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「不人気者の先輩」と「人気者の後輩」  作者: pierrot854
第二章 先輩と後輩の進展
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第二十四話 先輩の先輩と、後輩の後輩(後輩談)

「と、言う事で、私の快刀乱麻を断つ活躍の結果、先輩の窮地を救ったのでした」


「おおー。ぱちぱち」


 口で言いながら、玉城千尋さんは小さな拍手を贈ってくれます。


 昨日、交換したばかりの千尋さんの連絡先を使った私。

 私の部活の休みと、千尋さんの休日が重なったので、せっかくだからお茶でもどうかと、千尋さんが誘ってくれました。


 千尋さんが私の学校の最寄り駅まで来てくれて、駅前のコーヒーチェーン店に二人で入りました。

 私はキャラメルマキアートとシフォンケーキを、千尋さんはコーヒーとフォンダンショコラを注文し、二人掛けの席に向かい合って座りました。


 時間帯のせいか、店内は人が少なく、落ち着いてゆっくりと話が出来る雰囲気です。

 とりあえず、共通の話題と言う事で、千尋さんから、先輩の中学生時代の話を聞きました。

 私は、そのお返しとして、先輩と二人で大立回りを演じた、通称『放送室占拠事件』を語りました。


「高校生になっても、陸の自分を曲げない性格は変わらないわね。中学生時代も、それが原因で結構敵を作ってたのに」


 コーヒーを飲みながら、懐かしむように千尋さんが言います。


「先輩は中学生の頃から、あんなに可愛げのない性格だったんですね」


「そうそう。確か、あれも、陸が、中学の空手部に入部して一ケ月か二カ月の頃だったわね。

 後輩が出来たからって、ちょっと浮かれた二年生と三年生が何人か居たの。陰で、気の弱い一年生をターゲットにして、いじめみたいな事をしていたのよ。

 そうしたら、陸が部活中に突然、その二年生と三年生に対して勝負を持ち掛けてね。自分が勝ったら、後輩をいびるのを止めろって」


 とあるタイミングで苛めの事実を知った先輩。

 水面下で、その二年生を説得するなり倒すなりしても、問題の解決にならないと考えた先輩は、空手部の全員を証人にして苛めを止めさせる事にしたのです。


 上級生に対して、涼しい顔で勝負を持ち掛ける先輩の顔を思い浮かべ、私は小さく笑ってしまいます。


「で、陸一人対上級生三人の勝抜き戦をやって、見事に陸の全勝ってわけ。

 まあ、その二年生は半年くらい前から練習サボったりしてた連中だったんだけどね。それでも、入部したばっかの一年生が二年生に勝つなんて誰も思ってなくて。

 そうしたら今度は、レギュラーの座を陸に奪われるんじゃないかって、三年生や二年生が陸にきつく当たるようになっちゃってさ。

 それにも負けずに陸が本当にレギュラーの座を勝ち取ったから、いよいよ上級生は面白くなくて。

 いやあ、そこから半年くらいは、ピリピリした空気で部活してたわね。

 でも、それも悪い話じゃなくて。レギュラー争いが激しくなったから、今まで以上に頑張って練習する連中が増えて、空手部全体としてはビックリするくらいレベルアップしたのよ。

 不真面目だった連中も、陸に大きな顔されるのが面白くないからって、必死こいて練習に取り組むようになったしね。

 冬の頃にはもう、陸の実力を皆が認めて、そこからは本当に切磋琢磨する良い雰囲気になったわ」


「そんな事があったんですね」


 解決すべき問題が目の前にあって、それを解決できる可能性が自分にあったとして、それを本当に実行するのは、果たして勇敢なのか無謀なのか。

 私は、先輩がお馬鹿さんでお人好しだと知っているので、


「ふふっ。本当に、先輩らしいですよね」


 と笑ってあげられます。


「ホントにそう。でも、今はこうして笑って話せるけど、あの時は、空手部が空中分解するんじゃないかって冷や冷やしたわ」


 半年間も不穏な空気が漂う部活動なんて、よく持ち堪えたものです。


「他には、先輩の面白いエピソードありますか? 先輩、なかなか自分の話してくれないので興味があります」


「そうなの? あ、でも、残念だけれど、陸に彼女が居たって言う話は聞いた事ないわよ? 居ても不思議じゃなかったとは思うけど」


「だから、私と先輩はそう言う間柄じゃありませんって、何回も説明しましたよね」


 ニヤニヤ笑いながら意地悪く言う千尋さんに、私はきっちり否定を述べます。

 昨日といい今日といい、千尋さんは私と先輩をカップリングしたがるのでいけません。


「あははっ。まあ、その辺は今後に期待って事ね。そうねぇ……陸の面白い話か……。学年も違うし、部活以外ではあんまり関りも無かったから、又聞きの話しかないけど。

 何の彼の言って、空手部の一件もあったからなのかしらね。同級生とかから、色々と厄介事を相談される事が多かったみたいよ? 迷子のペット探しだったり、幽霊騒ぎだったり……。あとは、図書室の本が増えてるとかって言う変な事件もあったかな。解決したのか、そのまま迷宮入りしたのかもハッキリしない話ばかりね」


「へえ、幽霊騒ぎとか、図書室の本の話とか、面白そうですね。今度、先輩から聞き出してみます。話がまとまったら、千尋さんにも教えますね」


「あ、うん。聞きたい聞きたい。よろしくね」


 ここで話が一端途切れて、私も千尋さんもケーキや飲み物を味わいます。

 私も千尋さんも、ケーキや飲み物が、あと少しで無くなります。

 区切りも良いので、今日はこの辺りで解散しましょうか。


「ふむ……。そっか、舞衣ちゃんは、機転も応用も利くタイプなのね。それなら、もしかして……」


「どうかしましたか、千尋さん?」


 こちらから解散を切り出そうとした時に、千尋さんの割と大きめの独り言が聞こえました。

 店内のBGMが途切れたタイミングと重なって、私には明瞭に聞き取れました。


 独り言を聞かれた千尋さんですが、恥ずかしがるでもなく、慌てるでもなく、


「あ、うん。考えをまとめるから、ちょっと待ってね」


 思案顔で、コーヒーの最後の一口を飲んでいます。

 それから、強い視線で真っ直ぐ私を向いた千尋さんが、真剣な顔で言いました。






「ねえ、舞衣ちゃん。悪の秘密結社をやっつける正義の味方にならない?」






「……正義の、味方……ですか?」


「そう。正義に味方」


 全く話が見えません。


「いやさ、私も、会ったばっかりの、しかも年下の子に、こんな話をするのはどうかと思うのよ?」


 バツが悪そうに言いながら、もう空になっているコーヒーカップに口を付ける千尋さん。

 いえいえ、例え私と千尋さんが長年の付き合いの友人だったとしても、今の発言には驚きを禁じ得ないでしょう。


「えっと……何かのゲームの話ですか?」


「違うわよ。現実の話よ。どうして私が、舞衣ちゃんにゲームの話をしなくちゃいけないのよ」


「現実の話ですか……」


 悪の秘密結社。平たく言えば、悪い人の集まりです。

 確かに、残念至極な事実ですが、世の中には他人を不幸にして自分が幸福になろうとする悪者が居ます。


 その方が単独の場合もあれば、団体であることもあります。

 最近では、お年寄りをターゲットにした詐欺団体が跳梁ちょうりょう跋扈ばっこしています。


 自分はニュースを見ているんだと自慢する先輩に影響されて、私も最近は新聞を読んだり、スマートフォンのニュースアプリを眺めたりする事が増えたので、世間のそういう話は知っています。

 他人を不幸にして自分達は幸福になろうとする根性が許せなくて、早く警察に逮捕されることを願うことはありますが、私自身が逮捕しようと考えた事はありません。


 薄情者と言われると立つ瀬がありませんが、理由は単純です。

 私は、悪者を許せないという気持ちはあっても、それを打倒できるだけの実力が無いからです。


 先日の、先輩の抱えていた問題は、先輩と私が協力すれば解決するのに充分な知恵だったり、証拠だったり、行動力が揃っていたので解決出来ました。

 でも、私達には、あの程度が限界でしょう。

 世の中で発生する事件や事故は、然るべき国家機関の方々が、私達の想像以上の時間と労働力を投下して、やっと解決しているのです。


 話を千尋さんに戻します。

 千尋さんの表情は真剣そのものです。

 仮に、千尋さんが私をだますために演技をしているとして、現状ではその真意を見破る術がありません。その理由も分かりません。


「千尋さんが言う、悪の秘密結社って、具体的にはどんな悪い事をしているんですか?」


「多分……他人を騙してお金儲けをしてる、と思うのよ」


 奥歯に物が詰まっているような言い方をする千尋さん。

 それは、まあ、後で考えるとしましょう。


「最近ニュースでよく見る、特殊詐欺のグループってことですか? それなら、警察に相談した方がいいと思います」


「いや、ううん、そうじゃないと思うのよ。ただ、まだよく分からなくて」


「それは、昨日、千尋さんを追い掛けていた二人組の男性に関係しますか?」


「まあ、うん、そうなのよ。あの二人を尾行して、悪事を働いている現場を押さえれば一発だろうって思ったんだけど、結構あっさりと尾行がバレちゃて」


「逆に追い掛けられる立場になったんですね」


「あはは、そういうこと……。ざまないわよね。でも、舞衣ちゃんが協力してくれれば話は別だと思うわ。舞衣ちゃんの機転があれば、絶対にあいつらの悪事を暴いて、やっつけられると思うの」


「過大評価だと思いますけど」


 鼻息を荒くして宣言する千尋さんの顔を見ながら、どうしようかと迷います。

 先輩ならこういう場合どう行動するでしょうか、と考えかけて止めます。


 先輩は先輩。私は私。


「私のモットーは、袖振り合うも他生の縁ですからね」


「え? 何か言った?」


 私の呟きは、千尋さんには聞こえなかった様子でした。


「分かりました。私、千尋さんに協力します」


「ホントっ!? ありがとう、舞衣ちゃん!!」


 千尋さんが急に立ち上がり、私の手をしっかりと握ってきたので驚きました。

 その瞳には、凄まじい熱意の炎が燃えているように見えました。


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