Artificial Intelligence of the world 3
( 厂˙ω˙ )厂大事件発生
円柱状に開けたその空間は周囲をステンドガラスに囲まれており、白い壁の色以外の色をここで見るのは初めてのことだった。
「うわ、自分で言っといてなんだけど、本当にラスボス臭半端ないね」
変に上がり始めたテンションを抑えるため、電子体の胸に手を置いて深呼吸をする。そもそも呼吸という概念がこの世界に存在をしているのかはよく分からないけれど、普段外でやっていることはやはりVRでもやってしまうのが人間の性というやつだろう。
「……あれ? ボスモンスターがいない……」
いつものように身構えてボスモンスターを探すが、姿が見えないどころか気配を一切感じなかった。
『ようこそ、下界の勇者よ。我々はアナタの来訪を歓迎します』
「はぁ?」
唐突に喋り始めたアナウンスに、ボスモンスターに神経をすり減らしていたのにいなかったことに対する怒り、すなわち八つ当たりというやつをぶつける。
「どういうこと? ここをクリアすれば塔制覇でダンジョンクリア。ゲームのシナリオはすべて攻略済みになるんじゃないの?」
『もういちどいいます。よくぞここまでたどり着きました、下界の勇者よ。アナタは私たちの世界に招かれる権利を得ました。しかし今日はもう遅い。そして、我々の世界はいくら強いアナタでも一人でいるには厳しいところでしょう。パーティメンバーでも連れて、明日またいらっしゃってください』
「え、何言ってるの? というかこれもシナリオ? でも、いまパーティメンバーって……」
『物わかりの悪い方ですね、強制退去していただきましょうか。まぁ、詳しくは後で持ち物でも確認すればわかると思いますから』
「え、いや、一体どういう……」
『システム起動、強制ログアウトを実施します。プレイヤーの皆さんは今から1分以内に現時点でのデータをセーブしてください』
「え、ちょっと!?」
何が何だかわからず、しかしアナウンスはメンテナンスの時と全く変わらない言葉を発したので怖くなり、咄嗟にメニュー画面を開いてセーブを行う。
『強制ログアウトまであと10秒、9、8、7……』
笑えない話だ。まさか運営、誰かがここまで来ると思ってなくて、今からステージを作ってアプデ作業をするとかじゃないでしょうね?
おいおい、ウソでしょ!? ここまでやってきて? こんなに苦労してきて? 自身に復活しちゃいけないしばりをつけてまでソロでここまで到達した私に、なんの報酬も用意されていないだなんて……
『6、5……』
あー、最悪、ドロップとかなかったっけ、最後の数秒で人目だけ見ておくか。
『4、3、2……』
「【天界へと到達した勇者たちの招待状】? なにこれ……」
『1、0。ログアウト』
私が謎のアイテムを見つけたのと同時に視界が一気に暗転し、目を開けると、そこに広がっていたのはいつもの部室だった。
「なんなのこれ!?」
「強制ログアウトって、ありえないんだけど!?」
「……うん、えい、消すっ……」
ほかの部員達も同じようにログアウトされたようで口々に怒りの言葉をあげていた。
……おかしい、今日はみんな違うゲームをプレイしていたはずだ。
同じネット回線を使っている関係で、この部屋に入ると私たちの端末はこの部屋の親機に対する子機という扱いになる。
親機の情報は常に更新され続け、誰がどのゲームをプレイしているかということは、設定でお互いに通知が来るようにしていた。
あとから来た人でも、同じゲームにログインをしていれば、今誰がこの世界にログインをしているか通知が来る、というように互いのいる場所をわかりやすくしている。そうすることで、仮想世界で何かあった時に互いに対処をし合うことが出来るからだ。
しかしその表示が出ることは無かった。つまり、ほかのVRゲームでも同じ現象が起きている?
「まさか、そんなこと……」
そんなことあるわけないと思いつつ、急いでWebブラウザのアプリケーションを起動して、VRMMOのゲームのニュースをどこよりも早く伝えることをモットーにしているというまとめサイトに飛ぶ。
「そんな……」
そこに記されていたのは、『現在、市場で販売されているゲームのうち90パーセント以上のソフトで強制ログアウト行われた事が確認された。原因は依然掴めず、各開発会社たちが集まり、全てのVRMMOゲームの核となる【ゲーチス】の点検及び技師による修理を行うと声明を発表。一部のプレイヤーはログアウトが不可能な状態になり、セーフティモードがなければそのまま死んでいた可能性も。現段階で死者は1人も出ていないが、各開発会社たちに対して早急な原因究明と対処が求められる』という内容だった。
今まであったVRゲームの事故とは違う。24時間体制で技師による修理改修、そしてバージョンアップが行われている【ゲーチス】がそんな簡単に不具合を起こしてこれだけの事件を起こすはずがない。
だってあの核には、自己修復機能と非常時の警告システムが備わっているのだ。それをあそこに務めている熟練の技師たちが見落とすはずもない。
自身の体の半分以上を機械化して延命してまで彼らが守ってきたあの核を、彼らがそんな簡単に夜の非難批判の対象に成りうるような行為をするだろうか?
全く状況が掴めないまま、ただただネットニュースのスレッドが追加されていく。
私は自分が何かやらかしてしまったのではないかという不安に浸りながら、ゆっくりと、部屋の中心に備え付けられたこたつの中へと足を運んだ。
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ぶるぼぶぶぶ!(一部の人しかわからないネタ)