4 片割れ
懐中電灯という、心もとない灯を頼りに、真っ暗な廊下を歩いていく。
息が詰まりそうな無音の中、俺たちの足音だけが響く。
暗闇に飲み込まれてしまいそうな雰囲気を壊したくて、俺はシーに問いかけた。
「なぁ。クーはどこに行ったんだ?」
「うーんと、クーは泣き顔を誰かに見られるのが嫌いなんだ。だから、声が聞こえない場所……音楽室にいる可能性が高いと思うよ」
「ほんと、よくわかるな」
「双子だもん!……でも、僕が今まで“そんなこと”って言ってきたから、クーの大切な話、聞かなかった。……なんで、聞いてやれなかったんだろう……」
そういってまた落ち込むシーの頭を、優しく叩く。
「過ぎたことはしょうがない。……今は、謝って、また元の関係に戻れることだけ考えろ」
「うん。……なんだか、今日のホーリーは、いつもと違うね」
「……そうか?」
「うん。いつもは、俺について来い!不安になんてさせないぜ!みたいな感じなのに、今日はなんだか、お兄ちゃんみたい。……いつもより、距離が近い感じがして、嬉しい」
えへへと笑うシーの声に、思わず頬を緩ませる。
そのまま会話を続けようとしたとき、懐中電灯で照らした奥の方に、ちらりと、クーに似た背中が見えた。
それを目にしたシーが、走り出す。
「クー!!」
「おい!待てっ……!!先走るな!!」
そう叫んだ俺は、止まらないシーを追いかけて走り出す。
クーらしき背中を追うシーの向かう先は、音楽室。
……俺の頭に、七不思議の1つが思い浮かび、走る速度をあげる。
階段を上り、その真正面にある扉を開けようとするシーの背中に向けて、手を伸ばす。
そして今度は、届いた。
「シー!!」
「うわぁっ!」
なんとか横に投げ飛ばし、俺は座り込んで息を整える。
不満そうにこちらを見るシーが口を開こうとしたとき、後ろから3人がやってきた。
「は、速いよぉ……」
「大丈夫か?ユキリン」
「あり、が、とう……。ど、うした、の。急に」
突然走り出した俺に対して、息を切らせながら不思議そうな目を向ける3人に対して、俺はあのことを伝える。
「七不思議」
「……っ」
「……七不思議?」
「それ、が、ど、うし、たの?」
「……トキリンは、七不思議で言われていたことと同じ死に方をしていた。もしかしたらって思ってな。……まさか本当だとは思わなかったけど」
そう言って俺は、音楽室の扉のところに、まるで誰かの首を切るために設置されているかに思えるピアノ線を指さした。
それを見たシーは、顔を僅かに青くして、自分の首を手で撫でる。
そうしてから、俺に小さくお礼を言って、ピアノ線を屈んで避けながら音楽室の中へと入っていった。
けど、その歩みは、すぐに止まった。
「何してんだよ。早く進めよな」
「どうしたの?シーくん」
「……嘘だよね?三樹」
その言葉とともに、俺は、シーが見ている方向へと懐中電灯を照らした。
そしてそこには。
ピアノの上に置かれた三樹の首と、頭のない三樹の体が逆さ吊りになっていた。
「……ねぇ、いつもみたいに遊んでるだけなんでしょ?悪ふざけはやめて、早く出てきてよ。ねぇ、ねぇ」
「……ねぇ、シーく「触るなっ!!!」……っ」
死体から目を逸らしながらも、シーを心配して近寄ったユキリンの伸ばした手を、シーは振り払う。
後ずさったユキリンを受け止めたホタルンが、シーを睨みつける。
その視線に気づかないシーは、クーの、三樹の首を抱きしめて、言葉をかけ始める。
「……さっきのは、僕が悪かった。ごめん。だから、だからさぁ……出てきてよ。2人で遊ぼうよ。これからは三樹の話も聞く。ちゃんと聞くから……だから、許してよ。……そうだ。後で皆と一緒に、三樹の好きなもの食べに行こ?それで、それでさぁ……」
「……おい、シー」
「なんで、なんで何も答えてくれないの?まだ怒ってるの?どうすればいいの?……ねぇ、教えてよ。なんでも、なんでもするからさ」
「シー」
「お願いだよ。なんとか言ってよ。僕が「一樹っ!!!」……っ!」
名前を呼ぶと、今にも泣き出しそうな顔で、シーが振り返った。
そんな彼に、真実を、告げる。
「……三樹は、死んだ」
「……嘘……嘘だ嘘だ嘘だ!!!そんなの、僕は信じない!!だって、だって、さっきまで一緒に話してて、喧嘩して、それで、それで」
「……自分の手を、見てみろ」
「……手……?」
俺がそう言うと、シーは自分の、三樹の首を抱えて真っ赤に染まった手を見て、そして。
「……う、ぁああ……うぁぁああああああ あ あ あ !!!」
三樹の首を抱きしめて、大声で泣きだした。




