悪魔
悪魔は呪い、縛り付ける。
世にはそのような悪魔に満たされている。
契約をし、その魂を、身体を縫い留める。
それにより悪魔の欲望は充たされている。
神にのみ許される命すら作り出す。
約定により、そう決められている。
一人の女性の前に立ち塞がりし、悪魔が手に持つ物。
悪魔はその呪われた指輪を差し出す。
次いで咽喉を振るわせ、意志を奮わせ、呪いの言葉が発せられる。
震えるかの如くかぶりを振る女性。
それは婚約を破棄する。婚約の申し込み自体を破棄するかの行為。
頬を伝う雫は拒絶の表れか。
朱に染まる顔は赫怒のごとく。
痙攣のような、全身を細かい漣が拡散する。
その緊張は世界を覆い、周りは静寂が支配する。
悪魔の鼓膜に伝わるは激しい己の鼓動のみ。
悪魔の瞳に宿るのは宇宙にも等しいただ一人。
捧げ持つ呪いの指輪の重さに腕が悲鳴を上げる。
崖の上の死線を分かつ境界に、悪魔の足元は不安定。
胃は自身すら溶かし、悪魔を苦痛に苛む。
腸は雷雲を呼ぶように悪魔を締めあげる。
皮膚には玉のような滴が完膚なく覆い、濡らしている。
運命の風が悪魔の命運を楽し気に揺らす。
判決の鐘は女性の唇から鈴のように響き渡る。
悪魔の瞳に映るは蒼天に輝く天使の微笑みだった。