sono5 ぼーい みーつ けいやく
「まあ、誤解されても仕方がないというか、恨みを買いすぎた僕の曽祖父も悪いからね。
仕方ないよ。それより、悪いと思うのなら僕と友達になってよ。」
「ええ、風評で物事を判断してしまって御免なさい。
私が王妃になったらきっとその噂を改善して見せるわ。」
悪いね。他竜の雌を奪うのは今代も同じなのに。
元は強くて若くて有望で温厚との評判だから様子見で降臨りてくる事になったけれど、
評判の改善程度では終わらせない。
目指すは現在の価値観の変革だ。その為に真面目そうな彼女の負い目から取り入ろう。
「じゃあ、契約だね。」
「えっ? 大袈裟じゃないかしら?」
「地上の竜って契約もしないんだ?」
「いえ、そんな事はないわ。でもそれは結婚の場でしかしないものよ。」
その契約の重さの認識については僕達の所でも同じだ。
契約はその心の方向性さえも固定する強力な術式。
天竜の最大の危険性は曽祖父がその契約にも介入できるほどの能力と力を兼ね備えて、
それを振るう事を躊躇わなかったことだった。
「でも、友達になるっていう契約なら駄目なのかな? 僕達の間では普通だよ?」
数少ない迫害仲間内では裏切りは許されないという事情からね。
それを彼女にも強要するために敢えて、好みが常識のない無知な幼竜である事をアピールする。
「…友達、位でしたら。」
釣れたっ。友達、と言ってもその方向への感情補正は常に相手に好意を感じる補正を受ける事になる。
曽祖父の様に契約を結ぶ瞬間にその契約内容を書き換えたり、偽りの契約内容を提示することは僕にはできないけれど、
今はこれで十分だ。今は、ね。
「じゃあ、いいよね。僕と契約して『トモダチ』になってよ。」
「ええ、友達になりましょうアルベリッヒ。」
「アルベリッヒじゃあ堅苦しいからアルって呼んでよ。」
「さっきから急にフランクになりましたね。」
当然さ。そっちの方が踏み込みやすいからね。
「さっきは戦闘一歩手前の雰囲気だっただろう。そうなるよ。」
「それもそうよね。」
彼女が純粋で心苦しく感じられるけれど、それだけの事をしていると思うと、
より目標の達成に近づけた気がして少しだけは嬉しくなる。
僕達は魔力で契約陣を展開。互いの血を媒介に署名を行う。
相手も作法は完璧だ。いずれ訪れる結婚式の為に勉強していたのだろう。
「「我はこの契約に署名す。」」
此処に契約は完了した。
これより僕達は『トモダチ』になった。彼女には僕に対し友情の感情補正が働く。
ああ、そうだ。友達と言っても逢瀬や接吻をしない友達とは限らないよね。