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O ゲーム内のオタク 西堀恵理

少しずつ「うっふんクス森ピクピク」は改善され……いい作品になっているハズなのだが……。


 補習が終わると、鵙美にまたCDを渡された。


 同じCDやUSBメモリとかを使えばいいのに……それに、毎回プロダクトキーを変えなくてもいいのに――! っつーか、どうでもいいが、修正するの早過ぎねーか? 返した次の日に持って来るもんだから、結局俺は毎日学校へ来るハメになるし、二日に一度、「うっふんクス森ピクピク」をテストプレーすることになる~!

 しかも変更したところを確認しないといけないから……毎回、全クリしないといけねー!

 頭から……鵙美の甘ったるい声が離れない……。


 洗脳って……こうやって確実に人を自分の思い通りにするのかも知れない。怖ろしいぜ。気を付けよ。



 タイトルを見て、今日は驚いた。キャラが……可愛くなっているじゃないか。

 鵙美……同人誌とか書いたら、そこそこ人気出るんじゃないだろうか……。


 最初のキャラ、幼馴染役の西堀恵理は、……どことなく雰囲気が、春佳に似ている気がする……。

いや? 髪形がツインテールになっている――!


 高校に入学して、大きなツインテールなんて髪形をしているのは、春佳しか見たことがない……。つまり、春佳がツインテールを止めたら……。絶滅危惧種が……絶滅したことになっちまう~! まあ、そんな天然記念物どうこうの話はいいとして……。

 幼馴染だけじゃなく、クラスのアイドル役の二人目のキャラも、――似ている。九条佑里香に! そして、三人目のオタクぽい真面目キャラは、鵙美なのだろうか?


 ……これは思わず笑える。


 しかし……その三人目のキャラの名前が西堀恵理で、……CDラベルに印刷されたタイトルにも、CV:西堀恵理と書かれているってところが……なにを意図しているのかが分かんねー。


 どっちも……いや、全員……声は木南鵙美なのに~! まさに鬼のフルボイスゲーだ。


 まあ、自作ゲームとはいえ、自分を登場させたり、自分の名前を入れる訳にはいかないから、鵙美なりに頭を捻って考えたのだろう。


 しかし……。そんなゲームの中の自分の分身のようなキャラを……トラックに轢かれて死なせるようなバッドエンドにしなくてもいいだろうに……。普通は、最後に自分をハッピーエンドにしたがるはずだろ?


 まあ……。あいつなら車に轢かれても、――全然構わん――。


 たぶん泣かん――。

 たぶん死なん――。


 って、鬼か俺は……。だから、ちゃんと次の日、それを指摘してやったのだ……。



「最後の交通事故はグロいって。あの画像だけホラーゲーム級だ。だいたい、人間がトラックに轢かれたって――


 ()()微塵(みじん)の肉片にはならないだろ――」


 鵙美はまたメモを取る。

「画像も、バッドエンド的にもだなあ、もうちょっとグロさを抑えないと……いつもお前の言っているリアリティーがなくなると思うぞ」

「それはダメだわ。分かった、明日までに修正してくる!」 

「ああ。それにだ、目の前でそんな惨劇を見た直後に、主人公がエンエン泣いたりもしねえよ。どちらかと言えば、愕然とするとか……呆然とするとか……失禁するとか?」

「軽い尿漏れね?」

「……程度は……任せる」

 メモに……「大失禁」と書いてやがる。

「……まあ、俺だったら……好きでもない女子が死んでも涙ひとつ流さねーけどな」

 鵙美の眼鏡が少し光った気がした……。

「あれ? 今のはただの冗談だぞ……」


「それ、いただき!」

 メモにグリグリと鉛筆で鵙美なりのアイデアが書き込まれていく――。……なんつーポジティブシンキングなんだ、こいつは!

「それと、SEまで自分の声で入れるなよ……」

「SEってなによ?」

「サウンドエフェクト……要するに効果音だな。最後の交通事故のシーン、お前が「きききき~がん!」 て声って録音してるだろ? 緊迫したムードが台無しだぜ」

 交通事故の緊迫したシーンなのに……思わず笑ってしまう。「ききききがん」に危機感がない!

「でも、そんな効果音、実際に録音なんてできないじゃない」

「ネットとかから拝借したらいいじゃないか」

「駄目よ、ダメダメ! ヒロ君、勝手にネット上の物を使っちゃいけないのよ」


 ……いちいち正論を吐きやがる……。

「なら、自分で録音しろよ!」

「私、免許持ってないもん!」

 俺もさー。っつーか、まだ車なんか乗れるわけねーだろ!

 鵙美の顔が、パッと明るくなった。

「海岸の急カーブのところで、スリップする車を待つ?」

「この炎天下で……いったい何時間待つつもりだ?」

 そんなにスリップする車……走ってねーぞ。まあ、真夜中はそこそこいるかも知らねえけどなあ……。

 走り屋とか、飲酒運転屋とか……。

「油、まく?」

「……」

 怒られるだけでは済まされないぞ……。

「ガソリンは?」

「……」

 路上にガソリンを撒いてはいけませんと……誰か教えてやってくれ!


 いや、路上以外でも駄目だ! ガソリン撒いたら絶対駄目だ――! 節分の豆とは違うんだ――!

「――バカか! ゲーム作りのリアリティーを求めるからと言って、そんなことやっちゃダメだ! 火だるまになるっつ~の! ……例えば身近にある物で……自転車のブレーキ音と一斗(いっと)(かん)で出せるんじゃないか? キキキキーガン!」

「一斗缶ってなに?」

 なにって言われると……十八リットル入る金属の箱なんだが……。

「ほら、「お笑い」とかで頭叩くと大きな音が出る銀色のヤツだよ」

「あー。ドラム缶か~!」


 200リットル入るドラム缶……。

 空っぽでも、叩かれたら死ぬぞ……。


 必死でまたメモにその事を書いている。その間、じっと鵙美の顔を見ていた。冗談みたいな話を必死に書き込んでいるところを見ていると、ちょっと悪戯心に火がついてしまった。

 ふいに……鵙美の眼鏡を両手でそっと外す……。

「あ!」

「うーん。やっぱ三人目のキャラは木南鵙美そのものだな。こりゃ間違いない」


「――! ちょっと急に何するのよ! 眼鏡返して」

 急に赤くなって大きな瞳で手を伸ばす。ワザと高いところへ上げて意地悪をしてやる。

 鵙身は背が低いから、ジャンプしたって俺の上げた手には届かない。必死になっているのが意外と可愛いかも。

「ヒロ君の意地悪! 返せ~」

「ハハハ、悪い悪い。ほらよ」

 返してやるとホッペを膨らませ、口に餌を一杯入れたハムスターみたいな顔をする――。

「お前、眼鏡していない方が可愛いぞ」

「……! そ、そんな萌え系アニメみたいな褒め方されても、嬉しくもなんともないんだからね!」

 ツンデレ系アニメみたいな返しが……また笑えてくる。

 眼鏡を外しても鵙美の瞳は大きく、透き通っていた。


 ん? 

 あの眼鏡……。

 普通の眼鏡じゃなかったんじゃないのか?


 その時は漠然とそう感じただけだった。何が普通と違ったのか、眼鏡をかけたことがない俺には、分からなかった……



 外ではこの暑い中、陸上部や野球部が練習をしている。

 俺と鵙美は二人で、なんのためにか……ここ数日、毎日無駄な努力をしているぜ。考えてみれば、部活動みたいだ。

 夏期補習後に数時間、毎日、恋愛シミュレーションゲームのネタやイベント、セリフを考えている。

 しかも……割と真剣に~!


 この努力は報われることがあるのだろうか?

 逆に考えると、この努力をスポーツや勉強に当てはめれば……何か結果を残せるような気がしてならない。


「そういえば、鵙美は中学の時になんか部活とかやってたのか?」

「え? 急になに脈略もないこと聞いてくるのよ? 熱にやられた?」

 ……いちいち回答が……ハラ立つ。

 暑いせいかもしれない……。


 なんで学校の教室にクーラーを設置しない! いくら日本海沿いが年中通して平均気温が低いとはいえ、設置されている高校は沢山あるじゃないか! 私立高校なんだから、そのへんをしっかりしてねーと、今後の生徒数に影響がでると声を高らかに言ってやりたい――!


「ヒロ君はなにしてたのよ? 帰宅部?」

「違う。俺の中学は部活動が強制だったから、バスケをしてた」

 見せてやりたかったぜ。中三最後の試合の俺のスリーポイントシュートが……バックボードにすら当たらなかったところ……。


「私は……ダンス部よ」

「ふーん。嘘だろ?」

 この辺の中学でダンス部なんて聞いたことがない。見たこともない。

「本当だもん!」

 プウ~と頬っぺを膨らませて立ち上がると、教室の一番前へとツカツカ歩いていき、少し広いスペースを確保すると、


 クルッとキレのあるターンを見せた。

 すると――、ふわっとスカートが広がり、鵙美の下着が少し見えてしまった――。


 慌てて広がったスカートを押さえ、鵙美が赤い顔を見せる。俺の顔も……一瞬の出来事に赤くなっていた。

「あー見たでしょ! ヒロ君のエッチ!」

「――! いや、今のは事故だろ!」


 なんか……物凄く嬉しい事故だったよ。


「う〜五百円!」

 ……前言撤回。金取るのかよ~!

「自分で見せたんだろ? だったら押売りじゃねーか! 悪徳商法だ」

 言っとくが俺は……金持ちを目指すケチだ。

「じゃあ、ジュースおごって!」

「……仕方ないなあ」

 ジュースぐらいなら……まあ……安いものなのか……。

「缶じゃないやつ!」

「……」



 鵙美の強引な押し売りのせいで……。仕方なしに帰る途中、学校に一番近いコンビニへと向かった。


 コンビニへに行く途中、バッタリと九条に出会った。いや、出会ってしまったと言うべきか――。

 九条は成績優秀だから、夏期補習になんかは出てない。吹奏楽部の練習中で、今はお昼休憩なのだろう。

「あら? 木南さんに佐倉君」

 いつ見ても、やっぱり可愛い。小さな袋にはサンドイッチと四角いジュースが収まっている。

 好きな女子って会えるだけで一日がハッピーになるよな。――ん?


 鵙美が急に俺と腕を組んでこようとする~? ホワーイ? 暑苦しい!


 ……ばか! 誤解されたらどうするんだよ!

 さりげなくかわす。


 ……それはこっちのセリフよ!

 ……意味わかんねーぞ!


「……二人とも仲良いのね。クス」

「いや! そんなんじゃないよ!」

「そんなんよ~」

 まだ腕を絡めようとしやがる~。脇をギュッと締めて断固拒否する! 無駄に汗をかいてしまうじゃないか!

「じゃあ、私は部活があるから」

「バイバイ!」


 九条が遠ざかったのを確認すると、ハンカチで顔の汗を拭きながら猛抗議した。

「なんで急に引っ付こうとするんだよ!」

「へへーん、ヒロ君、九条さんのこと狙ってるでしょ〜」


 なんで鵙美は成績底辺のくせに……、嫌な勘だけは鋭いのか――!

「ばっ! そんなことあるわけないだろ!」

 焦るわ! ツバ飛ぶわ!

「じゃあ私と腕組むぐらい、いいんじゃない?」

「いや、それは……。ほら、なんか変な噂が広まると嫌だろーが。お互いに!」

「どんな噂?」

「いや、ほら……例えば、俺たちが付き合っているとかだなあ」

 なんで俺が照れながらそんなことを言わなければならないのか~!

「えー私たち、付き合ってるの~?」

「ねーよ!」

「えー私たち、付き合ってないの~?」


 ……頼む、黙ってくれ。

 コンビニから、他にも生徒が出てきているじゃねーか!



挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


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