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I クソゲーの真髄!

ヒロは……クソゲーの真髄を……怒りを抑えながらゆっくりと語り始める……。


 木南が貸してくれたのは、どこにでもあるようで……ありえない、自作の恋愛シミュレーションゲームだった。

 タイトルには可愛い女子三人が描かれ……、そこまでは俺を少しだけ期待させた。


 しかし、分岐がたったの三つだった――。

 チートするまでもなく、総当たりしてもすぐに終わった……。隠されて暗号化されたような解析できない裏データーでも隠されているのかと、何度か色々な方法で試してみたが、本当に……何も隠されていなかった……。


「元々のストーリーがラノベかなんかは知らないが、分岐がたったの三っつ! それで、その全てがバッドエンドってどういうことだ! 試作品でもせめて完成させてから人に渡せよ!」

 木南はうつむきながら黙って俺の説教を聞き続ける。

「なにより許せねーのが、フルボイスって書いてあるが、


 ――全っ部お前の声じゃねーか! フルボイスの意味……分かってねーのか!


 ナレーションまで読むんじゃねーよ! 甘ったるい声とダビ声を使い分けても、――男の声なんて出せてねーだろ! お前の声ばっかで――頭ん中がおかしくなりそうだぜ!」

 恋愛シミュレーションじゃなく、――恋愛小説朗読じゃねーか!

 しかも悲劇! オールバッドエンド! そのくせ甘ったるく可愛い声……。

 定価五百円――!


「……ごめんなさい。声さえ入ってれば、いいと思ってたの……」

「はあ? ――アイドルとか有名な声優ならそれでも成立するさ! でもな、それだって内容がなけりゃクソゲーだろ。ゲームを実際にプレイするプレイヤーの気持ちになって考えてみろよ!」


「……ごめんなさい……」


 なんか~、微妙に~。

 ……その「ごめんなさい」の謝罪の声すら……ゲーム中どこかで聞いてた気がして、むしずが走る〜!


 本当は、もっとエロいゲームを期待していたなんて言えないのだが、「うっふんクス森ピクピク」だぞ! エロゲーとしか考えられないだろうが! 特に男子は! ところが蓋を開けたら、エロいシーンどころか、キスシーンも、手を握るシーンもありゃしない!


 いったいなんなんだこのゲームは!

 いったいなんなんだこの女は!

 なんの面白みを見出したんだ、このゲーム作りに――!


「恋愛シミュレーション作るんなら、せめて――王道の恋愛をしてからにしろよ!」

「……!」

 木南がつぶらな瞳を見開いてこっちを見る……。


 ――んん?

 これは……言葉が足らなかったか?


 ――なんか、ヒヤッとするようなヤバさを感じる――。


「中学の時は……恋愛禁止だし……」

 慌てて俺は首と手を振って言い直した――。

「いやいや、違う違うブンブン! 他の恋愛シミュレーションゲームをしてから作れって事だ。お前んちの家庭のルールなんて知ったこっちゃない! 王道の恋愛シミュレーションゲームをやってだなあ、どんなもんかをしっかり勉強してから作れって言ってんだよ!」


 ――なんで俺が他人のゲーム作りのアドバイスなんてしなくちゃいけないんだ――!

 腹立って汗が首やら背中やらをダラダラ流れ落ちる。

 このクソ暑いのに……これ以上怒らせるなって言いたいぜ。――まったく。


「じゃあ、ゲームを修正したら、またやってくれる?」

「……はあ? なんでそんな発想になるんだよ!」

 この女の考え……まったく分からん! 分かる奴がいたら教えて欲しい――。

「俺は怒ってんだぜ? 空気読めねえのかよ! 時間の無駄だ、無駄!」

 言いたい事はすべて言って……。ちょっとスカッとした。


 ネット上で毒を吐く気持ち……ってやつが、今は少し分かるぜ。


「……(かける)! いい加減に掴んだ腕を放せよバカ! いつまで握ってるつもりだ!」

 ウエイトリフティング部が真剣に握るんじゃねーよ。アザ出来るだろうが!

 鞄を持って帰ろうとしたのだが、

「おいヒロ! そこまで怒鳴って女泣かしておいて、それはないだろ」

「はあ? 泣かす?」


 翔に言われて見ると、鵙美の頬には涙の流れた痕があった……。

 ずっと気付かなかった。暑いから……俺と同じように汗をかいているだけかと思っていた……。


 ……高校にもなって、女子を泣かしてしまうなんて……バツの悪さを感じた。

 怒っていた自分が……今は少し恥ずかしい。


 ――だが俺は悪くない!

 ――絶対に悪くない! そうだろ?

 この夏休みの初日にわざわざこのCDを返す為だけに、十キロもの道のりを自転車で走ってきたんだぜ? そしてまた、今からその道を汗かいて帰るんだぜ? 往復だぜ? おうふく!


 俺が悪い道理が……なかろう……クソっ!


「なんで俺がそんな面倒くさいことをやらないといけないんだ……」

「……夏休み中に作るって決めたから……」


 自分の都合……か? あきれて物も言えなかったのだが……、

 半袖から出る白く細い腕で眼鏡の下に伝い落ちる涙を拭く姿を見せられると……、断ることはできなかった……。


「……。仕方ねえなあ……やってやるよ」

 時間の無駄だけどなあ……とは、言わなかった。

 俺がその時……なんでそう答えたのか……分からない。……高校生にもなって女子を泣かせてしまった罪滅ぼしと……少し反省していたのかもしれない。


「じゃあ、修正ができたらまた持ってくるね……」

「バカ、俺は毎日補習になんか来ねーよ。出来たら……。メーセージ送ってくれよ。スマホ持ってんだろ……」

 昨日CDを借りるとき、鞄の中に入っていたのが見えていた。

「……うん」

 しぶしぶ俺はスマホのアドレスを教え、木南のを登録した。


 翔のやつが……なんか……ニタニタしてるのが――無性に腹立つ~! 微妙にムカつく~!


 背が低くて眼鏡をかけた木南なんか、俺のタイプとは全然かけ離れているのだが……パソコンゲームの話ができる女子は、ちょっと他に類を見ない。よくよく考えると女子の連絡先なんて、俺のスマホには一人も入っていなかった……。



 炎天下の帰り道を汗だくで自転車をこぎながら、ずっと前に女子を泣かせたことを思い出していた……。

あれは確か……小学の頃だ。

 幼馴染の渡利春佳(わたりはるか)をからかって泣かせた……かな。もう忘れちまった……さ。


 ――いや忘れてなんかいない……。


 生理になった春佳をからかったら、泣いてしまったんだ。小学六年の二学期の事だった……。


 授業が始まっても、教室に戻ってこなかった春佳。サボりかとヒソヒソ話が聞こえてきたが、活発で明るく、真面目な春佳に限ってそれはないか……と思っていた。

 授業中、後ろの扉からそっと入って戻って来ていたのだが、休み時間にクラスの男子が集まり、そのうち一人が、

「もしかして、春佳ちゃん、生理じゃないか?」

 そう言い出したんだ……。

 俺は一人っ子だが、その友達には中学三年の兄がいて、その影響を受けていたんだろう……いつも言うことや、やる事が他のみんなより一歩進んでいた。そんなところが大人だと憧れている部分があった。


 その当時の俺は、夏休みの……ある出来事がきっかけで、春佳と少し仲が悪くなっていた。だから、帰り道で一緒になったとき、つい、からかってしまったんだ。

「お前、生理になったんだろ〜」

 って。意味も知らずに……。


 春佳は……泣いた。

 俺が……泣かした。

 普段は男子を逆に泣かせて追い掛け回しているような強気な女子なのに……。


 なんで俺はあんな事を言ってしまったのか……、今でもずっと後悔している――。


 俺と春佳は親同士も知り合いだったから、どこからか話が漏れてしまい、こっぴどく親に怒られ……呆れ顔をされた。

 小学から中学の時は、あの出来事以来、殆ど春佳とは話さなかった。話したとしても、ほとんど喧嘩になった。

 高校に入った今では、お互い避けるようになっていった。


 ――くそ、やな事思い出しちまったぜ。



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