J 信じられるか? 次の日だぜ、次の日!
まさか……次の日も呼び出されるとは……思わなかったぜ……。
いきなりその日の夜、スマホに木南からメッセージが届いた。
このあいだはゴメンね――とか、今日はありがとう――とか、そんな挨拶一切無しだ。
『ゲームが修正出来たから、明日補習来て』
って……。
ため息しか出ねえ……。また朝から制服を着て汗だくになって……学校に行かなきゃなんねーのかよ――!
ああ、俺もバカな事を言ってしまった。つくづく嫌になるぜ!
既読スルーだ。返信しない。……俺じゃないぞ、あの木南鵙美がだ――!
俺がすぐにスマホを見て、既読を付けて返信したのが逆に恥ずかしいくらいだ――。
「クッソー!」
部屋で一人、声を上げていた……。なんなんだよ、あの女は――!
次の日、仕方なくまた、潮風を頬に受け……海岸線を自転車で走る。
なんで学校ってこんなに遠いんだよ! 俺の為に、もっと近いところへ建てやがれ~!
……高校の前まで到着した時に、ちょうどバス停の所にバスが止まったのが見えた。
俺も自転車ではなくバスを使えば、こんな汗だくになる事もないんだが、時間に縛られるのが何より嫌いなんだ。
……どちらかと言えば、縛るのは好きだが、縛られるのは嫌いなタイプなんだと思う……?
そのバスから、見覚えある女子が一人降りてきた。数人の中からでもすぐに見分けがつく。昔から髪形が全く変わっちゃいねえからだ。
自転車で歩道の横から抜き去る時、声を掛けられた――。その幼馴染に……。
「あ、ヒロ! ちょっと待って」
まさか春佳に……声を掛けられるとは思ってもいなかった。他の生徒もいるなか、俺は自転車を止め、幼馴染が駆けつけてくるのを少しだけ待つ。
自転車をこぐのを止めると、急に風がなくなり体が熱く火照ってくる。それに伴い、汗がシャツや首筋に滲み浮かぶのを春佳に見られるのが……今は無性に恥ずかしかった。勘弁して欲しい。俺の体のどこにそんなに水分があるのかと驚くぐらい……汗が出る。
「なんだ春佳か。お前も補習? ちゃんと勉強ぐらいしろよな」
俺の方が最初に気付いていたのだが、わざとそう言い、すぐに走り去ろうとするのだが、春佳は急に、妙な事を言い出したのだ……。
「私は部活よ。今日の補習終わったら……一緒に帰らない?」
――え? いや、――はあ?
いまどき現実世界では絶滅危惧種のロングツインテールが、夏の海風に吹かれて揺れている……。
春佳のこの髪形は小学校の頃からずっと変わらない。高校を卒業してからもこの髪形を崩すことはないのかも知れない。背も伸びて、グッとスタイルも大人っぽくなり、可愛くなってしまった幼馴染に俺は、また劣等感をいだいてしまう。
「……なんだよ。こないだは『チートエロゲーオタクマニアックス』って、バカにしたくせに……」
「それはヒロが私のことを『絶滅危惧種』だなんて言うからでしょ!」
――すまん、今も、それ考えていた。
「……もしかして、ずっと、怒っていたの? 『チートエロオタマニマザコンプレックス』って言ったこと……」
――記憶がすり替わってるぞコラ!
「あれ、……冗談よ、冗談」
「はあ?」
少し……腹が立った……。『チートエロオタマニマザコンプレックス……』にではない。
冗談って言えば……、なんでも言って許されるってもんじゃないだろ。現にお前は……俺が冗談だって何度も言って謝ったのに、あの日以来、中学の時も殆ど口も聞いてくれなかったじゃないか――。
「わりいが、俺は補習なんて受けないんだ。ただ……用事あるだけなんだよ。じゃあな……」
「そっか……じゃあね」
せっかく私が誘っているのにバカ――っと怒るかと思ったら……逆に寂しそうな顔をして歩き去ってしまった……。




