然足りないでしょ、とアガサ。
僕は頷く。足りない。人も、技術も。そこに異論はまったくなかった。
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