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天才詐欺師は神から騙す  作者: たこまち
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異世界の一歩目

続きです。

連日の更新ですが、更新は不定期で、毎日こんなに時間が取れる保証はないので、ご理解ください。

「タエコさん、どうでしょうか、気に入った服装はございましたか?」

 部屋に現れた金髪の女神が話しかけてくる。腕には緑色の腕章がある。

「ああ、イアニアさん。そうですね……ちょっと下を迷っているんですが……」

 タエコ、と呼ばれた女性は鏡をみながら返事をする。

 鏡に映るタエコの像は、タエコと似てはいるが、少し異なる容姿をしている。そして服装は鏡の前のタエコの服装とは完全に別物だ。

「今映ってるスカートか……こっちのズボンで迷ってて……どないしよ……」

 タエコは右手で足を触ると、鏡の中のスカートが藍色のズボンへと変化する。

「そうですね……あのスカートですと見た目ほど走りにくいというわけではないので、スカートでもいいのではないでしょうか?」

 イアニアは的確なアドバイスをする。

「ほんまですか?じゃあこっちにしよ!」

 タエコは左手で足を触り、鏡の中の自分の服装を白いスカートに戻す。

「かあちゃんいっつも服決めるの遅いねん」

 近くで大の字になって寝転がっている男の子が母タエコに言う。

「ええやん、おかあちゃんもおしゃれしたいねん。時間あるんやしゆっくり決めさせて」

「そんな変わらんって。ゲームの最初の装備とおんなじやろ?どうせすぐ変わるって」

「しばらく決めた服で過ごすねんで。大事なことやんか」

 わいのわいのと言いあう親子を見てクスクスと笑うイアニア。

「仲がよろしいのですね」

 タエコは微笑んで「そうですねえ」と言う。

「お父ちゃんにはもう会えないっていうのは、どうにも心に刺さったままですけど……。でも私は幸運なことに、まだショウタと一緒に居てあげられる。この子が泣きたいときに、元気なお母ちゃんでおりたいなあって、思ったんです。そのためにも、仲良くしとかんと」

「素敵な心掛けです」

 イアニアはタエコに微笑む。


「では、最終確認をいたしますね」

 しばらくして、紙を読み上げながらイアニアは告げる。

「これから転移いたしますと、お二人は林の中にいるはずです。同時に私や他の担当の転移者が数名そこにいるはずですのでみんなで行動してください。ひとまずの安全を確保するため、道に沿って歩いてください。1日もしないうちに村へとたどり着くでしょう」

 タエコとショウタは頷く。

「転移者の設定は、今回の津波の被害で住まいを奪われたシチ族の者です。転移先のシチ・タムタム国の人は被災者の詳しい事情を聞こうとはしないと思われるので、分からないことや話しにくいことは俯いていればなんとかなるでしょう」

 イアニアは紙を折りたたむ。

「イアニアさん、ありがとう!かあちゃんと俺にもっかい人生をくれて!」

 ショウタは笑顔だ。タエコがそれに続く。

「イアニアさん、本当におおきに。この子は幼くして人生が終わるとこでした。別の世界ですが、それでも死んで終わりにならないのは、ありがたいことです」

「いえいえ。こちらの都合ですから」

 そう言ってイアニアは部屋から出ていく。


 二人残された部屋で、タエコは話しかける。

「ショウタ……次の世界、楽しみか?」

 ショウタは、タエコの不安を消し飛ばすような笑顔で答える。

「当たり前や!見たやろ、俺の腕!こないだ始まったマンガの主人公そっくりやねん!これから――」

 転移まで数分。二度と父親に会えない親子の楽しそうな会話は絶えず続いた。


~~~~~~~~~~


 朝日の光が木々に、1日の始まりを知らせている。おだやかな風によって木々が鳴らす葉の音は、鳥の鳴き声や遠くの川の音と合わさって、今日という日のオープニングソングとなって、林全体にこだまする。それは、そこに現れた者たちの新たな人生を祝福する讃美歌でもあった。

「ここが……新しい世界……」

 そこにいた男がつぶやく。

「え……あんたヒロミ?ほんとにうさ耳生えてんじゃん!」

「カナエか……あんたの爪もすごいね」

 若い女性が二人、お互いの容姿について話している。

 林に現れた他の者はみな惚けたり、興奮気味に話したりしている。

「ようこそ、転移者の皆様」

 木々の演奏に乗せて、よく通る声が聞こえてくる。

「わしは案内役のレオン・シュナイゼルと申します。レオンとお呼びください」

 そこにいたのは、白髪で白いヒゲを生やした人であった。

 左目に眼帯をしている。

「案内役?」

 一人の男が尋ねる。元日本人にしては背が高く、顔もどこか威圧感のある男だ。半袖から覗く腕は右腕だけ黒い。

「さようです。わしは女神様方に村までの案内を任されておる者です」

 綺麗なお辞儀をするレオン。

「女神様のこと知ってるの?」

 若い女性が尋ねる。先ほどカナエと呼ばれていた、ショートカットで背の小さめな子だ。両手の爪が太く長く伸びている。

「知っていますぞ。とは言っても、こちらの世で生まれた者はおそらく、わし以外女神様のことなど知りませんがな。わしはここらの土地に詳しく、それでいてもうすぐ死ぬ年齢。女神様からするとちょうどよかったのでしょうな。今回の転移の案内役として例外的に知らされた、というわけです」

 レオンは「まあ、そういう意味ではなく、何らかの『女神』を信仰しておる者はおりますが」と付け加える。

 そこにいた数名の者はみな静かになり、レオンの言うことを聞く姿勢をとる。

「さて、転移者の皆様。皆様の以前おられた世界はに特性などなかったと聞いております。皆様の特性が正しく機能するかチェックを任されておりますので、一人づつ特性を使ってみてくださらんか。何らかの異常がある場合に女神様へ連絡することになっております」

「じゃあ俺がやってみる!」

 母親に連れられた男の子が手をあげる。先ほどのいかつい男と同じく右腕が黒い。

「おお、勇敢な戦士ですな。おぬし、名は?」

「俺ショウタ!俺の力でかあちゃんを守るんや!」

 ショウタはビシッっとポーズを決める。

「おお、そうかそうか。では1番手はショウタくん。君に任せよう。君の特性は炎の腕で間違いないな?」

 レオンはショウタの頭を撫でながら言う。

「せやで!やってみてええ?」

「いいともいいとも。腕を燃え上がらせるイメージをしてみなさい」

 ショウタは腕を体の前に持ってきてポーズを決める。そのままふりかっぶって

「ファイヤーアタック!」

 と叫ぶ。ショウタの腕が炎に変化する。真っ赤な炎がでてショウタはびっくりしたようだが、熱がったり痛がったりしている様子はない。

「おお!かあちゃんほんとに出た!ファイヤーアタック!」

 ショウタは腕を元の黒い腕に戻し、母親に興奮を伝えながらぴょんぴょんしている。

 周りの人々もそれを見て若干興奮気味であった。

「では……次はお母さま、いってみますか?」

「あ、はい!分かりました」

 スカートをはいたショウタの母親が言う。唇は血色が悪いわけではないが、美しい青色をしている。

「氷の唇ですな。つめたい息を吹いてみてください――」


 それから、そこにいた転移者の特性のテストを順番に行っていった。

 ショウタの母タエコは小さな吹雪のような息を出し、カナエと呼ばれた女の子は木にその爪で大きな傷をつけた。カナエの友人であろうヒロミと呼ばれたうさ耳の女の子は遠くの音が聞こえるという特性であったようで、見た目ではやっているのか分からなかったがちゃんと聞こえる、とレオンに伝えていた。

「では次は……」

 レオンが次の人物に声をかける。

「タイヘイです。その前に聞いていいですか」

 と、声をかけられた男が言う。

 オールバックのたれ目の男で日本人の平均的な身長をしている。パッと見て特性と思われる身体的な特徴は見られない。

「僕の特性が何であるか、言わないといけませんか?」

 それは、今まで特性の見せあいっこをしていた他の者とは逆の行動である。

「うーむ。無理にとは言いませんが……」

「いえ、僕は特性選択の時点で、自分の特性がばれにくいものを選んでいるのです。見た目で判別されるのは不利かもしれないと思って。ですのであまりペラペラとは言いたくなくて……」

 タイヘイはだめですか?と困ったような顔をしている。

 レオンは答える。

「なるほど。わしとしては特性がちゃんと動いているのであれば問題はありませぬ。じゃが……」

 レオンは困ったように言う。

 タイヘイはそれをうけて、それでは、と切り出す。

「特性を教えたり隠したりすることって、この世界で生きるのにどう関わるのか、教えてくれませんか?」

 タイヘイの言葉にレオンは一息いれてから、そうですね、と続ける。

「この世界で自分の特性を隠すことができるのはある意味武器になるやもしれません。それが強特性に分類される特性であればなおさら。そして、外見的特徴のない特性も弱特性にはたくさんあります。よって日常生活で特異な目で見られることもないでしょう」

 一方で、とレオンは続ける。

「この世界はいろいろな仕事を、できるだけ特性に合わせて割り振るようにできています。特性が何かわからない場合は仕事が難しいこともあるやもしれません。また、チームでする仕事の場合特性を打ち明けていないことがチームワークのマイナスにつながることもあります」

 タイヘイはしばらく考える様子を見せる。

 タイヘイが言葉を探している間に、他の声がかかる。

「お前……もしかして弱特性を選んだから外見に現れないんじゃねえの?」

 タイヘイは顔のいかつい黒腕の男を見返す。

「え、ちょ、まじ?強特性をあえて選ばないやつがいるとは思わ」

「ちがう」

 タイヘイは男の言葉に割り込み、そして降参したように両手をあげる。

「はあ……隠すことはこういった誤解も生まれるわけね」

 タイヘイはわかったわかった、と言って自分の特性を打ち明ける。

「僕の特性は強靭の足という。足腰が疲弊せず、長時間ずっと走れるようなものだが、速度が異常に速くなるわけでも足が硬くなるわけでもない。でもちゃんと強特性だよ」

 ああなるほど、とレオンが発する。

「身体的特徴は、ふとももの上あたりからお尻にかけて、皮膚が黄色くなるんでしたね。確かめるためには……」

 ショウタ以外の全員の脳裏に、下半身を晒したタイヘイの姿が思い描かれる。

「……まあわしら男はいいとしても、女性にみられるのはタイヘイくんも嫌じゃろうしな……」

 異常があれば教えてください、とレオンは締めくくる。


「ところで、そこの炎の腕のお方。お名前は?」

 レオンは顔のいかつい男に問う。

「ケンイチだが?」

 男――ケンイチは答える。

「おぬしは弱特性というものを侮っておられるようだ。確かに強特性というものは使いこなせばとても大きな力となる」

 じゃが、と真面目な顔をしてレオンは続ける。

「使いこなせておらん強特性より、使いこなし、工夫をこらした弱特性のほうがはるかに有用なのですよ」

 レオンは左目の眼帯を外し、みんなにその瞳を晒す。

「何の変哲もない目でありましょう?わしの特性は遠視の瞳といってのう。遠くを見ることができる物じゃが、弱特性だけあって大した距離を見えるわけではないんじゃ。だが……わしは遠視をするとき以外左目をこうして暗闇に閉じ込める。使うときに瞳孔が開いておるとそれなりの距離が見えるようになるからじゃ」

 レオンは「わしはこの工夫をもって、斥候として生きることに成功しておったのです」といいながら再び左目を暗闇の中に落とす。

「弱特性を侮り、強特性で慢心するのは危険、ということですね」

 タエコが引き締めた表情で言う。

 自らの驕りを指摘されたケンイチは姿勢を正し、レオンに礼をする。

「すまなかった。忠告、感謝する」

 ケンイチは顔をあげ、続ける。

「タイヘイ……と言ったか?お前にも悪いこと言ったな。俺の特性はそこのぼうずと同じ炎の腕だ。まあ見たらわかるか、はは。特性の確認はそうだな、タイヘイの特性が確認できてからでいいよ。それが順番ってもんだ」

 え、とタイヘイが声をあげる。

「能力を隠すなんて発想は、俺は思いつかなかった。俺と違う戦い方をするやつは好きだ。お前みたいなやつが特性の確認ができていないなら、それに付き合うぜ」

「なにその意味不明な理屈!僕は今すぐ確かめようもないだけなんだよ……さっさと確かめたらいいだろ?」

 タイヘイは、どちらかというとケンイチと深く関わり合いたくない様子で答える。

「いや、そもそも俺の力を見せる意味なんてないね。だってそうだろう?タイヘイの考えを参考に、俺は特性を隠すんだ。いや、能力自体はバレバレなんだが……。えっと……そうだ、じいさんの言った通り、使いこなし具合ってのがあるじゃねえか!俺の技のレベルを隠したっていいじゃねえか、な?俺は隠すぜ。お前の考えを取り入れてもっと強くなるんだ」

 やや強引な理屈であったが、どうやらケンイチは自分にない考え方を持つタイヘイが気に入ったようであった。タイヘイは、これ以上話し続けるのもめんどくさそうにしている。

「ふむ……まあその腕じゃったら問題ないのじゃろうか。では最後のおぬしにいこうか」

 レオンは二人の会話をうけて、最後の細身の男に声をかける。彼も見た目では特異なとこはない。

「あー、名はショウジ。俺もそうだな、チェックはいい。というより、もう確認できた」

 手袋をつけた手で長めの前髪を軽くいじる。

「特性は……サポート?癒す感じの特性だ、とだけ言っておこう。疲れたり怪我をしたりしたら行ってくれ。向こうでは医者だったから処置もできる」

 そう言ってショウジは締めくくる。

「ふうむ……まあよいでしょう。それでは、今から近くの村へ向かいます。注意点など多くはありませんが、歩きながら話しましょうか」


 特性を持って転移してきた者達は、ようやく移動の準備を始める。

 この中に、詐欺師が一人混じっていることは、誰も気づいていない。

ソウタはどいつだ!皆さんも予想してみてくださいね♪

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