2: 屋根の上の二魔女②
だいたい一週間前のこと。
「ねえあなた! 空を飛んで欲しいの! わたしと!」
それが初対面の挨拶で、断る理由なんかこれっぽっちもなかった。
結果的には。最後には結局承諾することになって、つまり最初は「誰こいつ」くらいの感想しかなかった。
だから、撃ち墜とした。
夕暮れの空、僕に追いすがる謎の鉄仮面の、悲鳴をあげて落ちていくその様がとても愉快だと思った。
気に入った。
その絵面が。断る理由も道理もなくて、だって馬鹿は面白いから、好きだ。
あれから数日。
夜空の下にふたり、僕はアガサに問いかける。
「あのさあのさアガサ、重くないの、鉄仮面」
彼女の答えは単純だった。
「ねえあなた、それ何遍聞くわけ? 私は何度『重い』って答えたらいいのかしら? あなたはいいわね軽そうで、肩も凝らないでしょう? そんなに空っぽなんだから」
実にシンプルで、加えて、
「――っていうかそれ、いま聞くこと?」
なんて金切り声をあげる、この正体不明の鉄仮面は本当に何度見ても飽きない。
鉄仮面のくせに上等なドレスを着ているのもよかった。
赤いドレスだ。それも、ただの赤じゃない。こんなに真っ赤なのに全然下品な感じがしなくて、きっと染料が特別なんだと思う。
生地そのものも見たことがなかった。不思議な、落ち着いたその控えめな光沢は、少なくとも僕には覚えがなかった。
身も蓋もなく言うなら、高級品なのだろう。貧民の僕が知らない、ということは。
貴族か何かだろうか。
まあ、別になんだって構いやしないのだけれど。
でも、どうせなら本当に貴族だったらいいな、と思った。
貴族がドレス姿に鉄仮面で箒に跨る、そんな馬鹿な話は聞いたことがない。
あるいは『馬鹿の話』でもいい。実にちぐはぐで、あべこべで、まるで存在そのものが世の道理に喧嘩を売っているかのような、そんな道化のようなところが実に馬鹿っぽくて、好きだ。
「きみは僕の好みのタイプだ」
素直な心情の吐露、そこに「――だからそれ、そういうのいま」と、そこで一旦詰まって結局、
「あんた、本ッ当にバカなんじゃないの!」
と、青筋立てて吐き捨てる――そんなはずはないのだけれど、でもまるで目に浮かぶようだった。彼女の顔を覆う鉄の肌、そこにメリメリと、熱を帯びた亀裂のような何かが走るのが――そんな僕の理想の女であるところの彼女、鉄仮面の少女、アガサ。
それは恐ろしく馬鹿で、愛らしく、そしてそこそこにジョークの才能のある、僕の相棒。
彼女はしかし、魔女ではない。
――〝女魔法使い〟。
そんな言葉は本来、存在しないのだけれど。
でも言うなれば、きっと、そうなるのだと思う。
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