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「不人気者の先輩」と「人気者の後輩」  作者: pierrot854
第二章 先輩と後輩の進展
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第十五話 梅雨晴れの待合せ(後輩談)

生存報告も兼ねて。

 六月に入ると同時に、制服の衣替えを待ち構えていたかのような梅雨模様が続く毎日。

 五月までの陽気が嘘だったかのように、雨で湿気っぽくて肌寒い日が続いています。

 そんなジメジメシーズンの中でも、今日は貴重な晴天に見舞われた日曜日。可愛い後輩こと、私、姫川舞衣はルンルン気分で最寄り駅へと続く道を歩いていました。


 先に言っておきますが、私の機嫌が良いのは天気が良いからであって、他の理由はありません。余計な邪推は、厳に慎んでください。


 今年の四月に高校生になったばかりの私は、以前から興味のあったラクロス部に入部し、友達百人以上作るべく、勉強に部活に遊びにと充実した高校生ライフを送っています。今のところ、順風満帆と言って差し支えないでしょう。


 そんな折、ご縁があって知り合った二年生の先輩、八王子陸。

 中学生時代から空手の選手として優秀な成績を残している先輩でしたが、高校入学直後に、空手部顧問と些細な事で衝突し、それが原因で学校中に悪評を広められてしまい、孤立するという悲劇に見舞われていました。


 その事実を知った私は、先輩の抱える問題解決のために協力し、先月末にようやく解決の糸口を見付ける事となりました。それ以降、先輩を取巻く環境は徐々にではありますが、改善されています。

 最近の先輩は、足が遠退いていた部活動にも積極的に参加し、空手部の一年生や二年生の指導にも力を入れています。先輩は自覚がありませんが、指導を受ける側の空手部員からは、スパルタ鬼指導で恐れられています。

 先輩個人の部活動は、順調に地区予選を勝ち進み、夏に開催されるインターハイへの出場が決まったと、先輩本人から教えてもらいました。


 私の所属するラクロス部も、男子は予選で敗退してしまいましたが、女子は地区大会で見事に優勝することができました。私も試合に出場し、チームの勝利に貢献しました。

 残念ながら、ラクロスはまだマイナースポーツのため、インターハイが無く、しばらくは大会がありません。


 ここ二カ月間の回想をしつつ、私は、自宅の最寄り駅である桜木町駅に到着しました。

 久しぶりの晴天に皆が活動的になっているのか、駅前の広場は普段より人通りが多いように思います。待ち合わせをしている人達も大勢居ます。

 私は立ち止まり、まだクローズのお店のショーウィンドウを借りて、身嗜みのチェックをします。


 本日の服装は、ライトグレーのジャケットに白のカットソー、若草色のテーパードパンツ。

 髪型も、普段は結ったりしないのですが、今日はサイドテールにしてみました。

 正直に言うと、服装はファッション雑誌に載っていたコーディネートをそのまま買って着ています。ちょっと大人びた服装を意識しました。湿度が高いので、髪型がちょっと心配な事以外は、問題無し。


 雑誌を見て良いなと思っただけです。他の理由はありません。


「……よし」


 身嗜みのチェックを終えた私は、左腕の腕時計で時間を確認。午前九時四十五分。待ち合わせ時間の十五分前。

 再び駅前の広場を見て、大勢の人の中から、目的の人物を探します。きっと、私より遅く来ると何を言われるか分からないと考えて、待ち合わせ時間の三十分前から待っているであろう人物を、待ち合わせ時間の午前十時まで、遠くから観察しようと思って早く来ました。


 今日は、先輩と、隣町に出掛けて喫茶店で餡蜜を食べる約束をしています。


 月並みに言うなら、デートです。


 先輩がどうしても私と一緒に行きたいと言うので、しょうがなく付き合ってあげる事にしました。部活動や家の用事等でお互いにスケジュール調整が上手くいかず、二週間も先延ばしになって、満を持しての今日です。


 先輩は、喫茶店で餡蜜を食べたら帰ろうと考えているに違いありません。

 しかし、せっかく先輩と初めて休日を過ごす機会を、棒に振る私ではありません。むしろ、可愛い後輩を捕まえておいて、用事を済ませたら帰ろうとしている先輩に重大な問題ありです。青春真っ盛りの男子高校生失格です。


 ここは、良識ある素敵女子である私が、清く正しい高校生の休日の過ごし方を教授してあげます。まあ、今日は小手調べなので、一個だけ予定外のイベントを割り込ませるくらいで勘弁してあげようと思います。


「………………あ、居た」


 先輩を発見。

 駅の出入口付近で、壁に寄りかかって文庫本らしき物を読んでいます。もっと、そわそわして、落ち着かない様子の先輩を観察してから、からかってあげようと思っていたのに、のんびり読書しながら待つなんて先輩のくせに生意気です。


 服装も、七分袖シャツにデニムパンツと、至って平凡。空回りするくらい気合の入った服装で来た先輩を、一日からかってあげようと思っていたのに、当てが外れました。


「……つまんない……あっ!?」


 遠目から観察していても、変化のない絵面を見続ける事になりそうだと諦めかけた瞬間、先輩の所に女性二人組が接近して行きました。由々しき事態です。

 何やら話し掛けられた先輩が、読書を中断して顔を上げます。女性二人組が、身振り手振りを混ぜながら何かを話している様子です。これが有名な、軟派でしょうか。


 先輩が文庫本をショルダーバッグに仕舞いながら、困り顔で受け答えしているのが見えます。当たり前です、可愛い後輩と待ち合わせしているのに、軟派されてホイホイ付いて行く訳がありません。

 私は、女性二人組が先輩にお断りされたタイミングで、颯爽と登場しようと思い、ゆっくり近付き始めます。


 粘り強い女性二人組は、なかなか先輩から離れません。まあ、粘ったところで結末は決まっているのですが。

 困り顔の先輩が、腕時計で時間を確認します。待ち合わせをしているので、早急に立ち去って欲しいというアピールでしょう。それでも離れない女性二人組に、ちゃんと言葉で伝えたらいいのにと内心でアドバイスします。


 ところが。


 信じられない事に、先輩は、女性二人を先導して歩き始めました。

 カチンときた私は、歩幅を広げ、先輩にぶつかる勢いで進みます。


「先輩! 何してるんですか!」


 先輩どころか、女性二人組どころか、周囲の通行人が振り返るくらいの大声で、私は先輩を叱責しました。

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