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天才詐欺師は神から騙す  作者: たこまち
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女神との交渉

別の作品を書いていたのですが、引っ越し中にパソコンが触れず、別の作品を思いついたのでPC再開と同時に投稿。構想が沸いてきている状態の方を順次更新していくつもりです。しばらくはこっちかな?

 「さて、今回は悪魔的な一人の詐欺師を特集してきました。最後に皆さんから一言ずつお願いします。まずは指原さん」

 「えー、彼は多くの会社から現金をだまし取りました。当時の大手航空会社ZENEONなどその被害によって倒産にまで追い込まれています。彼の被害によって、われわれは社会がどのようにして「信用」というものを得ているのか、改めてよく考えないといけないと思います」

 「ありがとうございます。次に清原議員」

 「そうですね。可能な限り世の中を良くするために、法律というものを立法府は考えておりますが、詐欺師と言うのはこの隙をつくのにも長けている。彼が亡くなる前に何度か刑務所に足を運び、意見を聞いたのですが、法の穴探し、あら探しが本当に上手かった。皆さんには法律に違反していないというだけでは信用してはいけない、と伝えたいですね。」

 「ありがとうございます。最後に小宮さん」

 「そ、そうですね。えー、彼は、実は彼の詐欺は、えー、私を含めて3人、彼の行った詐欺で逮捕、えー、なんというのですか?あー、つまり、彼は自分の詐欺を、他人がやったように見せかけるのもうまかったのです。ですので、えー、私は彼のことをほとんど知らないわけでして、それなのに、彼は私のことをたくさん知っていたのです。ですから、えー、個人情報というものは、気をつけないといけないという、まあ、そういうことですね」

 「なるほどありがとうございました。本日の『日本の裏側』は『天才詐欺師とその手口』という内容でお送りしました。今日は皆さんありがとうございました。来週は『仮想通貨の裏事情』です」


~~~~~~~~~~


 そこは神殿のような場所であった。

 空は雲一つない青空で、地面もまた雲一つない青空である。

 宙に浮いた人間が30人ほど、ふわふわと神殿に引き寄せられていく。

 その人達の中に、その男はいた。

 大英博物館みたいだな、とその男は引き寄せられている場所とイギリスの有名な博物館を重ねる。


 神殿のあたりまで着くと、体に重力がふわっとかかり、階段に足が付くと同時に浮遊感はなくなった。

 こちらにどうぞー、と金髪の女性が階段の下に向かって手を振っている。特定の人物ではなく、全体へと話しかけている雰囲気であった。

 似たような女性が入り口には数人いて、皆同じ金色の刺繍の入った緑色の腕章を付けている。

 困惑した様子の人はみんな、現在の状況の説明をききたいからとりあえず、といった様子で短い階段を上っていく。

 男は後ろを振り返る。遠くから、自分たちと同じように数十人の団体が、あちこちからふわふわと近づいている。その誰もが、少しぼーっとしたような表情だ。


「君は……一人ですね」

 後ろを向いていた男に中央にいた金髪の女性が話しかける。この女性だけ青い腕章だ。

「死因はガンですか。はい、ではあの親子の後ろに並んでください」

 女性が指し示す方を見る。扉の前に30代ほどと思われる女性と、小学生くらいの男の子がいた。女性は泣いている。

「他のところではダメですか」

 他のいくつかの扉と、その前にできた列を指さして男は尋ねる。

 男に話しかけられた金髪の女性は困ったような顔をする。非常に美しい苦笑だ。

「ごめんなさい。どこでもあんまり変わらないんですけど、順番に割り振る規則でして……」

 そうですか、と男はしぶしぶといった様子で親子の後ろに並ぶ。


「かあちゃん、泣いたらあかんで。今からなんかやるんやから」

 後ろに並んだ男の子が母親を励ます声を聞きながら、しばらく時を待つ。

 盗み聞いたところ、この親子は交通事故で亡くなったらしい。父親だけ生き残って、でも子供は自分と死んでしまって、母親は泣いているようだ。男の子は事故の瞬間をよく覚えていないのか、いまいち現実味がない感じだ。


 しばらくすると扉が開いて、金髪の女性が出てくる。男はその女性の腕章の色を素早くチェックする。

「次の方どうぞ。あ、お子様もご一緒でかまいませんよ~」

 金髪の女性は母親に向けて笑顔を向けている。

「ゆっくりでいいですよ」

 と、男は立ち上がったばかりの母親にそっと近づき、背中をさすりながら話しかける。

「え、あ、はいどうも親切に……」

「今後のお話をされるので、落ち着いて、ゆっくり話してきてくださいね。きっと悪いことにはなりませんよ」

「はい……どうもおおきに、ありがとうございます」

 男は母親の背中を支えながら扉の方に歩いて行く。

「お知合いですか?」

 部屋の様子をちらと伺った男に、金髪の女性が首をかしげながら尋ねる。

「ああ、いや全然知らないです」

 と男が返答すると、そうですか?とまた首をかしげながらも、金髪の女性は母親と男の子を部屋へと案内する。


 さて、と取り残された男は思案する。

 自分はガンで死んだのであろう、と先ほどの母親と男の子の会話から推測する。

 死んだ瞬間を覚えていないから実感がない、というのは男の子と同じだ。自分の最後の記憶は医療刑務所のベッドで寝た場面である。

 後ろに並んできた男を見る。

 気の弱そうな男性だが、自分が死んだ、という悲壮感は感じられない。実感がないのはそう珍しいことではないのだろう。

 男は再び扉に視線を戻し、思案する。

 死んだであろう人の様子。チラ見した部屋の様子。金髪の女性の様子。

 そこから想像できるいろいろな可能性に合わせて、自分が()()()()()()()かを考える。



 しばらくして扉が開く。

「次の方、どうぞ」

 金髪の女性は変わらず笑顔だ。

 男は促されるままに部屋に入る。


~~~~~~~~~~


 そこは小さな部屋であった。

 大理石で作られているように見えるので厳かな雰囲気は受けるが、部屋の広さ自体は子供の遊びルームくらいのものだ。あるいは警察の取り調べ室か。奥には1つの大きめの机とイス、そして手前にもイスがある。


「そちらにおかけになってください」

 扉を閉めた金髪の女性はそう言って振り返り、一瞬固まる。

 男はとっくに椅子に座っていて、首だけで後ろの様子をみながら若干めんどくさそうな表情を金髪の女性に向けている。

 珍しい、と金髪の女性は思う。

 しかし、固まったのは一瞬のことで、彼女はそのまま机の前のイスにかけた。

 女性と男が向かい合う。女性は言いなれた導入を話し始める。

「さて、いろいろ今の状況に混乱しておられることでしょう。まずは説明を……」

「あーいいですいいです分かっているので」

 男は女性の言っていることを遮る。

 そんなことをされたのは初めてだった。

 彼女は普通に聞き返す。

「あー…はい?」

「いや、僕死んだんですよね?ガンで」

「あ、はいそうです」

「で、僕はこれから別のところへ連れて行くんですよね?」

「ああ、はいそうです。なぜそれ……」

「さっきの親子は同じところに行ったんですか?」

「はい。親子とも同じ世界に行く予定です」

「彼らは喜んでいましたか?」

「あ、はい。いや、えっと、どうでしょうか?納得はされたと思いますが」

 押され気味な女性を置いて、男は「そうですか。それはよかった」と頷く。

「で、僕はどこに行くんですか」

 金髪の女性はふう、と一呼吸おいて手元の紙の一枚を見ながら話す。

「あなたは、エンドウ・ソウタさんでいいですね」

「はい。その紙に書かれているその人物です。ですからその辺の確認とかはもうすっ飛ばしてください」

 女性は困ったように言う。

「どういうことかはわかりませんが、話すべきことは規則で一通り話す決まりになっていますので……」

「あーそうなの」と男――ソウタはめんどくさそうに言う。そしてじゃあどうぞ、とでもいうように手のひらを女性の方に出して言葉を待つ。

「あ、はい。ではあなたは、えー、さっきの様子から分かっているようですが、ガンによって死んでしまいました。本来は死んだ魂は転生し、新しい命として地球で生まれるはずなのですが、今回はあなたは転生ではなく別の世界に転移することになります。転生ではなく、転移しますので、記憶が無くなったり意識が変異したりすることはありません」

 ソウタは相変わらずめんどくさそうに聞いている。

「実はこの世界で大きな災害が起こり、とある国の人口が減ってしまったのです。転生では人口のバランスが取れそうにないので、人口が爆発的に増えている地球の死者から一定数を転移させることになりました。私はその担当の一人、女神のイアニアです」

 女性――イアニアは軽くおじぎをする。ソウタは相変わらずだ。

「さて、その世界では人は特性というものを1つ持って生まれてきます。転移される方々にはそれを自分で決める権利を有します。今からリストを渡しますので、1つ決めてください。体に特徴が出る特性も多いですので、それに合わせて、あなたの体を少し変化させ、調整し、その世界へ転移させます」

 イアニアは机の上の紙をぽんと叩くと数枚の紙がふわりと浮いて、ソウタの手元へと飛んでいく。

「あれ……終わり?特例は?」

 少しして、ソウタが不思議なことをつぶやく。

「特例?なんのことでしょう?」

「あれ?聞いてないのですか?」

 ソウタはびっくりしたように言う。

「ああなんだ、伝わってないんじゃんかよ。いや僕ね、実はここに何度も来てるんですよね」

「ええ!?」

 イアニアは驚く。

「いや、嘘です」

 イアニアはずっこける。そういえばこの人は詐欺師だったな、と調査書の内容を思い出して。

「でも1回来たことがあるのは本当なんです。これで2回目」

「本当ですか?」

 そうなんです、とソウタは続ける。

「その紙になんて書いてあるかわかんないけど、転生前のこと、つまり僕の前世についてって書かれてないんですよね?」

「あ、もちろんはい、転生する前のことは調査書には……」

「僕は前回転生するとき、記憶を残して転生させられたんですよ」

「っ!?そんなこと聞いたことが……」

 イアニアの驚きをどこ吹く風でソウタは続ける。

「そうなんですか?部署が違うのかな……前の担当の方は腕章の色が違いましたし」

 イアニアはそれを聞いてハッとした表情を浮かべる。

「もしかして……黒い腕章の方でしたか?」

 ソウタはにやりと内心ほくそえむ。

「黒だとどういう意味になるんです?」

「私たち緑は下っ端で、青・赤と変わるにつれて上位になるのですが、黒だけは位というよりは……人間の言葉で表すと研究者……でしょうか」

「研究者」

 ソウタはふーん、といった様子で呟く。

「あの方は研究者だったのですか……」

 イアニアは少し悩んだ後、立ち上がる。

「そういうことでしたら、ソウタさんの管轄は私とは違う可能性があります……。上に報告してきますので少々……」

「ああ、待って待って」

 ソウタはイアニアを引き留める。

「まず僕が前回言われたことを話していいですか?」

 イアニアは少し考え、分かりました、と再びイスに座る。

「前世では僕は戦争で死にました。で、当時の担当の方――黒の腕章の方は私にある実験に付き合ってほしいと言いました。なんかいろいろ話してましたけど、その話が長くて長くて」

 ソウタは思い出したくもない、というような表情になる。

「人間とは時間の感覚が違うんですかね。まあとにかく、そこで僕は記憶を残して転生する実験をさせてくれ、と言われました。もし次に死んだとき、記憶が残っていれば、3つ望みをかなえてやるって」

 なるほど、とイアニアは相槌をうつ。

「僕としては、またあの話の長い人と話すのはめんどくさいんです。もったいないけど、もう望みなんてなしでいいかって考えるくらいには……」

「それはだめです!」

 イアニアが割り込む。

「もし本当に黒の方の担当だったら、その約束が完遂されないと困るのです!黒の方々の実験のとばっちりは、したっぱに来るという噂です……。ですので……ですので、迷惑かと思いますが、確認をしないといけな」

「じゃあこうしませんか」

 待ってました、というタイミングでソウタは提案をイアニアにもちかける。

「僕は長い話が一番嫌。でも出来れば望みの特例を得たい」

「……はい」

「イアニアさんは確認ができない限り特例……そうだな、特性を増やす、とか。伝説の武器がほしい、とか?そういうのはできない」

「はい」

「では、僕の3つの願いで、イアニアさんの業務で可能なことをお願いする、というのはどうでしょう」

「っ!!」

 イアニアはしばらく考える。

 黒の方々のことなど下っ端の自分には分かるはずもなく、ソウタの話の真偽を知る方法はない。

 でも、もし彼の話が本当だったとしたら、願いを叶えないとまずい。

 一方で、詐欺師である彼の話が全て嘘だったとしたら、業務範囲外のことはできない。

 イアニアはこの部屋での、いや、入る前からのソウタの行動を思い返す。

 彼の行動はどこか慣れた物であった。彼が詐欺師として嘘をついていたとして、ここまで始めてくる場所で2度目の雰囲気を出すことができるものだろうか。

 そしてイアニアは思い当たる。

 嘘かどうかというのが()()()()()()()ということに。

「ソウタさんの話が嘘でも本当でも、問題はない……ということですか」

 ソウタは笑顔で頷く。

「まず、内容を聞かせてください」

 わかりました、とソウタは用意していた要求を告げる。

「まず、これから行く世界についてある程度質問したりしたいですので詳しく教えてください」

 記憶が残るなら前世との差や置かれる環境についてある程度説明はあるはず、との推測だ。

「分かりました。他の方にも軽く説明していますし、私のわかる範囲である程度お答えしましょう」

 そう言ってイアニアは頷く。

「次に、僕の容姿を軽くいじっていいですか?」

 特性に応じて外見を変化させる、とイアニアは言った。変化する、と言わなかったことから、今度の世界での外見的な違和感を無くすことも彼女の業務だ、との推測だ。

「はい。見た目の再構成も私の仕事です。私の許可の範囲で大丈夫です」

 イアニアは再度頷く。

「最後に……向こうで支給される服や荷物を転移する前にいただきたいのです」

 イアニアは最後は意味が分からずに聞き返す。

「えっと……当然転移する際、服や少量の食べ物などは支給しますし、服装やデザインもある程度選ぶことはできますが……事前に受け取ることに何の意味が?」

 ソウタはにっこり笑う。

「いえ、大したことではありません。容姿をいじるということは今の僕の姿にはもうなれないということですよね?だったら、異世界の服や荷物を所持した今の自分を見てみたいというだけですよ」

 イアニアはその感覚もいまいちピンとこなかったが、問題があるかと言われたらないので、了承することにした。

「分かりました。服と荷物をお渡しして、しばらくお部屋を用意します」

 ソウタはありがとうございます、と言う。

「それでは、どんな特性を持つ体にするか決めてください。決まったあと、次のお体のご用意と、次の世界の説明を行います」

 ソウタは軽く特性のリストに目を通し、さらりと告げる。

「決めました。僕の選ぶ特性は――」

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