G 自作ゲームのくせに!
家に帰ると……さっそく自室にこもり、パソコンの電源を入れる。
なぜだろう……ドキドキしている……。
部屋のクーラをキンキンに冷やし、パソコンの電源を入れる。パソコンは高熱にめっきり弱い。暑さに我慢してパソコンしてっと、結局は寿命を短くしてしまう……パソコンも、人間も。
パソコンやってて部屋で熱中症になったら……あの世に行って笑われること疑いなした。
タワーモデルパソコンのデカいファンが、心地のいい低い唸り音を上げて回りだし、ハードディスクがググッググッ――っと産声を上げると、机一杯のワイド液晶ディスプレイにパソコンメーカーのロゴマークが姿を現せる。
さあ~て、どうやってこのゲームをチートしてやろうか――。
つまりは受け取った自作ゲーム、ズルしてやるって事だ。
隠れたアイテムや、全クリしなきゃ出てこない分岐を、あらかじめ他のプログラムで全て暴き出すやり方だ。
プログラマーの思惑を逆手に取って、わずか数分で感動のエンディングとやらに辿り着く。
あのつぶらな瞳がパッと見開いて……「もうクリアしたのっ?」 て驚く顔が目に浮かぶぜ。
……まあ、可愛くなくはない……か、タイプじゃねーけどな……。
触ると鳥肌がたつようなCD―Rをタワーパソコンに入れて、マウスを左クリックする。
カチッ……カチッ……。心地よい俺のマウスのクリック音。
俺専用の手に馴染んだ高性能マウス。まるで体の一部のように使い心地がいい。手に吸い付くとはこの感覚を言うのだろう。
……さっそく、ため息が一つこぼれた……。
『プロダクトキーを入力してください!』
画面中央にビックリマークとコメントが表示される……。
「はあ? プロダクトキーを入力して下さいだと?」
部屋の中で一人、そのまんま読み上げてしまったじゃないか~――!
「バカか! ふつう自作ゲームにそんな面倒なことするか?」
CDケースは透明で何も書かれていない……。って事は、見落としていたがCDの表面にプリントしてあったのかもしれない。
しぶしぶCDを一度パソコンから取り出すと……そこには二十四文字、大文字小文字数字混じりの、うんざりするような複雑なプロダクトキーがしっかりと記載してありやがる……。
スマホで撮った。
カシャ……。
その行動が……「うっふんクス森ピクピク」のジャケット撮影しているようで……頭から湯気が出そうになる~!
なんツーカー腹立つ。そもそもプロダクトキーをCDに記載してたら……意味あるか?
銀行のカードに暗証番号をマジックで書いているようなもんじゃねーか?
プロダクトキーを入力して実行すると、最初に出てくる見覚えのあるロゴマーク……。
無料配布のシミュレーションゲーム作成アプリを使って作ったんだな……。ならチートするのも楽勝だ――。ネット上にはそういった自作ゲームまでもをチートするアプリが無料でバラまかれている……。
大手ゲームメーカーとかが作った製品版のシミュレーションゲームを作るツールでもなければ、……俺にチートできないわけがない! フッ。
……しかし、わざわざ長いプロダクトキーなんてものを使ってロックしているってことは、少なからずセキュリティーに気を使っているということだ……。ほんの少し俺の期待を膨らまさせた……。
木南が五〇〇円取ろうとしたのも、それなりに自作ゲームに自信がある表れなのかもしれない。
もしかして、本格エロゲーか? ネットにも出回っていないような……。なんせ、「うっふんクス森ピクピク」なんだからなあ……。
しかし、もしエロゲーなら、「十八禁」とかをジャケットに印刷しておかないとダメだろう……。
CDにはフルボイスとも書かれていた。CVってキャラクターボイスの略だよな……。西堀恵理って誰だ……? ゲームに声を入れた人の名前なのだろうが……。
内容がまったく分からないが、ネット上では味わえない独特の興奮を満喫していたのは、……悔しいが事実だ……。
知らないうちに俺は、「うっふんクス森ピクピク」に多大な期待をし、興奮していた――。
――しかし、所詮は素人の作ったクソゲー。
……騙された……。期待が大きいほど、――裏切られた時のショックもはかり知れないぜ!
なぜ、こんなクソゲーを俺に渡しやがったんだ――あいつは!
俺がエロゲーばっかりしている嫌な男子だから、からかったに違いない――!
俺が成績優秀で優越感に浸った上から目線な嫌な奴だと――嫉妬しているに違いない!
俺の身長が一八〇センチあるのに対し、木南はクラスで一番背が低い。――俺に対する単なるひがみか?
「はっ! まさか!」
慌ててCD―Rをウイルススキャンにかけた――。
――やら……れたか? 浅はかだったと後悔する。
あの女の目的が、俺を陥れることだったのなら、このCD―Rにはゲーム以外のコンピューターウイルスが大量に仕掛けられていたのかも知れない――!
大事な俺のパソコンを犯されてはいけない!
CDのスキャンが終わると、次にパソコン全体も、くまなくフルスキャンをかけた。
幸いにも……ウイルスは発見されずにすんだ……。
スキャンが終わり俺は……スキャン進行画面を最後まで見守っていたことに気づいた……。
 




