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天才詐欺師は神から騙す  作者: たこまち
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馬車との遭遇

ブックマーク3人になっとる!ふおおおおおお!踊りながら書きました。

 林道を8人の人間が歩いている。林道自体はちょっとした散歩道といった具合で、周囲には木々や草花が生い茂り、木々の間から涼しい風が吹いている。

 先頭を歩くのは白髪の老人レオン。遠視の目を持つこの集団の案内役だ。

 後ろに4人の男が話しながら続く。

 1人は背の高い強面の男。炎の腕を持つケンイチ。

 ケンイチに肩車されている小学生くらいの男の子。同じく炎の腕を持つショウタ。

 ケンイチの隣にタイヘイ。オールバックのタレ目で、強靭の足を持つらしい。

 少し離れた場所を歩くのは元医者であるというショウジ。特性は明らかではないが、癒しを与える物であるそうだ。

 その後方には3人の女性で、彼女らは彼女らでいろいろと話をしている。

 1人はショウタの母親であるタエコ。氷の唇の証である青い唇を曲げ、笑顔で話している。

 他の二人は同級生であるらしい。鷹の爪をもつカナエが笑いながら話し、うさぎの耳を持つヒロミが呆れている。

「やっぱり炎の腕が一番強いよな!ぼうず!」

 ケンイチが頭の上でポーズをとっているショウタに言う。

「おう!炎の加護を受けたシュウヤと一緒や!一番強いに決まっとる!」

「シュウヤって?」

「知らんのん!?火炎のシュウヤっていう漫画の主人公!」

 タイヘイの質問に答えながら、ショウタはファイヤーアタック!とポーズをとる。さすがに肩車中なので炎なしのポーズのみだが。

「俺はそうは思わないな。一番強い特性」

 ショウジが言う。

「じゃあ何だと思うんだよ」

「ウサギの耳」

 ケンイチの質問にショウジは短く答える。

「え、だってお前ウサギの耳取ってないじゃん!」

「俺は強いとかじゃなく、医者としての助けになる特性がほしかっただけだ」

「じゃあなにか?炎の腕よりうさぎの耳の方が強いって言うのかよ」

 納得できない様子のケンイチ。ショウジははあ、とため息をついて答える。

「元プロレスラーだからかなのか?ケンイチは戦闘思考すぎる。もちろん戦ったら炎の腕が勝つかもしれないさ」

「やっぱそうだろ?」

「でも、戦う前に戦える。レオンさんの遠視の目や、ヒロミさんのうさぎの耳といった情報を察知する特性はそういったことができる点で最強だと思う」

 いまいちピンと来ていないケンイチの様子を見て、タイヘイが話を引き継ぐ。

「今僕たちは何もできていない。しかし、後ろのヒロミさんと、前のレオンさんには周囲の情報を探ってもらっている。盗賊などがいないか、野生動物が襲ってこないか、そういったこと」

「いや、役に立つってのはわかるが、最強とまでは言えないんじゃないか?」

 いまいちピンと来ていないケンイチはより詳しく説明を求める。

「つまり、ショウジさんの言いたいことはこう想像してくださいっていうこと。今自分がどこで何をしているか知られている。相手は罠を張りたい放題。近づかれたら逃げる。一方こっちは相手の位置も動きも分からない」

「……そりゃあ、きついな」

 納得したようにケンイチは頷く。そしてタイヘイのほうを見る。

「で、タイヘイの場合はその強い足腰が最強と思ったのか?」

 タイヘイは頭が痛い……とうなる。

「ケンイチはどうしてそう、強い特性を選ぶって考えるかなあ……。前世では登山が趣味でさ。でも足腰弱いのに無理して怪我しちゃって。登れなくなったんだよね。だから丈夫なのがいいなって思ったんだ」

 強いからとかじゃないひともたくさんいるんじゃないかな、とタイヘイはしめくくる。

「なるほどなあ。俺みたいな戦闘バカは珍しいんだな」

「戦闘バカやて!戦闘バカ!」

 ショウタがケンイチの言い方にウケて、頭の上ではしゃいでいる。

 誰がばかじゃい!とショウタを高い高いしながら笑うケンイチ。

 ふと、聞いてみたくなったようにケンイチはレオンに声をかける。

「レオンさん、こっちの世界を知ってるあんたから見たら、最強の特性って何だと思う?」

 話しかけられたレオンは歩むスピードをゆるめ、そうですのう、と考える。

「まず、先ほど言った通り、特性も使う人によってまちまちですからの。そのうえ強さというのはいろいろある。先ほどおっしゃっていた戦闘力や探知力に優れた強さ以外にも様々。逃げる力なんかも強さの一つかもしれんし、珍しいとこだと話術に長けた特性なんかもある」

「話術?」

 ショウジが聞き返す。

「さよう。真実の瞳という特性はご存知ですかな?綺麗な緑色の瞳での。人が嘘を言っているか見抜ける。どのように見えるのかは知らぬが、政治を行うものや商人など、嘘に敏感だったり逆に嘘をつきたい人間が渇望する物らしい」

 そういえばリストにあったな、と思い出したようにショウジ。タイヘイもあったね、と同意している。

 レオンは「わしのような凡人が持っておっても、使い道がなかったかもしれんがな」と笑う。

「であるから、わしは最も強い特性というのは一概には言えんと思う。逆に言うなら、自分の特性が最強になる条件・環境を整える力を持つこと。それこそが、最強と言えるかもしれんのう」

 ケンイチはなるほどなあと、感心したように何度も頷く。

「ケンイチ!どういうことや?」

 ショウタが尋ねる。

「俺たちは敵を見失わないことが大切ってことだ!」

 ケンイチは合っているような、間違っているようなことを言ってショウタとまたじゃれはじめる。


「レオンさん!」

 太陽が一番高く上る時間帯。不意に最後尾のヒロミがうさ耳をピンと立ててレオンを呼ぶ。

 一同は歩みを止める。恋バナらしき話で盛り上がっていた女性陣と、ロマンについて語り合っていた男性陣が陣形を崩して1カ所に集まる。

「何か聞こえますか」

 レオンはヒロミに尋ねる。

「はい。あっちの方向から。けっこう遠いです」

 ヒロミは進行方向よりもかなり左の方向を指さす。彼女のうさ耳もそっちを向いている。

「どんな音でしょう」

「馬……でしょうか。馬車のような音?あと……会話?」

「会話ですか」

「えっと……まだ……とか……レビーラ?……ごめんなさい。会話は難しい」

 いえ十分です、とレオンは言う。

「距離と、馬車の音のせいでしょう。恐らくレビーラへ行く商人ですな。魚でも運んでいるのでしょう」

「商人さん!?はいはい!話してみたい!」

 鷹の爪の生えた手を高くあげて、カナエが言う。

「こらこら、カナエちゃん。おちつきましょう」

「カナエ、あんたは落ち着きがない」

 タエコとヒロミが言う。

 レオンはしばらく考えた後、太陽を見て言う。

「今のペースで歩いてもレビーラには今日中に着けます。ですが、もし馬車に乗せてもらえたら日の出ているうちに着けるかもしれん。めんどくさい商人であったらもたつくかもしれんが、あまり立ち止まりたくないのが商人というものですからのう」

 どうしますか、とレオンは皆に問う。

「商人以外という可能性はないのか?」

 ショウジが尋ねる。

「ないわけではないが、馬ではなく馬車であるのであれば、可能性は低いと思う。念のため、道の合流地点付近で、わしが偵察にいきます。幸い街道に入る前に察知できたのじゃ。商人でなければ、そこで過ぎ去るのを待てばよいでしょう」

 それなら賛成。とショウジが手を挙げたのをきっかけに、次々と、最終的には全員が賛成の意を表す。

「分かりました。では皆様はこの道を歩いてきてください。わしは先に走って見てきます。ヒロミさん、どちらかというと馬車以外の物音に気をつけておいてください」

「はい、わかりました」

 そこまで言うとレオンは行ってきます、と軽く走り出して去っていく。


「ケンイチさん、どうもおおきに」

 7人で歩き始めてから数分後、タエコはケンイチの側まで歩いてきて、話しかける。

「ん?何のことだ?」

「いえ、ショウタのことです。よーさん遊んでいただいて」

 ああ、とケンイチは言う。

「俺は子供は好きだからな。気にするな」

 タエコはほんとですか、と笑顔だ。

「あの子、主人と遊んでいるときみたいにはしゃいじゃって。よっぽどケンイチさんのことが気に入ったんですかね」

 そういうショウタは、今は元女子高生2人に挟まれて、手をつなぎながら歩いている。

「いやあ、むしろ俺が遊んでもらってる。ほら、俺子供っぽいじゃない?」

 笑いながらケンイチは言う。つられてタエコもくすくすと笑う。

「俺、元プロレスラーって言ったっけ?試合が始まると、大人も子供も、みんな子供になっちゃうんだよなあ。勝ち負けに、ロマンに、熱い戦い自体にただ心が燃え上がる。それが好きでねえ」

「ほんまに素敵ですね」

「まあ、そんな子供だから向こうでは女の一つもできなかったんだろうけどな!ははは」

 タエコは少し意外なふうに尋ねる。

「彼女とかもいはらへんかったんですか?」

「いなかったねえ。職場に女性はいたけどさ。どうにも仕事仲間って感じで、恋愛っぽく見れなくてなあ……。ガキなだけかもだけど」

「へえ……じゃあこっちでは素敵な方と出会えるとええですね」

 ケンイチは「ああそうだな!」と言ったあと、付け加える。

「すでに一人、素敵なお母さんと出会えてるけどな!」

 ケンイチは「なんてな!」と笑いながら、前方のショウタに向かって駆けだす。

 あっけにとられたタエコは「おいぼうず!お前モテモテだな!」とショウタにちょっかいをかけるケンイチを見て吹き出す。笑いながら「ショウタ、お姉ちゃん達と遊んでもらってんの?」と輪に入っていく。


 しばらく歩いて、レオンと7人は街道に入ることろで合流する。

 林が切れ、草原の奥に小さい山、そして小川が見える。天気・時間も相まって、ピクニックをするには最適といった印象だ。

「お疲れ様です。馬車はもうそこまできておりますよ」

 レオンは目的地と逆の方向を指さす。

 やや速度を落とした3台の馬車が、縦に並んで走ってきている。

「どのような商人かは分かりませぬ。私が話をすすめます。皆さんは女神様に言われた通り、暗い顔をして、答えにくいことは答えずにしていていただきたい」

 レオンが全員に言う。


「強特性がこうもぞろぞろと……あんたら何者だ」

 馬車は転移者たちの目の前で止まると、先頭の馬車から傭兵らしき人物が10人くらい出てきた。装備がしっかりしていて、その態度からはいかに強特性であっても制圧できる自信がうかがえる。

「わしらは津波で壊滅した村の生き残りだ。レビーラに向かう途中だ。返せるものは少ないが、行き先が一緒なのだとしたら、連れて行っていただきたい。」

 レオンは礼をする。

 傭兵の一人が待っていろ、と言って最後尾の馬車へと走っていく。

 外見的には荷馬車であったが、そこから一人の少女が出てくる。

 ヒロミやカナエと同じく、高校生くらいの年齢だろうか。質のいい、赤い花柄のワンピースを着ている。

「おい、あれはやばい。」

「ああ、僕もそう思う。みんな、しばらくはレオンさんに完全に任せよう」

 ショウジとタイヘイが少女を見て、驚いた様子で軽く言葉を交わす。

 彼らが驚いた理由は彼女の美しさや立ち振る舞いのせいではない。彼女の澄んだ瞳だ。

「ほう……真実の瞳をお持ちの方ですか」

 彼女の澄んだ瞳の色は美しい緑。それはレオンの言葉通り、彼女は真実の瞳という強特性を持っていることを表していたからだ。



「こんにちは。テルリ商会の会長ゴンリ・テルリが娘、アンリ・テルリと申します」

 赤いワンピースの少女アンリが、転移者達に向けて挨拶をする。

「あなたたちは津波の被災者であるとお聞きしました。間違いありませんか」

「はい、間違いありません」

 レオンはすっぱりと言い切る。

 おいおい、とケンイチが後ろの方でぼやいている。

 もちろん、アンリの瞳が真実の瞳であるとするならば、ぼやきたくなる気持ちも分かる。

 今レオンは嘘を見破る相手に向かって堂々と嘘を言い放ったのだ。

 アンリはふうんと言いながら、怪しそうな目でレオンを見ている。

「面白いね」

 とタイヘイはこの状況を楽しんでいるみたいだ。女性陣は不安そうな目で見ていて、ショウタはよくわかっていないのか、女性陣のマネをして遊んでいる。

「昼の休憩所としてケレーン湖を探しているとお見受けいたします」

 レオンは会話を自分からしかける。

「ほう……それはあなたの特性で得た情報ですの?」

 アンリは会話に応じる。

「いえ、視界に入ってから馬車の速度が遅くなっておりました。この人数にこの物資ですので、水を補給できるケレーン湖を見逃さないように速度を落としているところ、と推察した次第。肉眼が見え、並の頭脳があれば推察できることであります」

 レオンはさらに言葉を続ける。

「私たちの中にはうさぎの耳を持つ物がおります。ケレーン湖の水の音を察知できるやもしれません。いかがでしょう」

 アンリは少し考えてから言う。

「信用」

 と。

「あなたたちを信用できるか判断しかねます。もう少し、この瞳に語りかけてはくれませんか?」

 どういうことや?とショウタが母親のタエコに聞いている。タエコは、もうちょっと待ちなさい。後で教えるから、と言いつけている。

 レオンはしばらく言葉を選ぶような時間をおいて、そして言う。

「アンリさん。確かにあなたはその瞳を持っているが故に、我々に疑いを持っておられるのでしょう。ですが、我々も複雑な状況です。言いたくないことや聞かれたくないことのいくつかもあります。ですがこれだけはお約束します」

 レオンはお辞儀をする。

「我々は、アンリさんにも、テルリ商会にも害を及ぼすようなことは考えておりません。ただ、同じ目的地を持つお互いの利になると思い、お願いしているものでございます。この言葉が嘘でないとその瞳が告げているのであれば、どうかご同行させていただけないでしょうか」

 その言葉を聞いて、タイヘイ、タエコ、ショウジ、ヒロミがお辞儀をする。つられて残りの3人もそれに続く。

「……いいでしょう」

 アンリは許しを出す。

「ただし、条件があります。あなたの名前は?」

「レオンでございます。レオン・シュナイゼル」

 アンリは「ほう……」とつぶやく。

「ではレオン。あなたは最後尾の荷馬車で私の話し相手をしてください。そしてそこのうさぎの耳の方?」

「はい、ヒロミです」

「そう、ヒロミさん。ケレーン湖の正確な場所を特定できるのでしたら、いくらか私たちの足は速くなります。可能であれば、おねがいしますね」

 アンリはにっこりとほほ笑む。

 その言葉を皮切りに、傭兵たちは武装を解除し、こっちだ案内する、と他の転移者を先頭の馬車へと連れていく。

「レオンさん……いいね。これは個人的にも、繋がっておきたいね」

 その人物の呟きは、誰の耳にも届かず、空へと消えた。

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