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sono9 ぼーい みーつ ぐれいとぐらんま

 次の日、彼女はやって来た。

老竜を連れて。


 朝早くから何かの羽音がしたので彼女だろうと見当をつけて、

昨日の様子を引き摺ってうじうじしている様子をアピールしながら出迎えたところ、

客竜はもう一匹いた。


 思わず驚いて素の表情をしてしまったが老竜には見破られてはいないだろうかと冷や冷やしていたが。


「驚かなくても構いません。殿下、我等が盟主の一族の仔よ。」


「私の御曽婆様なの。大丈夫、安心して。」


 確かにそう言われたら似ている。というか言われなくても似ている。

青みとグレーが分離して紋様の様になっているがこれはシミとかシワと呼ぶには美しすぎる。

彼女もいずれこうなるのか。美しく生まれて美しく育って美しく老いる。

それはアレもこの一族に夢中になるはずだ。


「失礼ですが…僕を、殺しに来たわけでは無いのですよね。」


「ええ、違いますとも。そうでなければ殿下とはお呼びしません。」


 年長者に対する敬意を含めつつ、警戒心と怯えをアピールしておくが見破られている可能性もある。

だが、これもどちらかと言えば彼女の方へのアピールだ。


「我が夫ベリアルは敗北しましたが、

それはその妻や仔等にもベリアルの在り方が間違っていたと認識させる事とは同じではありません。

無論、そう演じ続ける必要はありましたが。」


 マズイ、マズイ、マズイ。これは、目の前の竜は少なくとも僕と同じ演者の在り方を知っている。

それも僕がやって来た期間とは比べ物にならない経験を含んだそれを。ここにきて失敗するのか。

彼女の親の親だからチョロイ頭じゃなかったのか?


「一族の者すべてまでそうだとは言えませんが、

少なくとも私にとってはあの戦役において義はこちらにありました。

ええ、そうです。貴方の曽祖父アルベリッヒ1世は神意に従っていたのです。

ええと、アルベリッヒ――――――」


「2世です。父はフリードリアで、祖父はアインライヒですからアルベリッヒは僕で2世になります。」


 もしかすると、この竜は曽祖父の信奉者か? 少なくとも支援者か?

流石に曽祖父に手を出された昔の雌の1匹ではないだろう。

一瞬それも考えたけれど、この美しい竜を絶対に捨てることは無いだろうし、

第一、曽祖父の盟友ベリアルへの気の容れようは本物だったという。

恐らく、同陣営であった夫の友人の一族を信用しているという流れだろう。


 だとしたら簡単に操れる。僕は宗教における現界における代行者、

教祖や教皇や憑代のような物だ。

…という風に僕を思わせる演技をしている可能性もある。

何しろアレに忠誠を誓わないことを最も疑われる立場で今の今まで僕の曽祖父を信奉してきたとして、

それが真実であろうと、そうでなかろうとその演技力はどちらにしろ僕の遥か上を行っている。


「それでは他の方は?」


「…。」

答えに困ってしまう。味方であれば問題はない。その事を知っていても隠し通せるだけの能力がこの竜にはある。

問題は敵であった時、成層圏の少し上まで来れる竜はほとんどいない。

逆を言えば少しはいる。それもその高さにまで突入できる程の実力者が。

そして、そうでなくても成層圏から餌を取りに来る僕達の一族の餌を予め狩りつくしておけば、

天より舞い降りては他の竜を襲うアレに作られた伝説の一端を実行する他無い。

そこで敵対して殺した竜の肉を食わなくても後は一部の事実から残りの出来事まで補完される。

というより補完してくる。


「もしかして――――――――――すみません悪い事を聞きました。」


「いえ、死んではいない―――――――――――」

しまった、崩された。

「―――いないです。」


「まあ、それはよかったですが、もしかすると少し早い話題でしたね。」


 老竜はジャブだけを浴びせて僕の身体を完全に恐怖で硬直させた。

固まった体では攻撃に移行できない。後は守りに入って一方的に嬲られるだけだ。

何としてでもそれが故意によるものなのか、そうでないのか見極めなければ。

味方にできるなら只の影響力を失った老いぼれではない。

強力なキングメイカーだ。

この竜がやろうと思えばアルベリッヒ1世ではなくベリアルがあの戦いの盟主であった流れもありうる。

何せあの戦いを始めたのはベリアルで僕の曽祖父はアレと不愉快な仲間たちにリンチの為だけに盟主扱いされただけだ。


 いや、まてよ。

だとしたらどうして彼女が今のアレの政権を許している?

―――――――解からない。

だとしたら敵なのか?

―――――――解からない。

しかし当然行われたであろう敗者の未亡人を妻にしようというアレの要請を断っている理由は?

―――――――解からない。

けれども曾孫のアレの一族との婚姻を崩さずに放置している理由は?

―――――――解からない。

何もかもが解らない。知識ではここまでが限界だ。

この竜が天然でも僕を遥かに超える策士でも最早僕の土俵の範疇を超えている。降参だ。


「僕の一族は、今姿を隠しています。

だから見つかっても警戒されにくい仔竜である僕が様子を見に行きこの地に戻る糸口を作りに来ました。

お会いしていきなりですが、お願いです。僕達を助けてくださいっ!!」

当初の目的を正直に語る。そして無様に助けを乞う。僕に残された選択肢はこれしかなかった。



「殿下、頭をお上げください。

当然お助けさせて頂きます。天竜種は古き時代において統治こそしませんでしたが竜の王でした。

そしてベルフォル家はその片腕でありました。

そして我が夫の戦いに後ろから狙われることを理解したうえで参戦してくださったのです。

私が殿下たちをお救いするのに何の理由がありましょう。」


 この竜が策士の方であればこれは僕に言っているのではない。自分の孫娘に言っている。

僕が以前自分で言ったように僕だって自分の一族の出自ぐらい当然学んでいる。

この竜の恐ろしいところはこの僕でさえ、天然で僕達を信頼していると思えばそれで納得してしまえる所だ。

そして疑いは振り出しに戻されてしまう。

だから僕はこの際その土俵に乗って踊る事にした。その方が気が楽だ。

逃げだと言われても良い。この竜が策士だと考えると勝てる想像も湧いてこない。怖すぎる。

僕には大抵の知識がある。だからこそ自分の理解の範疇に無いものが怖すぎる。

一応は天然で言っているという設定を自分の中で信じ込んで2匹とおしゃべりをする事にして終わったのだ。




けれど、老竜が彼女を連れて帰るとき、僕の方を見て行ったのだ。


「夫は言っていました。アルベリッヒ1世は決して手を出した女性を不幸にすることはありませんでした。」


「御曾祖母様、どうしたのいきなり?」


「大丈夫ですよ。聡明(・・)な殿下ならこれできっとお分かりでしょうから。」

これは明らかな釘だ。せっかく自分で信じ込もうとした矢先でこれだ。

全て、見破られていた…か。


―――――――――だが、それを敢えて明かす事にすらきっと意味がある。

その叡智をこちらに貸す余地がある、そう思うのは妄想ではないと今度こそ本気で信じたい。

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