1 悪夢の始まり
「「ねぇ、七不思議って、知ってる?」」
「……七不思議ぃ……?」
「「うん!七不思議!!」
机に伏せて夢の世界に旅立っていたとき、似たような二つの声に、俺の夢世界の旅は終わった。
そのことを不満に思いながら顔を上げて、さっきの言葉を同じように言うと、二つの声……いや、楽しそうな双子の声が、俺の耳に聞こえた。
キョロキョロと辺りを見回すと、双子の他にも、気弱、委員長、優等生、不良がいた。
一見何の共通点もなさそうな俺たちは、小学校からの幼馴染っていう繋がりがある。
性格や趣味趣向はまったく合わないから、いつもは全然関わらないけど、今でもあだ名で呼ぶくらいには仲が良くて、どこかへ遊びに行くことも少なくない。
でも、学校で6人全員が揃って話しかけてくるなんてことは、ほとんどなかったのに……どういう風の吹き回しだ?
「いや、しらないけど……どうしたんだ?6人揃って……」
「それが、俺たちもシーとクーに連れられて来ただけで、よく知らないんだよ……」
双子の男女……黒島 一樹こと“シー”と黒島 三樹こと“クー”に連れられてきたと言ったのは、俺のクラスの委員長である常磐 要、俺たちの間では“トキリン”と言われてるやつだった。
トキリンはシーとクーを見てから俺に顔を向けて首を振ると、他のやつらへと視線を向けた。
けれど、全員が首を左右に振りながら言った。
「ぼ、僕、唐突に来てって言われて……何がなんだか、よくわからなくって……」
「私も、トキリンやゴッコちゃんと同じように、シーくんとクーちゃんにいきなり連れてこられたの」
「あたしもだ。結局、シーとクーは何が目的であたしらを連れてきたんだ?」
「「それはねぇ!!」」
“ゴッコ”こと気弱な後光 涼介、“ユキリン”こと優等生の雪野 和子、“ホタルン”こと不良の蛍原 花音が不思議そうにシーとクーに問いかけると、2人は楽しそうに声を合わせて言った。
それは、夏にぴったりなものだった。
「「僕/私 達でこの学校の七不思議を探しに行こうよ!」」
そうか、だから俺が起きた時に知っているのか聞いてきたのかと納得したが、それと同時になんでそんなことをと呆れた気持ちになった。
他の皆も同じように、嫌そうな顔をしたり怖がったり……少なくとも、乗り気なやつはいなかった。
「本当にやるのか?というか、なんでやるんだ?」
「夏と言えば、怪談!」
「学校と言えば、七不思議!」
「「じゃあ、二つ合わせて楽しも!!」」
トキリンが問いかけると、シーとクーが交互に言いながら笑う。
それを聞いて呆れたような視線になった周りを見ながら、俺……堀内 祥太は二人に問いかけた。
「……で?今のところ、皆やる気はないみたいなんだけど、とりあえずこの学校の七不思議っていうのがわからないから、そこから説明してもらえる?」
「うん!まずはね―――」
一つ目『屋上のヨミさん』
昔、一人のヨミと呼ばれる女子生徒が虐められていた。辛い思いをしていた彼女は、ある日いじめっ子に大切なものを盗まれてしまった。周りの、比較的普通に接してくれる人たちからなんとかそれが隠された場所を聞き出し、柵がないため立ち入り禁止になっている屋上へと、足を踏み入れた。
屋上で必死に大切なものを探す彼女の背中を、誰かが押した。落下していく彼女が見たのは、こちらをあざ笑うかのように見ているいじめっ子と、彼女の大切なものを持ったままこちらを見る、屋上に隠されていると教えてくれた子だった。……全ては、仕組まれていたんだ。
このことは大変な騒ぎになったけど、虐められていたという証拠もなければ、彼女をいじめっ子達が突き落としたという言葉に出てこない。あるのは、彼女が立ち入り禁止の屋上に入ったということだけ。結局このことは、彼女の自殺と判断された。
けれどそれから、彼女の幽霊が出るらしい。その幽霊は、屋上に立ち入るものの背中を押し、自身と同じ目に合わせてるんだって。
二つ目『裏切り者の十字架』
夜中に、学校に忘れ物をした生徒が、警備員の人と忘れ物を取りに行った。その途中、体育館を通ったところ、その生徒が突然足を止め、何かに引きずられるかのように体育館の扉へと吸い込まれていった。それを警備員がおいかけると、体育館の真ん中に巨大な十字架が建てられており、そこにはイエス・キリストのように磔にされた腹部に穴があいた生徒がいた。そして体育館全体から“裏切り者”っていう声が聞こえたんだって。
翌日体育館へ行くと生徒の遺体だけがそこにあり、警備員が昨日のことを話すと、その生徒の友人が青ざめた顔で言った。“昨日、あの子は騙し合いっこをするゲームで、裏切り者役だった”と……。
三つ目『幻惑のさくら』
中庭の桜は、血を吸う桜だ。春夏秋冬、どの季節になっても咲かないその桜は、人の血を集めるためだけに咲く。その桜が咲いたのを見た人は、周りの人間を見境なく殺していき、桜へと捧げる。そして最後は、自分の命までも桜に捧げてしまうらしい。
四つ目『実験室の死体愛好家』
この学校に、眉目秀麗で成績優秀な男子生徒がいた。その生徒の趣味は少し変で、剥製や人形が好きだった。周りはその趣味を理解してくれなかったが、唯一、彼の恋人だけは理解してくれた。そんな彼の恋人が、病で亡くなってしまった。だが、悲しむと思った彼は、何故かにこやかに笑顔を浮かべたままで、悲しむことはなかった。
しかし、葬式の当日、遺体が姿を消した。そしてその日、学校の実験室が爆発した。消防隊が来て火を消し、やってきた警察が調べると、そこには真っ黒な遺体が2つ、あったらしい。調べるとその遺体は、彼と、彼の恋人だったらしい。彼らの友人曰く、その恋人は実験が好きだったからその場所にいたんじゃないか……っていう話らしい。
けど、その実験室には、一緒の場所に埋めてもらえなかったからか、恋人を探して歩き回る真っ黒焦げの人が彷徨いてるらしい。そしてその人は、恋人に似た女生徒を殺して剥製にしては、どこかに飾って、また、恋人を探しているみたい。
五つ目『心の裏視聴』
誰しもが、心の裏側に、黒い部分を抱えてる。それを映すのが、視聴覚室に設置されている、壊れたプロジェクター。このプロジェクターは、自分と、もう1人の誰かと来ることで動くようになる。その人に対しての、心の裏側に秘めた想いが、映し出されるんだ。これのお陰で、唯一無二の親友になれた、あの人と付き合うことが出来たっていう話もあれば、2人で殺し合いをしてどっちも死んだとか、思い出したくなくて記憶喪失になるとかっていう話もある。……毒にも、薬にもなる、っていうやつだね。
六つ目『首切りピアノ線と逆さ吊り鍵盤』
ピアノが好きな子がいたんだって。その子は、ピアノが好きなのと同じくらい、イタズラなんかも大好きだった。けど、ある日、その子が姿を消した。先生とかにも手伝ってもらって、学校中を探したその子の友人2人は、ふと、音楽室を探していないのに気がついた。
どうして一番いそうな場所を探さなかったのだろうと思いながら音楽室の扉を開けて中に入ろうとして……そして、前を歩いていた友人の1人の首が、ポトリと落ちた。恐怖で後ろにいた友人が座り込むと、首が切れた場所には、血に濡れたピアノ線が張ってあった。そこからゆっくりと視線を遠くに移して、その友人は、悲鳴をあげた。……そこには、探していたその子の首が乗ったピアノと、その鍵盤から天井に伸びて、その子の体を逆さ吊りにしてるピアノ線があったからだよ。
その子の友人だった子は、言ったんだ。きっとその子は、驚かせたくて、ピアノ線を張ったんだと。……そして、それに自分が引っかかって、死んだんだと。
七つ目『入れ替わりの少年』
あるとき、2人の少年が、夜のこの学校に忍び込んだ。2人とも、肝試し感覚で学校に忍び込んだんだけど、2人のうち1人の少年が、急に、やっぱり帰ろうなんて言い出した。急な心変わりに疑問を感じながらも、もう1人の少年は、様子がおかしい少年をつれて、学校に入っていった。
けど、その中で本当に心霊現象が起こって、怪我をした2人は昇降口へと向かった。……でも、1人が突然、繋いで走っていた腕を振り払った。“いつものお前と違う!もしかしてお前も、ここの幽霊なんじゃないのか!”そういうと、様子のおかしかった少年が、その言葉を肯定した。今まで一緒にいた親友が幽霊と入れ替わっていたとしって、もう1人の少年はわけがわからなくなって、どこかへと走り去って、そして、もう帰ってくることはなかった。
入れ替わった少年が、一言だけ呟いた。“あーあ。だから言ったのに。やっぱり帰ろうって”って……。
七不思議の、七つの不思議全てを交互に語ったシーとクーは、満足そうに頷いてから、俺たちに聞いてきた。
「「どう!?面白そうじゃない!?」
「「「「「全然」」」」」
その言葉に、不満そうに頬を膨らませる2人。
それをときりんがつつきながら、二人に問いかけた。
「そもそも、夜の学校なんて入れないよ?鍵がしまってるんだから」
「「ふっふっふー!」」
「僕らが準備してないとでも!」
「お思いですか!!」
そういって2人は、鍵の束を掲げた。
それを見て、ホタルンが呆れたように、ユキリンが少し慌てたように言った。
「準備良すぎだろ……」
「鍵を盗むのは流石にまずいんじゃ……」
「「大丈夫!」」
「無口な警備員さんに話したら」
「いいよって頷いてくれたから」
2人で顔を見合わせて笑ったあと、拗ねたような顔をしてこっちを見た2人。
その状態のまま後ろへと下がっていき、教室の扉のところまで来た二人は、舌を出してから言った。
「「別に、来たくないならいいよーだ!」」
扉を勢いよく開けて去っていく2人を見送り、その後、俺らは顔を見合わせて笑う。
「あいつらもしょうがねーなぁ」
「子供か」
「まぁ、なんだかんだ言っても、子供なんだろうね。2人も。俺たちも」
「そうかもしれないわね」
「…………」
俺たちが反対しても、2人が意見を変えない時点で、俺たちの答えは決まっていたんだろう。
だって、2人にするわけにはいかない。
あいつらは、大切な俺たちの幼馴染だ。
笑いながら俺たちは2人のあとを追いかけて、夕日の照らす廊下を走っていく。
……その時俺は、気がつかなかった。
泣き出しそうな顔をして、その場から動かない、何もしゃべらないゴッコに。
俺たちの悪夢が、始まろうとしていた。




