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1: 屋根の上の二魔女①

よろしくお願いします。

 僕は生の玉葱と胡乱な話があまり得意じゃないから、その先輩のこともいまいち好きではなかった。


 だから寝込みを襲って荒縄で縛って、そのまま箒にくくりつけて天高く飛ばした。

 思った以上に笑える()だった。

 あのさこれどうにかして公式の競技にできないかな、と腹を抱えて転げ回る僕の(かたわ)ら、相棒(パートナー)のアガサがガタガタ震えながら真っ青な顔で、


「あんた絶対いかれてる」


 と、ただそれだけのことを言うのに何度も舌を噛むものだから、その様子が余計におかしくてもうダメだった。


 やばい何言ってんのか全然わかんないウケる――と、白木の三角屋根の上、仰向けにお腹を抱える僕の、その頬をひ弱な手で何度も張って、


「だから! なんで! あんたは! 人を見るとすぐ空に打ち上げちゃうの!」


 勧誘に来たんでしょ、わたしたち――だとか。

 本気で言ってるんだとしたらこいつは相当な馬鹿だ。


 そんなのいまさら後の祭りで、だって先輩はすでに星になった。

 もう遅い。どう考えても手遅れなのにアガサは泣いて、まるでそうやって金切り声をあげていれば勝手になんとかなるみたいな、その合理性の欠片(かけら)もない滅茶苦茶な振る舞いが、いちいちツボにはまるから本当に卑怯だ。


 アガサは馬鹿だ。

 馬鹿なアガサのことが僕は大好きで、だから一目見た瞬間に気に入った。


 こいつは、絶対、何かやらかす。

 そんな予感を、いや確信を僕は確かに抱いて、それは今この瞬間に事実であったと証明された。

 先輩は星になった。そしてそれは(おおむ)ね、このアガサのせいだ。


 アガサは馬鹿だから気づかない。まだ奥歯をガチガチ鳴らしながら、


「どうしてくれんの、ねえ、どうしてくれんのこのバカ」


 と、僕のせいにする。実に可愛らしいとつくづく思う。


 ――こんなの、ただの予定調和じゃないか。

 という、それが彼女(アガサ)にはわからない。


 僕とアガサが知り合ったのは、だいたい一週間くらい前のことだ。

 知り合ってまだ数日。そんな仲の浅い人間を連れ立って真夜中、一切の予告なく人の寝床を襲って、そのまま屋根の上まで運び出す、なんて。

 そんなの面白くないわけがない、という以前にまず格好が格好、


「だめだアガサおっかしい、なにまともっぽいこと言ってんのそんな鉄仮面で」


 ウケる、とかウケないとかまずそれ以前の問題、誰がどう見たってこんなの不審者だ。

 不審者にしか見えないくせに実際は単なる馬鹿で、なのに言ってることだけ無駄にまともだったりするのだから、これで笑うなって方がまず無理な話。


 ――〝鉄仮面〟のアガサ。


 僕がそう呼ぶこの大変面白い馬鹿は、でもそういえば最初(はな)っから馬鹿だった。

お読みいただきありがとうございました。

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