C ゲームの達成感にケチ付ける幼馴染にケチ付ける!
ゲームの達成感は人それぞれ……? それなのに、幼馴染にケチを付けられると腹が立つ!?
確かに俺はゲームが好きだ。だがその楽しみ方が、本来のそれとはちょっとばかり違う。
一から真面目にやらない。つまり、チートだチート。要するに、ズルだ。
素人が作って公開している自作ゲームを片っ端からチートしてクリアーし、バグを見つけて作者に偉そうに指摘してやったり、馬鹿にしてやったり……。
まあ、真面目にゲームを作ったりプレイしたりしている奴らを見下して、優越感にドップリ浸るってやつだな。
金がかからないし、スカッとする――!
『ゲームをした感想をコメントして下さい~』なんて書いてあるから、俺だってズバズバ書いてやるのさ。『時間の無駄だった』とか『俺のプレイしたクソゲーランキング上位に入賞しました』とか。
そもそもゲームはストーリーを楽しむものだろ?
ロープレとかでレベルアップに時間を費やすのは、それなりの有名なゲームでも十分ウザい。腹一杯だ。ましてや自己満足の為だけに作っているような自作ゲームをクリアーする為に、何時間も掛かったら、誰もやらねーっつーの。その時点でクソゲーだっつーの。作者も気付けよって言いたい。
あと、……作者しかクリアーできねーような鬼ゲーも堂々たるクソゲーだ!
絶対に作るなと言っておきたい……。
あと、途中でバグってエンディングに辿り着けねーゲーム。……もうゲームじゃねえー!
せめて、一度くらいてめーでテストプレイしとけと、怒鳴り散らしてやりたい……。
あと……って、語りだしたら……きりがねえな……。
昔はそんなクソゲーが堂々と金取って売られていた時代もあったらしい。今の世の中なら詐欺で訴えられるぜ。クソゲー詐欺だ。
――ゲームだって苦労するからこそ、クリアした時の達成感が産まれる? ……昔話だな。地中海の底に埋めて化石にしてやりたいぜ。
あの昔話で有名な「桃太郎」ですらたいした苦労してねーよ。ラスボス以外と戦ってレベル上げたって部分を……話に混ぜないと、全国の幼稚園児達は勘違いしてしまうぜ。
きびだんごチートだって――。
おばあちゃんが作ってくれたきび団子……。得体の知れない添加物が……たっぷり混ぜられていたんじゃないか? 逆に怖いぜ……。見ず知らずの人に怪しい物をもらってはいけませんって教育は、幼稚園の絵本から見直した方がいいんじゃねーか?
今ならきびだんご……タッパに入れて保冷材で冷やし、食べる時には石鹸で手を三十秒以上洗ってから食べねーと、衛生上――問題ありだぜ。
話がそれてしまったが、そんな俺が中学の時……、
「チートしてるのは、現実で何も要求が満たされてないからじゃないの?」
なんて言われたことがあった……。
保育所からの幼馴染、渡利春佳にだ――。
正直ムカついた。――いや、普通はムカつくだろ?
この世には、思っていても言って良いことと悪いことがある。春佳は人の気持ちや、相手の気持ちを理解できないんじゃないのか?
身長や体形だけはすくすく成長しているが、ハッキリいって春佳は子供だ。幼馴染として恥ずかしい――。人間は、容姿だけでなく、頭の中身の成長の方が大切だと言ってやりたい。
ゲームをクリアした時の達成感なんて、人それぞれじゃないか! クリアしたのにレベルを上げ続けるのだって、ラスボスより強い敵を何時間もかけて倒しに行くのだって、それぞれの達成感の違いさ! ズルズル課金するのもそうだし、大切な成長期に睡眠時間を削ってゲームしている奴らも大勢いる。
勉強もロクにせずに、ゲームばっかりやっている奴がほとんどだ。後で後悔するだって? ――そんなのは後の祭りさ。
それを知っていても――今、ゲームがしたいんだから、仕方ないだろ?
それをだなあ……ゲームすら殆どやったこともない女子が、分かったようなフリしやがって――!
思い出すだけで、腹立たしい――。
ああ~なんか――、こんなに怒って毒吐いてると、
……まるで俺が幼馴染の春佳に気があるような錯覚に陥り……。より腹立たしい~――!
そんな春佳も俺と同じ高校へ進学した。成績はどうせ俺よりは下だろう。クラスが違うから夏期補習に来ているかどうかなんて知らない。欠点がなくても勉強のしたいやつは塾の代わりとして、自由に参加できるからなあ。
校門を抜けると長い自転車小屋の決められた場所へ自転車を止め、鍵を掛ける。昨日の終業式とはうって変わり、自転車の数は数台しか見当たらない。
下駄箱にも生徒の姿は僅か……チラホラだ。校則で決まっているから夏休み中とはいえ全員制服姿だ。いかにも補習に来てそうな女子の……短い制服のスカートを横目に教室へと向かった。
「あれ? ヒロ、お前、なんか欠点あったのか?」
教室へ入ると、恐らくは成績底辺争いをしている連中が目につき、その中でもダントツビリケツの友達、谷山翔が珍しい模様のアゲハ蝶でも見つけたかのような顔をして近付いてくる。
「お前じゃあるまいし、あるわけねーだろ! このオール欠点め!」
「ハッハッはっ! ――オールじゃないぞ! セーフだったのもいくつかあるぞ! 体育!」
自信満々でグーのサインを出しながら言うことじゃないだろ……。
期末テストの前日だって俺はチートしてゲームをしていた。だが、翔もゲームをしていたらしい――! こいつは正真正銘の馬鹿だ!
自分本意を多少なりとも自負する俺ですら――、「テストで最下位のお前は――ゲームなんかするなって!」……真剣に心配してそう叫んでしまったほどだった……。
「じゃあ、なんでわざわざこの暑い中、成績優秀のお前が夏季補習になんかに来たんだ? 暑さでどこか頭ん中がショートでもしたか?」
「違うわい――」
「頭の中が、チートでもしたか?」
「……」
この馬鹿の頭を……本気でチートして、少しは真っ当な人間の脳に書き換えてやりたい……。
鞄を机の横に掛ける。補習を真剣に受ける気なんてなかったから、わざわざ鞄を持ってくる必要もなかったのだが、……中には一枚のCD―Rが入っている……。
これのせいで、わざわざ俺は、今日、ここへ来なくてはならなかったのだ――。
苛立ちがヒシヒシと湧き上がってくる……。
あいつは……まだ来ていないのが……一層俺の怒りを膨らませる……。