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3 裏切り者

 走って先頭の奴らに追いつくと、体育館へ向かう渡り廊下の真ん中あたりで、何故か固まって止まっていた。

 その中心には、ゴッコが震えながらうずくまっていて、周りを他の奴らが囲んでいた。



「やだやだやだやだ怖い怖い怖い怖い怖い怖い」



 明らかに普通じゃないその様子に、とりあえずそばにいたホタルンに事情を聞いた。


「ゴッコはどうしたんだ?」

「なんか、シーとクーが見つけたときから、震えながら立ってたらしくて……なぁ?」

「ええ。その後、心配になってシーくんとクーちゃんが声をかけたら、あんな状態に……。大丈夫かしら……」

「……とりあえず、ここじゃなくて、保健室とかのもっと休める場所に移動させよう。あんな状態じゃ、話も聞けない」


 そう言ってから、ゴッコの方へと近寄る。

 ゴッコの傍には、心配そうに謝罪の言葉をかけたり、励ましの言葉をかけたりするシーとクーがいた。

 2人に、さっきと同じ説明をしようとした時に、トキリンがやってきた。


「は、速い……って、ゴッコはどうしたの?」

「いや、ちょっとな……。とりあえず、休めそうな保健室の方に運ばせようと思ってるから、話はそこでする」

「うん。わかっ―――」


 それは、一瞬のことだった。


 俺の隣に来たあいつが、体育館の扉に背中を向けた瞬間、あいつは、何かに足を掴まれたかのように……いや、実際に、足枷のようなものに掴まれたあいつは、体制を崩して、渡り廊下の床に叩きつけられた。

 そしてそのまま、引きずられていく。

 俺は、手を伸ばした。



「―――――っ!!」



 俺の手は、空を切った。



 勢いよく引きずられたあいつは、体育館の中に吸い込まれるかのように引きずり込まれていった。

 ……そして扉は、音を立ててしまった。



「……かなめ、君……」


 クーが、震えたような声を漏らした。

 その言葉と同時に、体育館の扉へと駆け寄り、開け放つ。



「かなっ…………め……?」



 そこには、体育館の巨大な窓から差し込む月明かりに照らされた、巨大な銀色の十字架があった。

 そして、それは、血に濡れていて。

 そして、その血の先には……。


「う、あ、ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!」


 腹に、穴のあいた、要の姿があった。


 皆が体育館の中へと来て、そして、要の姿を見て、声を無くす。

 誰も彼もが、涙すら零すことなく、要の姿を見つめている。


『裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者』

『裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者』

『裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者裏切り者』


 そんな声が、体育館の中に響く。

 どこからともかく聞こえてくる音が、俺たちの脳を叩くかのように揺らす。


 そして俺たちは、示し合わせたかのように、同じ時に外を出て、そして、何も言わずに、体育館の扉を閉めた。



 ……誰も口を開かず、無言だけが続く。

 とても長いような、とても短いような、時間の感覚がおかしくなってしまった俺たちは、何も言わず、床を見つめる。

 だが、唐突に、ゴッコが小さな声を、発した。


「……だから、やめようって、言ったのに」


 その言葉に、クーが勢いよく立ち上がり、ゴッコに詰め寄る。


「っ!!あんたには、良介には、こうなるのがわかってたの!?だったら、なんで言わなかったの!?あんたが言ってたら、要君がこんな目に遭うことなんか、なかった……」

「……だって。だって!!君たち2人はいつも、こういう関連のことは1つも信じてくれないじゃないか!確かに、僕が怖がりなのもあるけど……でも!!君たちにも原因はあるんだ!!」


 そういったゴッコの一言と同時に、また、何の音もしない空間が広がる。

 ……ふと、シーが声を出した。


「……ねぇ。クーは、いつの間にトキリンを“要君”って呼ぶようになったの……?」

「……何。今、そんなこと言ってるときじゃないでしょ」

「そんなこと……?……僕らの愛称はさ、僕らが小さい時に決めた、僕らだけの、絆の証なんだよ?どうして、名前で呼んでるの?……いつから、トキリンは三樹の、“特別”なの」

「……っ!!」


 シーのその言葉と同時に、暗闇の中でもわかるくらい、クーの顔が真っ赤になった。

 それとは対照的に、シーの顔は、まったく動いていなかった。


「そうよっ!双子ならわかるでしょ!要君は、私の“特別”なの!特別……だったの……」

「……なんで、言ってくれなかったの?」

「……いうわけないじゃない。一樹は、私にとって、仲間である前に家族なのよ……!家族の、しかも同い年の兄弟に言うなんて、出来るわけないじゃない!!それに、言おうとしたって、一樹は聞いてくれない!!」

「……じゃあ、何?将来の夢も、学校生活での愚痴も、初恋の子のことも、全部三樹に話した僕は、なんなの?恥ずかしさなんて欠片もない、バカ?……それに、言おうとしたって聞いてくれないって、どういうこと」


 どんどん激しくなるクーの声。

 どんどん落ち着いていくシーの声。

 2つの同じような顔の、本気の喧嘩だった。


「一樹はいつも、私が話したいのを遮って、自分の話しばっかり私にしてくる!私だって、一樹に話したいこと、いっぱいあった!!あったのに、一樹のせいで、いつも忘れて、話せなくて、話しても、そんなことよりって言われて、それで!!」

「三樹の話は、いつも近所のおばさんがとか、友達の家の子猫がとか、本当にくだらない話しばっかりでしょ?僕の話の方が、重要性が高い話、多かったと思うけど」

「……っ!!ばか!いつきのばか!!だって、ふたごなんだもん!もっと、たくさん、いつ、き、ときょう、ゆうしたか、ったの!!!」


 そういって、クーが体育館と逆の方向に、勢いよく去っていく。

 それを見た俺は、立ち上がって、あの時の要のように、シーに拳骨を落とした。


「……お前、ちょっと言い過ぎ」

「……うん。ごめんなさい」

「それはクーに言ってやれ」

「…………うん」


 泣きそうな声に気がつかないふりをして、他の3人を見る。

 皆、青ざめた顔をしていた。


「……クーをこのまま1人にはできない。クーを追いかけて、学校から出るぞ。……ここから俺たちが出なけりゃ、トキリンの、要の死は、誰も知らないままだ」

「「「「…………」」」」


 俺がそう言うと、立ち上がっていたシー以外の3人が、ゆっくりと立ち上がった。

 それを見てから、シーに問いかける。


「クーがどこにいったか、わかるか?」

「うん。わかるよ。クーがどこに行くかなんて、簡単だよ。……僕らは、双子だから」

「……そうだな」

「……初めて、クーとこんなに大喧嘩したんだ。……クーに、謝らなくちゃ。ごめんって」


 そう呟くシーの頭を、少しだけ撫でてから、俺たちは歩き出した。


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