5: 潰れたひきがえる③
逆説、少なくともここいらには、僕の他にはいなかった。
彼女の〝魔法〟を、魔法と認めるような魔女は。
どうして認められようものだろう?
だって、誰もが憧れるような絢爛極まるドレスに、なんら実用性のない見た目ばかりの魔具だ。
金持ちの道楽としての魔法。
お隣の、大国の貴族の、お嬢様たちの嗜みとしてのそれ。
ふざけた話だ。そんなの、もはや魔法とも呼べないお飯事だ――なんて。
そんな話だったら、まだ慰みにもなったのに。
実情は逆だ。
悲しいかな、僕たちの魔法こそが児戯なのだ。
力ある大国の、大規模かつ歴史的な研究・教育施設の、最先端のそれはまるで次元が違う。
修めるだけの価値のある学問であり、同時に現代に伝わる数少ない〝生きた技術〟としての魔法。
あらゆる面においてこの国の、僕たちのそれを凌駕しているのだと、その程度のことは掃き溜めの住人にだってわかる。
リストフレネアの魔女たちの、その飛ぶ姿を一目見たならば。
僕は知っている。
あの国の、若く美しい魔女のたまごたちは、まるで踊るかのように空を飛ぶ。
舞うように飛んで、飛ぶように舞う。
箒での飛行というものは、実のところ地味な技術の積み重ねだ。
例えば飛ぶことを覚えたばかりの魔女、その飛び方はいかにも不恰好なものだと、それは僕自身にも覚えのあることだ。
――彼女たちにもそんな時期があったのだろうか?
とても、そうは思えない。
想像がつかない。かつて僕の見た光景、正式な魔女たちの飛ぶ姿は、まさに大空を舞い踊る鳥そのものだった。
彼女たちはこのために、飛ぶために生まれてきたのだと、なんの疑いもなくそう思えた。
空を飛ぶために生まれてきたのだから、生来飛ぶ能力が備わっていて当然だ。
そう思っていたから、驚いた。
初めて見たのだ。例外を。
「それにしても、なんとも個性的な飛び方をする鳥がいたものだね?
こんな小国の、掃き溜めの、およそ飛ぶために生まれた生き物じゃない、言えてもせいぜい野良猫といった程度の――これは自慢なんだけど、僕は生来木登りだけは得意なんだ――この僕にまさか、こうもたやすく撃ち墜とされる鳥がいただなんて。
そんなの、聞いたことがない。まさか、雛鳥って歳でもないでしょう?」
だいたいわかると思うのだけれど、このとき、僕はすっかり上機嫌だった。
まあ僕にしてみれば当たり前の話で、だって新しい友達ができたのだ!
それも、こんなに美しい子だ。所作のひとつひとつがおとぎ話のお姫様のようで、そのくせ飛び方は潰れたひきがえるのそれだ。
こんなに面白い、見ていて飽きない、よく磨いたガラス玉みたいなキラキラした友達、まったく初めてのことだった。
まあ、それも当然といえば当然のこと。
だって、僕の見立てじゃこの子は貴族だ。絶対いいとこのお嬢様だ。
文字通り、住む世界がまるで違うのだ。
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