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5 さくら


 「ごめん……ちょっと、1人にさせてくれないかな」


 数分前に、少し落ち着いたシーにそう言われ、流石に密室の中に1人ってのは危険だからと、扉を開けたままにした廊下で待つことになった。

 できれば早くここから出たいところだけど、ユキリンとゴッコは今にも死んでしまいそうな顔色をしているし、ホタルンも2人よりは平気だけれど、やっぱり少し顔色が悪い。

 ここから出るのは、少し時間がかかるかもしれないなんて考えていると、部屋からシーが出てきた。


「……ごめんね。取り乱しちゃって。さ、行こう」


 さっきとは別人のようなシーの様子に違和感を覚え、とりあえず、目に付いた疑問を問いかけた。


「……クーはどうした?」

「……流石に、抱えたまま移動するのは大変だからね。まずはここを、生きて脱出するのが一番だと思って。クーの体は、それからでも取りに来れる」

「……そうか」


 取れない違和感に首をかしげながらも、俺たちは昇降口へと階段をおり、廊下を歩いていく。

 そして、ようやく昇降口へときたが、扉は押しても引いてもあかなかった。


「……鍵が閉まってる」

「ど、どうするの……?このままじゃ、帰れないよ」

「確か、鍵はシーとクーのどっちかが持ってなかったか?それで開けろよ」


 ゴッコが不安そうに言うと、ホタルンが鍵をもっているであろうシーへ問いかけた。

 それを聞いたシーは、ホタルンへ向けて首をふる。


「僕は持ってないよ。ほら」


 そういって、ズボンのポケットを逆さまにするが、中からは何も出てこない。

 そうしてから、シーは言った。


「クーが持ってるはずなんだけど……逆さまだったのに、鍵は落ちてなかったから、たぶん音楽室まで行く途中で落としたのかもしれない。だから、二手に分かれて探さない?」

「二手ってことは……さっきの道を辿るグループと、落としてそうな場所をしらみつぶしに探していくグループ……ってことでいいか?」

「うん。流石ホーリー」


 シーがそういうと同時に、ホタルンが手をあげる。

 視線を向けると、気分の悪そうなユキリンを支えたホタルンが言った。


「あたしとユキリンはさっきの道を辿る方がいい。しらみつぶしだと時間がかかってユキリンの体調が悪化しそうだし、休ませる時間がほしい」

「え……私のことは、別に……」

「そんな青白い顔して何言ってんだよ。説得力ねぇって。……友達だろ?頼れよ」

「……うん。ありがとう」


「……比較的まだ大丈夫な僕とホーリーは、時間がかかりそうな方をやろうと思うけど……ゴッコはどうするの?」

「……僕、は……僕は、シーくんとホーリーについてく、よ……」

「大丈夫なのか?」

「…………うん」


 見た感じ、明らかに平気そうではないけれど、それでも、一応グループ編成は終わった。

 何か見つけたり、何かに襲われたりしたらすぐに携帯で知らせられるように、それぞれ携帯を一番取りやすい場所にしまい、俺たちは二手に分かれて行動を始めた。


 音楽室へ言ったクーの居場所がわかったように、今回もシーの言葉を頼りに進んでいくが、なんだかだんだん、誘導させられていっているような気がしてきた。

 ゴッコも疑念を持っているのか、不安そうな目でシーを見ている。

 すると、唐突にシーが立ち止まり、そして、急に走り出した。

 唖然とする俺がシーの背中を見つめていると、ゴッコが、ふと、言葉を発した。


「……さくらだ」


 その言葉に、思わずゴッコの視線をたどると、廊下の窓から中庭に咲く巨大な桜の木が見えた。

 桜の花びらは、一つ一つが淡い桜色の光を放っていて、幻想的な雰囲気を作っていた。

 それと同時に、俺はゴッコの手を握って、走り出した。


 今なら、まだ間に合うかもしれない。

 もしかしたら、もしかしたら。


 中庭への扉を、勢いよく開ける。

 そこには、妖しく光る巨大な桜の木と。

 その横で妖しく笑う、シーの、一樹の姿があった。


 もう、手遅れだった。


「ほらぁ。来たじゃないですか。僕の言ったとおりだったでしょ?もしかして僕を救えるかもーなんて思って、僕を追ってくるって」


 そういってシーは、桜の木に向かって笑いかける。

 その瞳は、桜の木と同じように、桜色に光っていた。


「あ、ねぇねぇ、あいつら、僕の友達なんですよ!だから、ちょっと遊んできてもいいですか?……大丈夫ですって!ちゃぁんと、遊んだあと、あなたに献上しますって」


 そういってシーは、服の内ポケットからカッターを取り出した。

 カチカチカチと、刃を出す音が聞こえる。


 その音が聞こえた瞬間、俺はゴッコを引っ張って、元の道を走り始めた。


「あはは!あっはっはっはははははははは!!!」


 3人分の足音と、カッターの音。

 俺とゴッコの息遣いと、シーの高笑い。


 昇降口へと戻ってきたが、どこへ行けばいいのか、さっぱりわからない。

 ……と、突然ゴッコが、俺と繋がっている手を引っ張って、走り始めた。


「こっち!!」


 過ぎていく景色に、ゴッコの向かう場所を理解し、そして、あれはシーじゃないと切り替え、ゴッコと並走してかけていく。

 シーの、一樹の、……いや、敵の恐ろしい笑い声が後ろから聞こえてくる。

 今にも崩れ落ちそうなゴッコの手を引っ張って、階段をのぼっていく。


 そして。


「しゃがめっ!!」

「……う、んっ!」


 開け放たれたままだった扉を、屈みながら走り抜ける。

 そして、そのまま床に倒れこみ、倒れた状態のまま、後ろを振り返る。

 敵は、階段を上がり、そして俺たちがいる音楽室(・・・)の扉へと走ってくる。



「あははは は  は     ハ      ハ      ハ?」



 ちょうどあいつの首の位置に仕掛けられた、ピンと張られたピアノ線は、あいつの首と胴体をバラバラにした。

 頭のなくなった体が崩れ落ち、自分の状況が理解できないという顔で固まった頭が、その場に落ちる。

 それと同時に、ゴッコが窓へと駆け寄る。


 死にそうな顔で、今にも吐きそうなゴッコの背中をさすってやる。

 その時に見つけた、血に濡れた鍵を拾ってポケットに入れながら、考える。

 とりあえず、ゴッコを休ませてやりたいけど……ここじゃ安心できないだろうし、どこかないのか……。


 そう考えていると、俺の携帯が鳴った。

 もしかして、鍵を見つけたのだろうか。

 そう思って、俺はホタルンからの知らせを聞くために、携帯をとった。


「どうした?何か進展が……」



『た……ザザッ……たす……ザザザッ…………助けてっ!!』



 そんな、ホタルンの悲痛な叫び声とともに、電話は切れた。

 横で聞いていたゴッコに視線を向けると、行こうというかのように頷いた。

 俺たちは、ホタルンとユキリンのもとへ向かうために、音楽準備室を通って廊下へと出た。



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