World quantized 1
( 厂˙ω˙ )厂久々丸
その日はそのまま理由もわからないままに、みんなでコタツに入ってそれぞれがネットサーフィンを行って各所で情報収集、それをお互いに発表をし合うことになった。今は18:40分。かれこれログアウトから1時間ほどだろうか。
いくら私たちが喚き散らしてもどうにかなる問題ではないのだけれど、なぜだかやりたくなってしまうあたり、私もまだまだ子供だなぁと少し悲しくなる。
「えーとね、こっちの記事だとバベル攻略第一号者が出たって言う通知が来た次の瞬間にログアウトを促すメッセが飛んできて、みんな強制ログアウトになったらしいよ」
菜乃花が見つけた記事はまさしく私がクリアした事案を言っているのだろうなぁ、切り出せなかったなぁ、と思いちょっとした罪悪感が浮かぶ。ついに、ついにその記事が見つかってしまったか……気が重い。
自分もそうだが、彼女たちもゲームが大好きなのだ。それを奪ってしまったとなると彼女らの怒りの具合は計り知れない。挙動不審が自分の顔に出ていないだろうか、とても心配だ。
「……あー、もしか、してさ……」
「ん? どうしたの、美咲?」
たどたどしい口調で話し出したのは漆間 美咲。小柄で長い黒髪のツインテールという可愛らしい見た目に反し、怒りに任せて各ゲームの運営たちをこの世から消し去ろうと、先程までインターネットにスレッドをたてまくっては炎上させて批判意見を爆発させていたやばい子だ。
ちなみにその炎上行為はもう1人の部員である、大人びた凛々しい顔立ちに同年代よりはやや高い身長のポニーテーラー、霧雨 彩奈の手により沈静化され、何も無かったかのように跡形もなく削除された。
「……バベル攻略、したのって、おっつ?」
「……!?」
鋭すぎる彼女の指摘に、先程決意したばかりの隠し通そうという意志が揺らぎ始める。おっつ? って言ってきたそのたどたどしさは可愛いものがあるが、自分が血祭りに挙げられそうな今、そんな悠長なことは考えていられない。
顔に出すな、顔に出すな、無になれ無になれ。
「エ、ワタシナワケナイジャナイ?」
「……はっはー、ん……確信犯、だね……」
「……なぜバレた……」
「……ほう?」
「詳しく聞かせてもらいましょうか?」
3人からの圧力が怖いです、逃げてもよろしいでしょうか。今までこんなこと一度もなかったんだけどなぁ……みんながこんなにゲームのことで起こるとは。
「……黙秘権を行使……出来るわけないですね、はい」
黒く淀んだ3人の瞳の前に、私はなす術なくあの不思議出来事を話すことを強要されたのだった。
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「ははーん?」
「へぇー……」
「ほほう……」
「ア、アノミナサマドウシタノデショウカ……」
3人の微妙な反応に少し戸惑いながらも声をかける。アドバイスをすることが多く、みんなよりも常に一歩上というか先輩というかとにかくそんな感じでいた私としては、とにかく今の状況が息苦しくてたまらない。
「これは……」
「う、む……」
「罪状は決まったねぇ……ふふふ」
あれ、みなさん、罪状ってなんなのでしょうか、ここってそんな危ない集まりでしたっけ。神様仏様精霊様、今こそ私のことを助けてください、今まで散々あなたがたの世界を救ってきたじゃあありませんか! あ、それはゲームの中の話か……
「罪状は……」
「ウン?」
やけに長いタメに違和感を感じ、変な声が出てしまう。
「『私たちのレベリングに付き合う刑』だね」
「は?」
え、それいつもやってませんか? と突っ込みそうになった。
「だって、そのアナウンスは『パーティ組んでこい』って言ったんでしょ?」
「だったら、私たちしかいない……」
「基本的にぼっちプレイヤーなシアンちゃんについて行くのは私たちしかいませんねぇ……」
「あ、あの、サーバー戻ってないのにどうやってレベリングなんてするのでしょうか?」
「そんなの、ねぇ」
「う、ん……」
「「「あなたのポケットマネーでレベリングだけの為の個人サーバーたてればいいでしょうが」」」
「いや、あれはちょっと……」
過去に、この部活でオリジナルのVRゲームを作った時に使った個人サーバーがあった。
個人用だったため【ゲーチス】の使用許可が下りなかった、というかそもそも条件外だったので、過去のVRシステムを使って行ったのだ。
脳に投写するのでなくて、網膜に写すタイプ。水槽のような、ヘルメットのような面白おかしい旧型のVR機器を使ってダイブする、もはや過去のVRシステム。
まぁ、確かにアルファ版はその旧システムでやったのだけれど、個人サーバーの設立なんて出来るだろうか……
「多分無理だと思うんだけど……」
素直に言っておく。いくら発言権があると言ったって、何でもかんでも言ってやらせることが出来るわけじゃないのだ。しっかりと言っておかないと。
「やる前から諦めてんじゃないわよ、あれは運営からの挑戦なのよ、世界を救って見せろってね!」
厨二病よろしくとこじらせ発言をしだす菜乃花。
「そう、そう……わたしも、そうおもう……」
先程あんなに流暢に声を揃えて話していたというのに途端にたどたどしさが戻った美咲も、目を輝かせて菜乃花を援護する。
「ここはゲーム同好会ですからね、ゲーム、ちゃんとやらないと」
明らかに黒い笑みでこちらを見てくる彩奈の雰囲気に気圧され、私は仕方なくそこで折れる。抵抗しても最後には負けるのか明確だ……負けを認めるのは悔しいけれど……うっ、泣いてなんかないんだからねっ!
「……はい、運営と交渉してきます……」
「潔くてよろしい」
まだ私が原因と決まったやけじゃないのにこの叩かれようはなんなんだろう、この人生ってゲームもちゃんと攻略しないと神様助けてくれない系ですか? 一応自分から見た視点だと主人公なんですけど。あ、それは誰でもそうか。
仕方なくそこで負けを認めた私は、ひとまず件のゲーム会社【ヘクトール】に面会のメールを送る。
……流石にこれだけ大きな案件だと、あって話さないといけないからね……あの人には会いたくないんだけど……
こみ上げてくる不快感を抑えつつ、私は会社からの返信を待つことにした。
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