テルリ商会
ブックマーク5!?なんか評価きてる!?!?うおおおおありがとおおおおおお!!!感激の舞とともに書きました。何気に予約投稿をしてみる。
街道を走る3つの馬車の先頭。そこに乗り込む人間が新たに人が7人も増えたのだが、スペース的には少し狭いくらいである。決して無理をしてつめなければいけないほどの狭さではない。
「大変だったな……津波でやられた村は多い。レビーラに着いたらゆっくりするといい」
スキンヘッドの男が腰を下ろした転生者たちに話しかける。彼の身に着けている鎧は、転移者たちがまだ特性があるだけの未完成品であるのを示しているかのようである。
「ああ……ありがとう」
ショウジが簡潔に返答し、続ける。
「あのアンリさんが後ろにいるのは、カモフラージュかい?」
「ああもちろん。俺たちは腕はいいが、万が一ってこともあるだろう?」
スキンヘッドはどっこいしょ、とタエコの隣に座る。
「しかし、美人さんが3人もいるってのはいいねえ。華がある」
「おい、色目使うんじゃねえぞ?」
と、向かいに座ったケンイチが言う。
「ん?ああ、悪い悪い、あんたの女だったか」
「ばっ」
ケンイチは立ち上がる。
「ばか、タエコさんには旦那さんがいる!そんなんじゃねえ!」
当のタエコは「え、私?」とびっくりした表情だ。
ケンイチはこういった話題になれていないのか、顔を真っ赤にして
「それに……他の子はまだ子供だ。俺はそういうのはやめといたほうがいいと思う。ほら、今みんないろいろあったばっかだし」
と言う。
スキンヘッドはこれ以上茶化すことなく「ああ、悪かったな」と謝る。
「ねえねえヒロミ!」
「なに?カナエ」
「私たち美人だってさ!やったね!」
「ちょっと黙って今集中してるから」
「え~もうちょっと喜ぼうよ~」
「湖の音ってこれ?聞き取りにくい……」
「ねえかまってよ~あんた私の親友でしょ~?」
「あなたと遊ぶより湖のほうが大切でしょ。飲み水よ休憩所よ」
前のほうで元女子高生の2人がじゃれている。
あちこちで騒がしかったり、休んでいたりの先頭馬車は着々と歩を進めていった。
~~~~~~~~~~
「どうぞ」
レオンは商人の娘アンリに連れられ、最後尾の荷馬車に案内される。
縄で固定された箱の積み荷に囲まれ、中央にこじんまりとした空間ができている。物置っぽい雰囲気なのにどことなく落ち着きがあるのはアンリのセンスや設置されたイスや小窓の質の良さによるものだろう。金に物を言わせた商人と言うより、芸術感にあふれた商人といった印象にさせる。
レオンはそこに置かれた椅子に座る。柔らかい座り心地だ。アンリは向かいの椅子に座る。
「では改めまして、アンリ・テルリです」
挨拶をするアンリにレオンも返す。
「はい、わしは先ほどの者を先導していた者。レオン・シュナイゼルです」
「そういうのはやめにしない?」
アンリは敬語をやめ、足を崩しながら、レオンに問う。
「あなたの名は偽りよね?会話を聞けるあのうさぎの耳の子は、今ケレーン湖の方角に耳を傾けているはずよ?隠し事はもうよくない?」
アンリの問いかけにふう、とレオンはため息をつく。
「あんたの側に会話を聞ける者は?」
「いないわ。証拠はないけど、信じる?」
「分かった信じよう」
レオンはあっさり信じるという。
「あら、素直ね」
「まあ、もしいてもあんたとの接点の方が利益が大きいという判断だ」
あとで確かめることもできるしな、と付け加えるレオン。
扉の外の様子をうかがったあと、戻ってきたレオンの外見に変化が起こる。
髪の毛とヒゲ。その色が白からみるみる暗い黒色に変化する。長めの白髪はグイッと縮んでいき、すっきりと短くなる。気が付くと長かったヒゲはすっかりなくなっている。最後に眼帯を外すと、老人レオンは消え去り、代わりに20歳過ぎほどに見える黒髪短髪の好青年がそこに座っていた。
「はじめまして。ソウタ・エンドウです。この名ならその瞳の信頼も得られるか?」
「自在の髪……ね。俳優にたまにいるって聞いたけど、見るのは初めて」
アンリが驚きの余韻を残したトーンで話す。
「まあこんな弱特性でも変装には便利だからね。あいつらの前ではレオン・シュナイゼルをやっている。特性は遠視の目ってことになっている」
「あら、特性を偽るなんて……すぐにばれそうなもんだけど」
アンリは疑わしい目で見ている。
「まあ察したやつはいるかもな。でも実際はいても1人2人だろう。普通の目のやつには適当なこと言っても嘘かどうかも分かんないだろうし」
「でも、でたらめだとヒロミさんの耳の情報との整合性はないじゃない」
アンリの口調から、なぜばれないのかタネを教えろという意図が伝わる。
「はあ……真実の瞳を持つやつは頭が回らないのか?」
ソウタの言葉にアンリはムッとする。
「うさぎの耳は強特性。俺の語る弱特性より範囲も広い。うさ耳がレーダー役で、俺の目が詳細確認用に使われるのはわかりきったことだろ?」
アンリはふむふむ、と頷く。
「俺はヒロミの情報を聞いてから、それに矛盾しないことを言えばいい」
ソウタはネタバラしは終わりだ、という雰囲気であった。しかしアンリはまだ疑問が解消できていないようだ。
「強い探知特性を持つ人に対しては、その情報を先に出してもらうことで矛盾しない。探知特性を持たない者に対しては、ごまかしのきく嘘でなんとでもなる。そこまではわかったわ」
でも、とアンリは続ける。
「確かに遠視の目は探知としては結構弱いけど、それでも同じくらいの特性はいるはずよ?そんな人と出会ったときにその嘘はばれる可能性は高いわ」
実際には、転移者はわざわざ弱い特性を選ぶ可能性は少ない。アンリも仮定の話をしている様子なので、そのような人物はアンリ側にもいないのだろう。アンリの疑念は、ばれているかどうかという確認より、知的好奇心のようなものであるようだ。
「ああ、それはこれだ」
ソウタは先ほど外した物をかかげる。
「眼帯?」
アンリはその名称を確認する。
「そうだ。俺はこれを『暗闇に置いていた、瞳孔の開いた目のほうがより遠くを見える』という工夫としてみんなに伝えている。逆に言うならこれで片目を覆っている間は俺は特性を使っていないことになる。その状態では、同程度の特性を持っているやつも実質俺以上だ」
理解できたか?と少し小ばかにしたような言い方でソウタはアンリの言葉を待つ。
「なるほど……あなたは生粋の詐欺師のような人なのね」
その言葉を聞いてソウタは、にやりと笑う。
「最高のほめ言葉だよ」
「それで、ソウタはなんで彼らをだましてるの?」
レオンという人物の正体を知ったアンリは、その目的について尋ねる。
「それは、俺が同じ村出身だとバレずにやつらをこき使いたいからだ」
「嘘」
アンリは自分の緑色の瞳を指さしながら言う。ソウタははあ、とため息をつきながら言う。
「こういうのは冗談って言うと思うんだけど」
「あなたの冗談、大して面白くないのね」
アンリは辛らつなことを言う。
「まあこき使うってのは嘘だ。大体ずっと一緒にいたらさすがにバレる可能性が増えるじゃん?」
ソウタは真意を話し始める。
「あいつら、おそらく津波被災者としてどこかの村に迎え入れられることになるじゃん?俺はそうじゃなくて、斥候として傭兵になりたい」
「斥候?」とアンリは聞きかえす。
「変装で偵察でもするの?」
ソウタはいいや、と言う。
「斥候になるのはレオンだ。つまり、特性は遠視の目だ。そしてアンリの次の疑問はなぜ、だな?」
アンリの質問を予測してレオンは答える。
「俺は、ケンベック帝国に行きたい。津波で国力が弱ったこの国は、好戦的な帝国から見たら攻め時に見える。軍事的な配備を行っているかの調査、その斥候を目指している」
アンリはイスに軽く座りなおして、ぽつりと告げる。
「ねえ、私が推薦してあげよっか?」
ソウタはぽかんとしている。
「いや……いいのか?」
「いいわよ。私の瞳を見ても平然と会話できるあなたみたいな人へに恩を売るのは構わないわ。ただし」
アンリは人差し指を一本立てる。
「私も連れて行って」
「却下だ」
ソウタは即答する。
「なんでよ!?いいじゃない!私もお父様や商会から離れたいの!」
立ち上がって物申すアンリにソウタはため息をつく。
「そんなの俺には関係ないだろう。俺に推薦以外のメリットがない。もともと方法をどうにか探すつもりだったから、そのメリットも必死になるようなものじゃない」
「なんでよ!デメリットないでしょ!」
「めんどくさいっていうのはデメリットだろう!」
ソウタも大きめに声を上げる。
アンリがまた何かを言おうとしたところで、コンコン、と扉からノックの音が聞こえる。
「くっ……この話は、また後で話しましょう」
と、にらみつけるアンリが告げる。ソウタは眼帯をつけ、髪を戻してレオンの姿に戻る。
「入っていいわよ」
アンリが告げると、アンリより少しばかり年の上に見える三つ編みの女性が扉をわずかにあける。
「ケレーン湖が見えました。もうすぐ着きます」
わかりました、とアンリ。
「中の話は聞こえた?」
とりあえずの確認のように聞くアンリ。
女性は扉をあけ、姿を晒して頭を下げる。
「いいえ!聞こえておりません!私は先ほど来たばかりです!」
そういうと女性は急いで外に出て行ってしまった。
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街道から見るとつい見逃してしまうような木々の奥にかろうじて見える小さな湖。テルリ商会の一行は街道を少しそれ、その湖の近くで休憩をとっていた。
「米と海老と……和食っぽいな」
そんなことを言いながら、転移者は転移者で集まり、女神から支給されていた弁当を食べている。炎の腕コンビ、ショウタとケンイチはハイテンションだ。好物も似ているらしい。
御者は馬たちにえさをやりつつ、湖の水を飲ませている。
太陽に少し厚めの雲がかかり、周囲は少し暗くなったが、雨が降りそうというほどではない。
しばらくわいのわいのと話ながら休息をしていた一行だが、急にヒロミの耳がピクンと立つ。
「ん……これは……ん?」
「ヒロミねえちゃん、どうしたん?」
ショウタがヒロミに尋ねる。
「いや気のせい……かな?」
歯切れの悪いことを言うヒロミに今度はタイヘイが言う。
「聞こえたことをそのまま伝えたらいい。レオンさんなら判断してくれる」
指名されたレオンもお願いします、と伝える。
カナエにポンと背中を叩かれ、ヒロミはなんとなくなんですけど、と話す。
「人の……話し声?でも今は聞こえなくて……」
「他には?」
ショウジが続けて質問する。
「えっと……時々足音?でもこれは人かは分からなくて……どこから音がするのか見失っちゃう……いや、私の気のせ」
「襲撃かな」「そういうことだろう」
割り込んむタイヘイと同意するショウジ。
「え、え?」
タエコはその言葉を聞いておろおろしている。
「レオンさんよ、どう思う?」
ケンイチがレオンに意見を求める。
レオンはうーむと唸ってから、話し始める。
「まあ、商人を襲うのであれば、盗賊かの?我々を襲う者とは考えにくいですかな」
さて、とレオンは言葉を一度切る。
「我々はテルリ商会にこれを伝えるか伝えないか、そして伝えるなら戦うのかどうかというせんたくしがありますな。戦うのはリスクがあるが、馬車の足が確保できる。見捨てればゆっくりだが安全に……」
「助けようや!」
レオンの言葉を遮ったのはショウタだ。
タイヘイはそれに口をはさむ。
「ショウタくん、気持ちはわかるんだけど、危険なことなんだよ?」
それを聞いてショウタは立ち上がる。
「あかんって!いつ襲われるかわからんのやろ!?」
その声は、いつものただ主人公にあこがれるだけのショウタとは、少し違って聞こえた。
「俺は死んだ時のことを全然覚えてへん!でも死んだら悲しかった!かあちゃんは死んだときのことを覚えとる!かあちゃんは泣いてた!かあちゃんは、とうちゃんにもう会われへんって泣いてた!死ぬってそういうことや!せやから……せやから……防ぎたいやんか!」
ショウタは少し涙ぐみながら声を出す。
「でも、僕たちも死ぬかもしれないんだよ?それに、僕らは自分たちがどれくらい強いのかも分かっていない」
ショウタの言葉に押されながらも、言わないといけないことを告げるタイヘイ。
「でもあの人たちを見捨てるのはあかん!」
「いや、でも彼らだけでも死なない可能性も」
「可能性なら俺らがおったほうが高くなるやん!」
「でもそれは……」
タイヘイが言葉を返そうとして、レオンが手を上げて阻止する。
「わしはどっちの意見も正しいと思うが……ここは助けて良いと思う」
ショウタが嬉しそうにレオンを見る。
「もちろん安全の保証はないが……1つ、彼らは戦闘力の分からないわしらが強特性であると分かっても平然としていた。それは、特性を使いこなした我々レベルであれば退けられる強さだと判断していいだろう」
なるほど、とタイヘイはうなずく。
「2つ、身体の特徴的に強特性であることがばればれの人間がここに5人もいる。それは相手へ警戒心を与える。相手が戦わないという選択肢も考えるかもしれない」
うんうん、と分かっているのかいないのか、カナエがうなずく。
「3つ、これは盗賊であると仮定した場合だが、それはつまり殺しより略奪に重点を置いているはず。てこずらせさえすれば、物資を奪って逃げていくと思う。以上だ」
タイヘイ、それにショウジもそれに了解の意を表示する。
「いいよわかった。助力しよう。ヒロミさん、何か聞こえたら教えてね」
ヒロミはうさ耳と一緒にぴょこんと頷く。
総意は決まったのを確かめ、レオンは立ち上がる。
「では……まずは急いでアンリさんに報告ですね」
ということで、ソウタはレオンでした。バレバレだったかな?それともうまくタイヘイ・ケンイチ・ショウジあたりに疑惑の目を向けられたかな?
アンリの前で嘘言ってないかチェックが大変だなあ……
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