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霧衣物語  作者: 水戸けい
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くつろげる

 自分の言葉の返答ではなく団子の事を問われ、里長が奇妙な顔をする。


「そうか」


 しっかりと味を確かめるように咀嚼そしゃくする晴信を、里の者たちがいぶかしげに見た。


「うん。うまい」


 晴信は、ひとつをつまんで克頼に差し出した。


「うまいぞ、克頼。これほどうまい団子を作れる者を、大切にせねばらないな」


 受け取った克頼が、ぽんと団子を口に入れる。それを満足そうに見て、晴信は里の者たちに顔を戻した。


「あの者に、とてもうまい団子だったと伝えてくれ。団子の礼に、必ず応えると」


 感動のざわめきが立ち、彼らは再び頭を下げた。


「晴信様。そろそろ」


 克頼が促し、里長が彼の息子を振り返った。


隼人はやと


 呼ばれ、前に出た男が晴信の顔をにらむようにして、挨拶した。


長谷部はせべの里長、長谷部源九郎げんくろうの息子、隼人です。俺が、お館様をご案内いたします」


 晴信は彼の射抜くような視線にたじろぎつつ、あいまいに頷いた。克頼が目の端に不快を滲ませる。


「それでは、こちらへ」


 さっさと出て行く隼人に、晴信は慌てて立ち上がり、挨拶もそこそこに後を追った。克頼は警戒を漲らせて腰を上げる。


 表に出れば、隼人はギロリと晴信を見た。


「何もかも、包み隠さず申し立てます。不快になられる事を、先にお覚悟ください」


 隼人は晴信と克頼の腰に目を向けた。刀を意識している隼人に、晴信は苦笑する。


「克頼」


「は」


「刀を、預けていこう」


「は?」


「この里では、不要のようだ」


「ですが、どこにどのような者が潜んでいるか」


「かまわないさ」


 晴信はさっさと刀を外し、屋敷の壁に立てかけた。


「ほら、克頼」


 隼人を鋭くにらみながら、克頼も刀を外す。満足そうに、晴信が頷いた。


「よし。それでは行こうか」


 屈託の無い晴信に、隼人の目が丸くなった。


「どうした?」


「ぷ……ははははは!」


 豪快な笑いを響かせた隼人が、立てかけられた刀を取り、晴信と克頼に差し出した。


「途中で妙な連中に襲われて、怪我をされちゃあ困る。持っていってくれ」


 口調が気安いものになっている。克頼は不快を示し、晴信は首を傾げた。


「いいのか」


 晴信の問いに、さわやかな笑みで隼人が応える。そうかと刀を受け取った晴信は、それを腰に差し、克頼を見た。


「心配をする必要はなさそうだな。克頼」


「無茶をなさいます」


「苦労するなぁ」


 隼人が笑いを滲ませ、誰のせいだと言わんばかりに克頼が鋭い目線を向ける。それを受け流した隼人は、好奇心むき出しの顔で晴信を見た。きらきらと童子のように輝く瞳に、晴信はふと疑問を浮かべる。

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