sono1 ぼーい みーつ がーる
「今日はこの辺にしておこうか。」
今日も巣穴で趣味9割実益1割のリフォーム中だ。
天井、側壁、地面といってもここは洞窟でドーム状だが、その全てに絵画や彫刻を刻み込んでいる。
ああ、自己紹介をしておこうか。
僕は純白天竜というドラゴン種。
名前はアルベリッヒ。家族にはアルと呼ばれている。高貴だとか輝かしいという意味だ。
因みに兄弟たちの中では一番上のお兄ちゃんである。
僕は一匹だけ親元をとある事情で離れて生活している。
それはおいおい話すとして、もっと重要な情報がある。
それは僕が異世界の知識を持つという事だ。
どうやら神とも呼べる世界の意思が僕のこの身体に異界の魂を送り込もうとしたらしい。
所謂、転生とか憑依だとかそういう類のものらしいけれど、
結局は僕の糧になった。
新たに器ごと創るわけでなく既存の器を利用した転生や憑依は、
元の持ち主の魂を追いやったり犠牲にして行われるものだ。
そういう事は元の持ち主の魂が軽くて薄くて、要するに貧弱であったり、
元の持ち主がそれを自分から望んでいれば行われる。
例えば史実で主家を救えなかった騎士や武士が自分の器を捧げる代わりに異界の魂を引き込むものだ。
俗に神降ろしともいう。
こういう事は、昏き世界神の囁きにより自分がどう足掻いても何も解決できないという歪んだ事実を教え、
自分から魂を疲弊させてその苗床に積極的に異界の魂を降ろす様にさせるというものもある。
…実にえげつない。
僕の最初の糧となった魂は運が良いことに世界の歪んだ理を識るモノだった。
俗に言う天使と言われる存在だった。何故彼女が態々僕の元へ憑依して、
剰え逆にわざと僕の魂に押し負けたのかもわからない。
そして、それが原因で憑依先優先目標として僕に定期的に憑依しようとする魂がやって来た。
勿論わざわざ器を明け渡してやる義理も理由もないわけで、
全て返り討ちにしてくれた。
その度に様々な異界の知識が異界の力が僕の元に満たされた。
僕の種族は肉食派が多い。
というか竜種自体がその傾向が多い。だからその事で怯えられることは心外である。
けれど僕自身は草食でも肉食でも雑食でも菌食でもなく無食である。決して無職では無い。
敢えて言うなら魂食と言えるが、周囲には口に物を入れて動かす所を見たことが無いのでそう思われている。
僕自身の種族の力は気圧と分子振動制限つまり冷気、そして光を操る事。
正直異界からの定期便の御蔭でそれ以外にも色々やれるけれど、
やはり僕達の種族のオリジナルの力には思い入れというか習熟度が違う。
ほら、左利きの者は咄嗟に左腕から動くでしょ?
そういう事。
最近は芸術家の魂が多く入ってきて、
その影響かどんどんそういう欲が湧いてきて遂に大規模リフォームをしようという流れになった。
食事の影響というのは決して馬鹿にはできない。
僕は食べないけれど野菜を食べれば体調がよくなり、肉を食べれば元気が湧いてきて、
魚を食べると頭が良くなるらしい。
魂を食べるとどうなるかはわからないけれど、今回建築意欲が湧いたのもそのせいだろう。
――――決して僕が食した魂に浸食されているのではないと信じたい。
食事をすると眠くなるのはそれが消化にいいものでも消化が悪いものでも、
消化と呼んでいいのかどうかも解からない物でも同じらしい。
少しウトウトとしていた時、洞窟に透き通るというか響き渡る若い雌竜の声が響き渡った。
「なっ、何でこんな所に絶滅したはずの天竜種がっ!?」