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「不人気者の先輩」と「人気者の後輩」  作者: pierrot854
第二章 先輩と後輩の進展
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第二十二話 身の回りの諸問題(2)

「駒村主将。今日の昼食は購入済みなので、お引き取り願います」


 居場所が露見した以上、逃げ隠れする事はしない。俺は駒村主将達の前に進み出た。

 俺がこう言って、朝にコンビニで買って来たカツサンドと野菜ジュースの入ったレジ袋を掲げると、


「何だ、そんな物、任せろ」


 と言った駒村主将は俺からレジ袋を奪い取り、開け口を無視して力任せに包装を破り捨て、制止する間もなく俺のカツサンドを頬張った。

 呆気に取られている俺を余所よそに、野菜ジュースまで勝手に開けて、カツサンド諸共、駒村主将の胃袋に流し込まれた。


「……よし。ごち。これで文句無ぇな」


「……文句しかないんですが」


 律儀にゴミを袋にまとめて、教室のゴミ箱に放り込む駒村主将。相変わらず、無暗に良い笑顔なので、蹴り倒したくなる。


「昼飯食わねえと部活まで体力持たねえぞ。ほら、学食行くぞ!」


「誰のせいで…………はあ。分かりました」


 太い腕でがっしりと肩を組まれ、学食へ向けて強制連行される。

 準備していた昼食を強奪された以上、学食なり売店に行かなければならず、もう、面倒なので駒村主将に付き合う事にした。


 空手部の、図体の大きな三人が廊下を横に並んで歩くものだから、他の生徒達が怖がって廊下の端に寄って道を譲ってくれる。さながら、海を割って人民を導いたモーセのていを成していた。


 気分的には、市中引き回しの刑と言った方がしっくり来る。


 悪評の誤解が無くなっても、なお、クラスメイト達や他の生徒が俺を避ける理由の二つ目が、これだと思う。

 五月下旬以降、週に一回、こうやって駒村主将達が俺の教室に襲来し、俺を率いて学食の一角を陣取り、俺に学食を奢ってくれていた。


 駒村主将が言う所には、詫び、らしい。






 以下、回想。






 高城顧問に言われ、駒村主将自身のプライドの高さも相俟あいまって、俺を空手部から迫害するような行動をした件。

 俺としては、騙して利用した形で、俺の抱えていた問題解決に役立ってもらったので、貸し借り無しの手打てうちにするつもりだった。


 駒村主将の、主将としての立場も、危なかった筈なのだ。


 駒村主将にも、その通り説明したのだが。


「いや、それじゃあ、俺の気が済まねえ」


 と交渉は決裂し、駒村主将が提示してきた条件が、週に一回学食で昼飯を奢る事だった。

 最初は、尊敬していないとは言え先輩に、金銭的負担を強いることに抵抗があり、固辞した。


 しかし、頑固さに関して言えば駒村主将が一枚上手だった。

 交渉では平行線が見えていたため、実力行使に方針を転換。

 交渉が決裂した翌日の昼休み、教室に襲来し、


「八王子、約束通り昼飯奢りに来たぜ!!! それが嫌なら、購買で何でも買って持って来るぞ!!!」


 と、宣言して二年生の教室を凍り付かせた。


 三年生が八王子に昼飯を奢りに来た。暴君の噂は本当だった。八王子やべぇ。あの駒村主将が八王子のパシリかよ。


 教室中がざわつく状況に耐えられず、あんたは俺の話を聞いていなかったのかと文句を言いに近付けば、副将と中堅の先輩に両脇を抱えられ、


「まあ、細かい事はいいんだよ。おら、学食行くぞ!」


 そのまま食堂の一角に陣取り、駒村主将が勝手に注文した焼肉定食を食べさせられたのが、記念すべき一回目だった。






 以上、回想終わり。






「さあ、ほら、遠慮せずに食え!」


 今日も食堂の一角を陣取り、駒村主将が勝手に注文した焼肉定食が目の前に用意される。

 ちなみに、毎回焼肉定食であり、理由は「学食で一番美味い」からだそうだ。


 食えとのたまう駒村主将の前にも、焼肉定食があるが、ご飯が茶碗ではなく丼物用の丼である。最初は特注していたらしいが、三年目ともなれば食堂側も慣れたもので、駒村主将が来れば何も言わずともこの扱いをしてくれるらしい。


 他の二人は各自好きな物を準備し、同じテーブルに着席した。


 そして、今日も他の生徒達からは遠巻きにされている。


 この状況に慣れつつある自分自身に嫌気が差しながらも、食べ物に罪は無いので、ありがたく頂くことにする。


「はあ……じゃあ、いただきます」


「おう! 食え食え! 俺も食う!」


 言うが早いか、早食い選手権の如く丼飯と焼肉を掻き込み始める駒村主将も、最早、見慣れた光景だった。


 不意に思い出した事があり、食事中に悪いとは思ったが、駒村主将に話し掛ける。


「そう言えば、駒村主将。一年生のあの挨拶は、駒村主将の差し金ですよね? 止めるように言ってもらえますか?」


「……あ? 一年の? …………ああ、あれか」


 頬張った米と肉を咀嚼しながら思案顔を作った駒村主将が、俺の言った事に思い当たる。

 駒村主将は、味噌汁で口の中の物を一気に飲み込むと、


「八王子、お前、勘違いしてるぞ。あれに関しては、俺は何も言ってねえ」


「……は?」


「勿論、俺以外の三年も二年も関係ない。あれな、一年が自主的に始めた事だ。いいじゃねえか、後輩が先輩に挨拶するのが何か問題あんのか?」


 駒村主将は当然のように言って、箸休めの沢庵漬たくあんづけをまとめて三枚口に放り込み、ボリボリと乱暴に噛み砕く。


「いや、挨拶してくれる事自体には問題ないですが、お陰で俺は、空手部の後輩に恐怖政治しているって、新しい悪評が立っているみたいなんですよ」


「ああ……そう言えば、そんな話も聞いたな。まあ、いいんじゃねえか? 実際はそんな事ねえし。大体、指導が鬼のように厳しいのは事実だから、当たらずとも遠からずだ」


 がっはっはっ、と駒村主将が大声で豪快に笑うので、近くのテーブルの生徒達が怯える。

 俺としては面白くないので若干苛立つ。


 そんな俺の苛立ちを見透かしたかのように、駒村主将が続けて言う。


「八王子がどう思うかは別として、慕われてるっつーか、尊敬されてるって事なんだろ? なあ?」


 駒村主将が、副将と中堅に同意を求めると、二人ともモグモグしながら、俺に向かって大きく頷いて見せた。

 何だか、俺が間違えているような空気になってしまう。


「お前が気掛かりなら、あんまし大袈裟な挨拶はしないように言っておくが、効果が無くても文句言うなよ?」


「…………」


 お願いしますと言っていいのか判断に迷い、沈黙してしまう。


「そんな事よりもよぉ」


 俺が沈黙してしまったのを、話題の切り替えのタイミングと思ったのか、駒村主将が突然声音を低くして、内緒話でもするかのように大きな顔を寄せて来た。


「お前、姫川とはどこまでヤッたんだ?」







「…………あ゛?」







 自分でも驚く程、不機嫌な声が出た。


 下品な薄ら笑いを浮かべていたので通常の三倍蹴り倒したかった駒村主将も、俺の逆鱗に触れたと思ったのか、弾かれたように俺から慌てて距離を取る。

 隣で聞き耳を立てていた副将と中堅の二人も、止まっていた食指を慌てて動かし始める。


「じょ、冗談だよ! そんな怒んなって!」


「いや……」


 俺自身、駒村主将の言動の何に対して、不機嫌な反応を返したのか分からなかった。


 謝るべきかと考えたが、今後、同じ話題を出さないように灸を据えておく意味も含め、このままにしておこうと考え直す。

 自分の内心を落ち着けるために、水を一口飲んでから、


「大体、普段、姫川の話題なんて出さないのに、何で今日に限って」


「いや、そりゃ、昨日二人で出掛けてたって聞いたら、野次馬根性出すなって方が無理だろうが。峰岸の悔しがり様も面白かったけどな」


 全く悪びれもせず言い放つ駒村主将。


「俺が、休日をどう過ごそうが駒村主将には関係ないでしょう。部活以外では接点ゼロの他人なんですから」


「……姫川もアレだけど、八王子も言い方酷えな。それが本心だとしても、もっとオブラートに包もうぜ」


「今更、気を遣って話をするような相手でもないですからね」


 ここ一年近くの駒村主将から受けた仕打ちについては、手打にしたつもりはあっても、許したつもりはない。

 それはお互いに理解しているからこそ、こうやって気を遣わずに話せるのだろう。


「本当なら、昨日その話を聞いた時に、八王子に直接聞いてみたかったんだが、お前の連絡先知らねえしな。ってか、部活の連絡あるんだから教えろよ」


 駒村主将が、制服の上着のポケットからスマートフォンを取り出す。

 それを見て、思案に暮れる。


「…………………………………………仕方ないか」


「何だよ、今の間は。そんなに嫌なのかよ」


「嫌です。嫌ですが、仕方がないでしょう」


「だから、もっとオブラートに……。まあ、いい」


 不満はお互い様だが、部活の連絡を取る必要が出た時に困るのも癪なので、渋々連絡先を交換した。


「用が無い時は連絡しないでください」


「……おう」


 あまり嬉しくはないが、交友関係が広がってしまった。


「そう言えば、駒村主将」


 今の会話で、うっかり聞き流してしまいそうになっていた事があった。


「何だ?」


 焼肉定食を完食し、食後の麦茶を飲んでいた駒村主将が、まだ何か文句あるのかよ、とでも言いたそうな表情で返事をする。


「俺が、姫川と出掛けていた話を、昨日、聞いたんですよね?」


「ああ。それがどうした? 別に、隠れてコソコソしてた訳じゃねーんだろ?」


「峰岸部長から聞いたんですよね?」


「…………あー、いやー、待て。峰岸じゃなかったかも知れないな」


 視線どころか、椅子に座った上半身が泳ぎ始める駒村主将。

 当の本人も、今更、言い逃れ出来るとは考えていないだろう。


「少し、聞きたい情報があるので、正直に喋ってもらえますか?」


「…………峰岸、悪い」


 駒村主将は、観念して項垂れた。


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