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その呟きの先に

作者: 浅見ヨシヒロ

リツイートなど勿論あろうはずがない。

つい十数分前に、おもむろに自分のスマホでツイッターにログインし、


『秋雨前線通過中ぅ』


という何気ないツイートをした。

通算ツイート数18。

自分でも驚くくらいほとんど呟いていないことに改めて気づいた。

日々流れ続けるタイムラインを閲覧するだけの俺というアカウント。

そのフォロワー数は非常に寂しい数を表示しており、現実社会と同様にその影響力の少なさというものを悲しい位に物語っている。


言い訳になってしまうのかもしれないが、誰かに構ってもらいたくて呟いたわけではないし、仮に他の人が同じようなツイートをしていたとしたら、この時間を持て余し気味の俺でさえも軽くスルーしてしまう程度の内容の薄さだ。

だから別段どうということはないのだけれども、なぜだか無性に呟きたくなった。

それだけなのである。

もともとツイッターとはこういった性質のものだろう。

昨今では言ってはいけないようなことは不謹慎なことを口にしてしまうと、SNS上において炎上という現象の当事者に祭り上げられてしまう。なんと生きにくい世の中になってしまったのだろうか。

今俺の住む街のそこら中を濡らしている雨は、見事な空の鈍色と見事なマッチングにより俺をそんな気分…つまり無性に意味のないことを呟かせるに足る見事な秋雨といっていいだろう。

まるで、

『愚民ども、我が滴らせる雨にその身を満足いくまで濡らすがよい』

と言わんばかりの量だ。


恐らく多くの人は雨が嫌いだろう。

少なくとも好きではないはずだ。

しかし俺はそういった大衆の考えとは違い、雨が好きなのである。

それゆえ、雨が降っている日が好きである。

また、雨の日に歩くのも好きである。

外出する人がおのずと減るため、街中で出くわす人が極端に減るからだ。

こちらが望まない人付き合いほど面倒くさいものはない。


気分を害する人がいたなら申し訳ないが、テレビのニュースなどで台風や大雨の災害の映像などを見ると、どこか気分が高揚してしまう(念のため言っておくが、災害自体や各地での事故等の報道を受けて喜んでいるわけではないのでその辺はご容赦願いたい)。

特に休日の朝なんぞに、雨が降っている音で目覚める時などは気分がいい。

それも外出する予定が無い日であれば最高だ。

大抵、休日には予定などないのが俺の素晴らしいところなのだが。


今日は土曜日。

世間一般でいう休日というやつである。

昨日は珍しく定時で仕事を終え、先輩や同僚からの忍び寄る華金アフター5の誘いを断り、早々に家路に着いた。

たまにはこんな日もいいだろう。

居酒屋などで先輩や同僚達と愚痴を肴に飲む酒よりも、撮り溜めしておいた大河ドラマ『真田丸』を見ながら、自宅でしっぽりと飲む缶ビールが心底美味く感じた。

だから昨日は気分よくほろ酔い状態になり、確か時計が12時を少し回ったあたりで心地よい眠りについたはずだ。


朝起きると、今朝から降り始めたのであろうか、雨が今もアパートの屋根を叩いている音がした。

そう、この音がたまらない。


『…今日は雨か…』


前日に天気予報を見ていなかったせいか、今日の雨がいつも以上に嬉しく感じる。

不意に降った雨に対する嬉しさを隠しきれない俺は、眠気眼を激励し出かける準備をした後に先ほどのツイート後、自宅近くのカフェに入り今に至るわけである。

勿論道中は歩き。

多少服やジーンズが濡れようが、雨好きの俺にはそんなもの関係ない。

ちなみにカフェ…と言っても、特段オシャレな雰囲気の店でも個人が経営する味のある店でもない。

ざっくり言ってしまうと、TSUTAYAの店内に入っている某チェーン店だ。


定番のモーニングを頼み、持参した文庫本を開きながら飲むコーヒーはやはり別格だ。

欲を言えば大きめの窓などを設置してもらい、雨が降っている景色を見ながら過ごせればいいのだが1回の来店につき客単価贅沢1,000円も払わない、ただの一般客の立場でも何も言えやしない(来店回数ならば負ける気はしない)。

こんな秋雨の降っている日の空は、いつもの雨天以上に空が鈍色だ。

『鈍色』…文字だけを見ると冴えないイメージが付きそうなものだが、あの重たい雰囲気の空自体は決して地面に落ちてなどこないし、悩み事を抱えながら接するにはこういった曇天の方が気が楽だったりもする。今年に入り、むしろ清々しい位の晴天に無理やり励まされるよりもこの先延々と雨を降らし続け晴れないことなどない…というわけでもない。

俺以外の人は恐らく、この雨に早く止んでほしいと思っているだろう。

そんなセンチメンタルな気分に浸っている時に、カフェの女性店員さんがモーニングをテーブルまで運んできてくれた。

チェーン店にはあるまじき溢れんばかりのサービス精神である。

これは連日店に通い続けるお得意様へのせめてものサービス行為なのか、はたまた俺個人に対する好意の表れなのか…願わくば後者であってほしいという浅ましい考えが無いではない。

いや…というか、ある。


『今日は雨ですね。』

女性店員は、満面の笑みを俺にコーヒーと一緒に提供してくれる。

なんと答えていいのか、俺は答えに窮した。

ここは無難に、

『そうですね、こんな湿っぽい天気だと嫌になっちゃいますね。せっかくの休みなのに。』

と答えるべきであろうか。

いやいや、待て待て…。

俺は雨の日が好きだし、何より休みなのは俺だけであって、彼女は普通に仕事をしているではないか。

そんなつまらない考えが瞬時に頭の中を駆け巡る。

そんな回りくどいことは考えず、

『雨も好きですが、あなたのことも好きなんです』

などと言うような今時の小学生でも歯の浮くようなは気障っぽいセリフなど到底言えるはずもなく、この店に通い続ける真の目的を今日も心の内にしまい込む俺であった。

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