sono4 ぼーい みーつ ふくしゅう
「………。」
「………。」
何も言えない。というか言いたくない。
まだ幼いよそ様の嫁入り前のお嬢さんにセクハラをかましてしまった。
うん、青がかったグレーの鱗にうっすらその下の血管の色が浮き出ているのが解る。
照れているか怒っているかだ。
多分その両方だろうけれど、自分が信じていた絶対悪が随分とスケールダウンしてしまったので、
怒るにも怒れない。そんな気分だろうと内情お察しする。
そんな何も心地よくない沈黙を打ち破ってくれたのは彼女の方からだった。
「それ、ホント…なの…?」
「嘘だと一番思いたいのは天竜種さ。」
「…お察しするわ。それならその子孫にまで恨みを被せるのは酷というものね。」
「あの戦役でこちらの陣営であった君達の一族でさえ伝わっていなかったのは残念だよ。
ところでベリアル殿は…?」
「…敗北者の陣営の責任を取って自害したわ。
その御蔭で侮られつつも私達が生き延びられたの。」
「正しい事をした筈だったのに。」
「仕方ないわ。それでも敗北者にはそれを受け入れる義務がある。」
「それは対等な闘いにおいての話だろう。
大義名分を作る為に仁ある強者を寄って集って弱者が叩くなどと、
それを勝利と呼ぶとは随分と腐敗したものだね。
正直、降りてきたことを後悔したよ。」
「ありがとう。そう言って貰えると曾御爺様も喜ぶわ。」
「…まあ、僕としては事実を敗北によって歪められたもの同士、
僕の話をもう少し早く信じて貰いたかったけれどね。」
ナチスのユダヤ人虐殺を信じないドイツ人が日本人と南京大虐殺を信じる見たいな構図だったよ。
その当時のヒトの魂もその後世のヒトの魂も食べたけれど随分と解釈が違う。
ヒトって汚いと異界からの魂を貪る度に知っていたけれど、
僕達竜族も大概に汚いな。
「それについては謝るわ。」
「君は素直なのか疑り深いのか解からないね。」
「基本、竜は信じやすい生き物でしょう?」
だからアレの創った歴史に騙される。
「私も悪い仔の所には天竜がやってくると友達のお母さんから聞いたわ。」
多分彼女の親御さんは事実を知っている気がする。
でもそれを正直に話して彼女がそれを幼い正義感から周囲に広めようとした結果、
彼女を含む彼女の一族が更生しない悪として迫害を受けることを恐れたのだろう。
彼女が自分の一族の名誉を挽回しようと発言することはまだ許されても、
流石に怨敵の免罪を晴らすことはアレは許容しないだろう。
確かアレの元婚約者、
つまり僕の曾祖母はベリアルの年離れた妹だからな。
だからこそ好きだった相手へのよしみでその一族の名誉は汚しても、
その一族の命は取らなかった。
いや、アレはそういうたまじゃない。
僕もアレの事は両親の話でしか知らない。
要するにこちら側も風評で判断しているんだけれど、
その噂の下地で考えるに――――――――――――――――
アレの目的は光源氏だ。
「もしかして、アレの一族と君に接点はあったりする…?」
「ええ。長きに渡る汚名の回復として、私は次代の王の妻になることが決まっているわ。」
少し照れたように彼女は笑う。相手の事を好意的に見ているようだ。
―――――――――――――――――――そうか、そういうことか。
曽祖父さん、他竜の雌に腕を出す一族の恥、大馬鹿だと罵って悪かった。
血は争えない。運命は循環する。
復讐の手段として、僕もアレの一族が欲しがり続けた美姫の血を継ぐ者を奪ってやる。
そう、それがいい。