K 修正されたゲーム
「一緒に帰らない?」……春佳の誘いを断ったヒロは少し後悔しつつ教室へと向かった。
そしてまた……うっふんクス森ピクピクを受け取る……。
「じゃあまた明日、感想聞かせてね」
昨日の事が嘘のような笑顔に……どっと疲れるぜ。つまらない自作ゲームをやらされる方の身にもなれって言いたい。無言、無表情のままCDを受け取った。
「それと、私がゲーム作りしてるの、内緒だからね?」
誰にも言うわけねーだろ。いやむしろ言いたくない……。
この俺が女子の作ったクソゲーをやっているなんて知られたくもない。
うっふんクス森ピクピクをしているなんて――知られるわけにはいかない――。
「しかし……、昨日、翔は見ていたぜ」
チラッと翔の机を見ると、補習を受ける前から机に覆いかぶさるように……寝ていやがる。
「谷山君なら大丈夫。物覚えが悪いから覚えてないわ」
毒舌に思わず笑ってしまうぜ。翔がバカなのをよく知っている。でも、補習に強制参加組のお前が言うなと言ってやりたかった。
「あと、ネット上でばらまいたり……つぶやいたり……炎上したりしないで欲しいの……」
はあー。ため息が出るぜ。
この女には、俺がそんなに嫌な奴に見えているのかもしれないな……。まあ、仕方ねえけど。
「そんなことするかよ。コンテストとかに応募する時とか、「未発表作品に限る」ってあるからだろ? そういったルールを侵すほど俺はバカじゃねーよ」
鞄に怪しいCD「うっふんクス森ピクピク」を手早く仕舞い、足早に教室を去った――。
それを木南鵙美が見送っていたのだが……他の奴らから見て、俺と鵙美のやり取り……いったいどう思われていたのだろう……。考えたくもない。
ああ、なにやってるんだろうなあ……俺。こんなことなら補習を受けてから、春佳と帰ったら良かったか……。
なんかちょっと、勿体ない感があった……。ゲームの感想を聞かせてくれって言われてるから……どうせ、明日も学校へ来なくてはならない。
それなら、明日から……補習も受けるとするか……。どうせ自分の部屋にいても、学校にいても、勉強する時間は変わらないからなあ……。
家に辿り着くと、汗だくの制服を洗濯機に放り込み、半パンに着替え二階にある俺の部屋にこもる。おおよそ二時間前には同じ所で、同じ姿をしていた……。
まったく、いい運動させられるぜ……。このままずっと夏休みも通学を続けていたら俺は……競輪選手になれるんじゃないか? トレーニングとか、厳しいのは御免だがな。
タオルで汗を拭きながら、パソコンの電源を入れた……。
――木南のやつ、いったい、どこをどう修正したっていうんだ。昨日の今日なんだから、大した事は出来ないはずだ。せいぜい俺が指摘した分岐の数を増やしたり、バッドエンドをハッピーエンドにしたり、――なにより、フルボイスをせめて、セリフだけのボイスに削減したり……。
まあ、なんにせよ、たった一日で修正出来ることなんてしれているだろう。期待するだけ無駄か……。
そしてまた……パソコンにCDをセットして……ガッカリさせられた……。
『プロダクトキーが違います。再度入力してください!』
……プロダクトキーが、変更されている……? わざわざ?
口を開けてゆっくり呼吸する。デジャブのような苛立ちを……怒りを押し殺しながら……うっふんクス森ピクピクを……ジャケット撮影してしまう。カシャ。
……わざわざCD焼き直す意味、あるか? 木南なりのセキュリティーなのだろうか。それほど大した内容のゲームじゃねーくせに。
念のため……パソコンからLANケーブルを抜き、WiFiの設定を「機内モード」に切り替えておく。不便なのだが、ネットをしたけりゃスマホがある。
さらに念のために……、パソコンのログインパスワードも変更した。このパソコンだけは家族にさえ触らせていない。
隠しファイルが一杯詰まったフォルダー……親とかに見られるわけにはいかねーだろ? 普通は……。
チートするための専用アプリを立ち上げて、昨日と同じように解析をするのだが……分岐の数が三つのままだったことに……怒りではなく落胆を感じた。つまり、解析する価値すらないってことだ……。じゃあ、一体どこの何をを修正したというんだ――?
……仕方なく、甘ったるい木南鵙美のフルボイス朗読をヘッドホンで聞きながら、文字をクリックし、一通りゲームのエンディングへと辿り着いた。
やはり、このゲーム。ため息しか出ない……。木南が昨日、修正した箇所って……。バッドエンドがよりリアルに作られているだけじゃねーか!
ずっと仲の良かった幼馴染が急に転校してしまうバッドエンド。
好きな女子がなにかの病気にかかり、急に入院し学校に来なくなるバッドエンド。
三人目の友達が急に告白してきて、それを断ると、トレーラーに轢かれて自殺するバッドエンド。
なんたるバッドエンドトリオだ……。やっていて憂鬱になる……。これは酷だ……。これはクソだ……。
特に三人目のバッドエンドがひど過ぎる~。
……直視を避けたくなるような劇画調ゲロエグ画像。……肉片。
恋愛シミュレーションゲームに……ありえない。ホラーゲーム級だ。
木南は……絶対Sだ。
こんなゲーム、作って修正していくだけ時間の無駄だと……明日、きっちり話をしてやろう。




