疑問
「まずは税を軽くしよう。愛妾の館にいた者達は、栄殿とその侍女ら以外は全て帰したんだ。そこにかかっていた費用は不要になる。それと、母上と相談の上、いらぬ着物などは売りに出してしまう事にしよう。まずは民の苦しい生活を、なんとかせねばならない。――克頼。この国は、作物が育たないとか、そういう事は無いのだろう」
「はい。豊富とまでは言えませんが、十分な収穫はございます」
言いながら、克頼は懐から書面を取り出し広げた。
「失礼致します」
灯明台を引き寄せた克頼は、晴信によく見えるよう書面の角度を変えた。
「これは?」
「各所から納められた税と諸経費を記したものです。直近のものですが、気になされておられると思い、お持ち致しました」
「用意がいいな」
「色々とお考えになりながら、民の暮らしを眺めておられましたので」
「頼もしいかぎりだ」
「これと、人質を送り届けた者たちからの報告を合わせ、色々と考えねばなりませんな」
「うん。家臣たちの禄高と、我が国のその他の収入なども合わせて、無駄なところは削り、民に返さなければ」
晴信が書面に顔を寄せると、克頼が手早くそれを折りたたみ、懐へ戻した。
「克頼」
「今は色々と見聞きし過ぎて、考えがまとまらないかと。ゆっくりと眠り、落ち着いた思考でお臨みください」
求めるような目をしても、譲る気配を微塵も見せない克頼に、晴信は息を吐いた。
「わかった。眠るよ」
「おやすみなさいませ」
そう言って、克頼は動かない。晴信は隣室のふすまを開け、褥に横になった。
「ちゃんと寝るから、克頼も休め」
「では」
克頼がふすまを閉める。気配が遠ざかり、晴信は「過保護だな」と呟いた。だが、彼がそうなってしまう理由を、隼人から聞いた。
隼人は人質として出された後、瑠璃を掘る仕事を命じられたと言った。集められた全ての人質がそうなったのではなく、体躯の良い若い男だけが鉱山に連れて行かれたのだと。食事は雑穀の雑炊のみ。肉や魚が与えられる事は無く、彼らは自分たちでそれらを調達していたという。人質というより奴隷のようだったと、隼人は恨みなど微塵も感じさせない口調で語った。
「死ぬと困るから、病気や怪我をした場合は、きちんと面倒を見てもらえた。だが、他の労働者のように、賃金を与えられる事もなく、こき使われた。腹を立て文句を言おうとしたり、逃げ出そうと思っても、里の事を考えれば出来なかった。衝動的に逆らおうとした者を、里がどうなってもいいのかと大勢で宥め、説得した事は一度や二度じゃ無い」
鉱山以外の場所にいる人質たちが、どういう扱いであったのかは知らないが、おそらく似たようなものだったろうと、隼人は語った。誰もが恨みを募らせていた。国主が代わり事情が変わったと役人に告げられ、里に帰っていいぞと金銭を渡されて、バカにするなとそれを投げつけた者もいた。晴信の事を、父を追放したのは民を思っての事ではなく、自分の欲のためだと言っていた者もいた。だから、不用意に人を信用しないほうがいいと隼人は忠告をし、克頼くらいの警戒心を持っておけと歯を見せて笑った。
「どうして」




