A チート人生に憧れる現代高校生。俺!
俺の名は佐倉枇榔。高校一年。友達からは「ヒロ」って呼ばれていることに関して、説明する必要は……ないな。
高校に入ってからは、部活なんかしていない。このくそ暑い中、汗なんてかいてられっか。努力や根性、熱血なんて言葉、地中海の底の化石だ――。激レアかもしれないが欲しいとは思わない。
そんな俺にだって、子供の頃から夢がある。大金持ちになって、アイドルみたいな可愛い女の子と結婚することだ。今だってそれは変わっていない。考えてもみろよ――。
誰だって大金持ちになりたいだろ?
誰だって、他の奴らから羨ましがられるような可愛い女子と付き合いたいだろ?
でも、そのためには、やっぱり金だ。財源だ――!
しっかし……なんで大人が一生懸命働き続けているのかがサッパリ理解できねー。株や為替、FXでもすれば苦労せずにいくらでも儲けられるのに……。自宅でパソコンの前に座って、ボタンをポチポチやってれば、汗水かいたり汚れたり……頭下げたり怪我したりせずに、いくらでも稼げるだろう。もっと簡単に稼ぐ方法がいくらでもあるだろうに……。
――まあ、世の中、他の人間より少しばかり賢ければ、その分だけ楽して稼げるのさ。
逆に言えば、頭が悪い奴はその分だけ汗水かいて働けばいいってことさ――。俺の両親……このクソ暑い真夏日に……必死に働いている。お互い……もっといい相手を見つければ良かったのに……なんてな。
当然だが、俺は汗水たらして両親のように働くつもりはさらさらない。今、やらなくてはいけないことだってちゃ~んと分かっている。それは、勉強だ。そして俺は当然だが成績優秀だ――。
俺が成績優秀な理由を教えてやろうか? ――とっても簡単だぜ。
テストの結果で小遣いが増えるからだ。
考えてもみろよ、塾代なんてものを……何万円も毎月毎月税金のように払い続けるくらいなら、親と交渉し、勉強するからと言って貰ってやればいいのよ。テストの順位で高額な小遣いを貰う……変動制小遣い交渉ってやつだ。
中学の時に学年で一位を取った時の親の顔……見せてやりたかったぜ。
高校もこの辺りでは一番の進学校に入り、一学期のテストで俺は、当然のようにクラスで一位だった。
だが……、その俺がだ!
成績底辺の奴らがこぞって受ける、学校の「夏季補習」一日目に来たのには……俺らしからぬ理由がある――。
夏とはいえ、海沿いで木陰が続く通学路は、まだ涼しい風が吹き抜ける。
リアス式海岸沿いの国道を自転車で疾走するのは気分がいい――。悪くない――が、決して良くもない~! すぐに汗だくになってしまう。海岸沿いに約十キロに及ぶ俺の通学路。住んでいるところが田舎だから仕方ないって言えばしかたがない。
……だが、別に俺は都会に憧れているわけでもない。なぜなら、わざわざ都会に出て新しい生活、近所づきあい、人間関係……。一から始めるのはハッキリ言って面倒くさい。――自宅で仕事ができるのなら、今の環境にどっぷり浸かっていたいのさ。
だから俺はこの海あり、山あり、田んぼあり、リアス式海岸ありのこの通学路も……嫌いではないのだ……。
――だが! いくら嫌いではなく好きだといえども、勾配がキツイ坂道。ピューっと吹く潮風。なにより真夏の直射日光! ……もううんざりだ。朝8時でこの暑さなら……日差しがきつくなる帰りは、パンツまで汗かくだろう……くそ!
なぜ夏休み初日に部活動すらしておらず、補習に行く必要もないこの俺が! 行く必要もない学校へ行かなければならないのか~――!
汗と暑さが……俺のイライラを頭の頂点まで……また押し上げようとしている――。
思い出したくもないことを、思い出させる!
「ハア、ハア、マジでイライラするぜ――」