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「不人気者の先輩」と「人気者の後輩」  作者: pierrot854
第一章 先輩と後輩の馴初め
9/35

第九話 共同戦線

2016.11.28 誤字修正

「後から聞いた話ですが、一年生の後半から、Cちゃん達を中心に、Bちゃんへのいじめが始まったそうです。でも、Aちゃんは、Cちゃん達を恨んだりしませんでした。だって、自分で気付けるタイミングはあったはずなんです。その努力をしなかった時点で、Aちゃんも同罪です。

 それから私は……Aちゃんの話を聞いた私は、友達がどんな人なのか、自分の目で見て、耳で聞いて、ちゃんと向き合って、自分で確かめようと心に決めました。他人任せにして、言われた話を鵜呑みにしないと決めました。そういうお話です」


 長々と語り終えた姫川。


「……そうか」


 対して、俺は短く答えた。それから、噂話を聞いた姫川が、態々(わざわざ)その真偽を確かめるために俺を探していた理由も分かった。

 短い返事が意外だったのか、姫川が電話の向こうで「あれ?」と呟く。わざとらしい明るい口調だった。


「感想……それだけですか? もっとこう、私の弱みに付け込んで、可愛い後輩を我が物にしようとかよこしまな考えはないんですか?」


「姫川の友達の話が、姫川の弱みになるのか?」


「あ、いえ、そうですね。私の友達の話です。先輩にしてはちゃんと理解してるじゃないですか」


「仮に、今の話が姫川自身の話だったとしても、俺は、姫川は悪くないなんて、軽薄な事は言わない」


「……どうしてですか?」


「過去の経験を踏まえて、今の姫川が居るんだ。それに姫川が、自分への戒めにしてる事を、俺が真っ向から否定する事は、今の姫川を否定する事になると思う。俺は、今の姫川を気に入ってるから、そんな事はしたくない」


「……ふふっ。先輩、ついに可愛い後輩にベタ惚れだと白状しましたね。まあ、先輩が私を嫌う理由は何一つ無い訳ですから、先輩は私を好きってことになりますね」


 相変わらずの姫川。オール オア ナッシング。


「そこまでの意味は含んでいないつもりなんだが。姫川がそれでいいなら好きに解釈してくれ」


「もう、先輩は恥ずかしがり屋さんですね。でも、私も今のところは先輩を嫌う理由がないので、先輩の事好きです。もちろん、LoveではなくLike、又はFavoriteですけど。あ、私に好きって言われて狂喜乱舞してますか? 欣喜雀躍ですか?」


「してない」


 姫川が電話の向こうで小さく笑ってから、声のトーンを下げた。


「先輩が、下手な慰め文句を言うような人なら、嫌いになってました。理由は、先輩が言った通りです」


「Bちゃんの状況と、今の俺の状況が似ているから、ゴールデンウィーク明けに俺が居なくなるんじゃないかって不安になって、電話寄越したのか」


「……先輩、勘がいいのもたまに考えものです。私が先輩を手玉に取るのはいいですけど、先輩に私の考えを見透かされるのは嫌です」


我儘わがまま過ぎるだろ。俺を手玉に取るのも止めてくれ」


「勘のいい先輩ですから、私が先輩の問題解決に協力したい理由も分かりましたよね」


「まあ、何となくは理解した」


「何となくじゃ困ります。差し詰め、私にとってはリベンジマッチなんです。先輩を利用して、過去の――――Aちゃんの無念を晴らしたいんです。もちろん、今回の事が成功しても、過去が無くなる訳じゃないことは分かっています。でも、私は、自分がちゃんと成長していることを確かめたいんです。ちゃんと、友達を助けられる人になっていることを、自分自身に証明したいんです。

 先輩に、お母さんを助けてもらった恩義があるからって言うのも嘘ではありませんけど、一番の理由は私自身のために、なんです」


「どうして今の話を、俺に教える気になったんだ?」


「この一週間、先輩と話して、信用できる人だと思ったからです。あと、私が先輩の事情を知って利用してるのに、先輩が私の理由を知らないのは不公平だと思ったんです」


「持ちつ持たれつって事か」


「そうです。ギブミー アンド テイクユアーズです」


「姫川が全部持って行くのかよ……」


 もちろん、姫川だって間違っているのを分かって言っている。


「私にここまで話させたんですから、今更、俺の問題に首を突っ込むなとか言わないでくださいよ。そんな事言ったら、私の恥ずかしい話を無理矢理喋らせられたって学校中に言い触らします」


「いや、姫川が一方的に喋っただけ……分かった。はぁ……。本当に、手玉に取られてる気分だ」


「うふふ。物分かりがいい先輩で嬉しいです。共同戦線ってことでお願いします。格好いい感じがしませんか?」


「正直、一人で調べるのにも限界だったんだ。姫川の人脈を使わせて貰えるなら、手詰まりの現状から抜け出せるんじゃないかって、この一週間ずっと考えてた」


「つまり、先輩はこの一週間、可愛い後輩の事で頭がいっぱいだった。デレデレじゃないですか、しっかりしてください」


「……俺だってこの一年、指をくわえて漫然と過ごしてきた訳じゃない。出来る限りで、反撃の準備はしてたんだ」


「先輩のくせに無視しましたね。そういう態度だと、駅前のファミレスでシフォンケーキ奢ってもらいますよ」


 そんなにファミレスのシフォンケーキが気に入ったのか。


「全部が上手くいったら、成功報酬くらいは出してもいいかも知れないな」


「今の言葉、絶対忘れないでくださいね。それで、先輩。私は、何から始めればいいですか? 作戦名は私が決めてもいいですか」


「今日はもう遅いから、詳しい話は明日にしよう。流石に姫川も疲れただろ」


「そうですね。先輩は、また明日も私と電話で話したいって事ですね。もう、それならそうと言えばいいのに。しょうがない先輩です」


「じゃあ、また明日な」


「……また無視しましたね。今に目に物見せてあげます。とりあえず、おやすみなさい」


 不穏な台詞混じりに、姫川との今日の電話は終わった。

 ここから静かに、反撃の狼煙のろしが上がった。

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