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美しい白猫

今話にでてくるキャラクターたちの名前は出していませんが、次話で出てきます。

どんな名前か想像しながらお待ちください

私をささえ、私を想ってくれた君へ。

今いる世界が、君のいる世界と違っていても。


神様、どうか、届けてください。

叶えてください。





季節が冬になって半分くらいすぎた一月。

雪が降ることがほとんどないこの地域にしては珍しく、自転車もこげないほどの大雪が降った(交通機関がすべてマヒするほどではないから北陸の人からしてみれば大したことはないかもしれない)。

私は離れたバイト先へ行くために、土手と民家の間にある、車が通ることのないいつもの道路を、自転車を持参して慣れない雪道を進んでいた。

ブレーキはタイヤが滑るからきかないし、雨靴など普段履くことがないため用意できず、いつもの靴で来てしまい中は、びしょぬれ、とまではいかないものの、もう感覚がなくなりかけていた。

歩いているせいで中々体は温まらず、マフラーや手袋などもはや無いに等しいのではないかと思ったほどだ。

そんな私に追い打ちをかけるように、ちらちらと雪がおちてきた。

「…まだ、5分の2も進んでないんだけど。お店も、今日くらい閉めればいいのに。」

返事を返すことのない無機質な雪に思わずやつ当たる。そんなことで自分のこの気持ちが収まるわけではないのだって分かっているが、無言で従うのも嫌だった。


——―———た……す、け………て。―——————


寒さのせいで耳がおかしくなってしまったのかと思うくらい、小さくか弱い、男女の区別もつかないような声が聞こえてきた、きがする。

それでも幻聴ではないと確信している自分がいた。

(―——なぜ…?)

だって、土手の上にある道路は朝の通勤のためにとっくに除雪されていて、今はたくさんの車が、各々滑らない程度のスピードで走っているからだ。

しかも、声が聞こえたのは音のうるさい土手側からだった。

しかしまっすぐに通っているこの道路、遠くのほうまで見ても、人がいるような形跡は全くと言っていいほどなかった。

比較的急斜面の土手だったからか、雪はそれほど積もっていないのである。

人がもしそこに倒れていても一目でわかるはずなのだ。

「…君は、誰?どこにいるの?」

不気味に思いながらも、どうしてだか非常にほおっておけなく思い、私は声をかけてみた。

少し間が空いて、その声も私の問いに答えてくれた。

「…何故、人の子が…。…いえ、そこのお方、私はここでございます、…どうか、助けてください…!」

もしかして、人じゃない、妖の様なものなのだろうか?

(何故って、声が聞こえたんだから仕方ないじゃない。こんな私じゃ、お呼びじゃなかっただろうけど。)

声の主がいるらしいところからわずかな光がもれ出てきたのを見て、関わるべきではなかったかもしれないと後悔した。

その場に自転車を停め、周りを見渡し、自分以外に人がいないことを確認すると、土手の真ん中より下のところ、光をはなつ箇所までのぼり、そおっと雪を掘る。

そこから出てきたのは、雪のように真っ白な毛並みを持ち、開かれた両の目には蒼と茶色の異なる瞳を宿している白猫だった。

震える体を寒さから遠ざけようと、着ていた上着のボタンをはずし、白猫を服の中へとそっと入れる。

「…なんて、綺麗な…」

意識せず思わず零れ落ちた言葉に、機嫌を良くしたのかただ消耗しているだけなのか、白猫は気持ちよさそうに腕の中で丸まった。

「助けてくれてありがとう。その言葉も嬉しいわ、人の子よ。そして申し訳ないのだけど、もう少し、私が元気になるまで、かくまっていただけないかしら?」

「かくま、う?えっと、私のいるマンションはペット禁止なの…。それに」

「あら、私はペットじゃないし、あなた以外には視えないわよ?」

「…え、なんで…」

目を丸くする私に、それより、とその美しい白猫は言った。

「あなた、これから仕事だったんでしょう?人の子の決まりごとは解らないけれど、急いでおるところだったのではないか?」

「あ、そういえば。…うん。……」

そう言われやっと思い出したバイトのことだったが、まだ震えている白猫を置いていくこともできず(あんまりにも美しいから離れたくもない)、体調を崩したことにしてしばらく休むことにしよう、とスマホを取り出してさっそくバイト先へと連絡をした。

「店長、風邪をひいたので今日は行くことができません。申し訳ありません、失礼いたします。」

何か抗議の言葉を言っていたが、休みと決まればもう用はない。無情にも通話を切った。

「じゃあ白猫さん、私のお城へご案内しますね。」

「それじゃあお言葉に甘えて…。」

白猫を抱えなおすと、停めていた自転車を片手で押し、家へむけて歩き始めた。



「…人の子だねぇ…。」

おかしそうにクスクス笑う美しい猫は、愛おしそうに人の子を見上げていた。

お読みいただきありがとうございます!

この話も亀更新となると思います・・・

気長に待っていてくださると嬉しいです

それでは、また

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