sono8 ぼーい みーつ かんぜんはんざい
そして日が昇った早朝。僕は仕掛けを幾つか完了させていた。
彼女は僕が遅く起きることを知ってか昨日より少しだけ遅くやって来た。
昨日行っていた仕掛けで今日の仕掛けに猶予ができたということだ。
「アル、今日は起きているかしら?」
「う…ん。今さっき起きたところだよ。」
少しだけ眠たさをアピールする。
そして、ふと今眠い頭に思い出したように話す。
「そうだ。昨日の彫刻の件だけれどさ。少し見ててよ。」
「? え、ええ、いいわよ。」
少しハイテンション気味に隠したものをすぐにでも発表したそうな前振りを演出する。
そして僕は昨日のうちに彼女の作った壁画の裏側を薄くして固めて磨いた上に乗せてあった粉雪をゆっくりと吹き飛ばす。
あくまで風を使う彼女以上の力があることを見せない程度に。
頑張ってすぐにでも結果を見せようとするポーズをしながら。
―――――――――そしてそれは姿を現した。
「…綺麗。」
氷のステンドグラスだ。
芸術的な彼女の作品に神々しさを与えている。
本来はこの後、不届き者によって壊される予定だったけれど、それは止めておいた。
代わりに彼女と洞窟の外に出る。
僕が外からこれを見てみようと言ったからだ。
――――――――――――――――そしてそこに修正された計画が発動する。
「手引きしている奴もいたのかっ!! どっちも死ねぇっ!! 天竜ゥゥゥゥゥゥッッ!!」
傷を負った竜が襲い掛かってきた。少し離れた場所にいたゴロツキの竜だった。
勿論傷を負わせたのは僕だ。
早朝に見つけたこのゴロツキに、生意気な子供の天竜のキャラクターで目玉を一つ抉って逃げたのだ。
そしてここの少しだけ離れた場所で姿をくらました。
あくまで天然の吹雪に紛れたようにして。
僕があと少し強そうにしていたり、暫くのろのろと逃げずにもっと早く姿をくらませばコレは通報という手段を取っただろう。
だけれどそうならないように直接仕留めたくなるように誘導することでこうなった。
消え去ったはずの悪の権化を倒せば一躍ゴロツキからヒーローに昇格する。噂についても利用させてもらった。
「やっやめてっ!!」
これはまさかの僕の言葉だ。そして余計な事をされる前に彼女を庇うような位置から偶然良いのが入ったように、
氷でカバーを付けて鋭くした尾を潰れた眼の所に突き刺した。あくまで正当防衛的に怯えながら。
「グァ…。」
「…死んじゃったの? もしかして殺しちゃったのかな。」
「大丈夫ッ!! 怖がらなくてもアルは…、アルは悪くない。
私を、私を助けようとしてくれたんだから。」
計画通り。
彼女を護ろうとしたそういう立ち位置と姿勢的な構図を作ったおかげで実に都合よく嵌ってくれた。
これで彼女を救おうとしたヒーローの姿と、したくなかった殺害に怯える弱さと、
そして責任を彼女にも被せて共犯者的な暗い鎖の意識をも押し付けられた。
ここまで重要な存在になっても彼女は只の友達のままでこれからもいられるだろうか?
純粋な彼女の事だ。簡単に染められる。アレの一族より先に直接的な手を打てて良かった。
この日僕は焦燥感をアピールしながら離れた場所の氷の下に彼女と共に死体を埋めた。
彼女が去った後、その肉を氷の刃物で内側を抉って少し食べてみた。
噂通りを少し演じてみようと思ったのだ。
成程、同族食いを禁止にするのも無理はない。癖にはなりそうだ。
他の食物の味も知らないから美味しいと思う可能性も否めないが。
だが、僕の胃は使わなさすぎて退化していたせいか、その肉を全て吐き出す羽目になった。