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彼へ告げる隠し事と、彼からの告白

私が腰を落としているソファの周りには、テレビやテーブル、それからラックなど、一人ぐらし用の家具が私の周りには並んでいた。

シンプルに統一されているらしく、あまり生活感を感じず、モノトーンで鮮やかなをあまり感じず、男性の部屋なんだなぁって感じる。ここは赤城くんの部屋だ。

2DKで、1Rの私の部屋とは違って広々としている。


あの後、すぐに赤城くんが警察を呼んでくれた。

色々と話を聞かれたりしている時も傍にいてくれて、凄く心強くて少しだけ神経が緩んだ。

しかも、あのままアパートにいるには不安だろうからって、今日は自分の部屋に泊まってと。


アパートの自分の部屋にはいたくない。

けれどもさすがに迷惑をかけたくないからビジネスホテルにでも……って、考えたけれども、一人になるのが怖くてそのまま甘える事に。


二人はさすがに色々とあれだからと、赤城くんが気を遣って幼馴染みの女性が来てくれることに。

その説明をされた時に出た名前が、花梨さん。

けれども、私はまだ言えてない。彼女を知っている事を。


「……光莉。何か飲みたいものとか、食べたいものあるかって花梨が」

赤城くんはスマホを耳にあてながら、そう私の傍に来ると尋ねてくれた。

どうやら花梨さんと話しているようだ。


「飲み物は水と珈琲しかないけど、お茶とかジュースとかいらない?」

「……大丈夫」

「わかった」

そう言うと赤城くんは扉へと向かうとその奥へと消えて行った。


「やっぱり迷惑だったよね……花梨さんも忙しいだろうし……」

うじうじとしながら、テーブルの上に置いていたスマホを手に取った。

今から泊めてくれる友達を捜すべき?

この時間はもう夢の中にいる人も多いはずだ。

なら、やっぱりビジネスホテルへ……? と、考えていると、扉が開き、そこから赤城くんが姿を現した。

手にはマグカップ二つを持って。


「光莉。花梨くるまでこれ飲んでて。もうすぐ家出るから、あと十五分ぐらいで着くらしい」

そう言って赤城くんはテーブルの上にマグカップを置いてくれた。

温かい湯気が立ちのぼり、深く苦い香りが鼻孔をくすぐる。

どうやら珈琲みたい。


「ごめんね、迷惑かけて……」

「いや、気にするな」

そう言って赤城くんは、私の隣へと腰を落とす。

ソファは丁度三人掛けなのか、ほどよい距離感だ。


「しかし、妙な話だよなぁ。ドレスだけ破かれていただけなんて。他に盗まれたものなんてないようだし。一体、犯人は何がしたかったんだろうな?」

「その件なんだけれども、心当たりがあるの。でも、まさか泥棒なんて……考えすぎかな? とも思うけれども、もうすでに後見人である叔父達に両親の遺産を使い込みされているから……」

「ちょっと待て、光莉。被後見人の遺産を使い込んだって横領だぞ? ちゃんと弁護士なりに相談したのか?」

「……わかっている。でも……費用の件も考えないと……」

どうしても弁護士費用が頭を過ぎってしまう。

そのため、法テラスの利用などへの相談も考えていた。

この件は誰にも言ってない。黒崎さんに言ったら力になってくれそうだけれども、これ以上負担はかけられないと思ったからだ。


「それでも、ちゃんと相談しなきゃ駄目だ」

「うん。でも、叔父達の件はそれだけじゃないの……――」

「どういうこと?」

言葉を途中で切ってしまったせいか、怪訝そうな表情を浮かべたまま、赤城くんは問いかけてきた。


「だいぶ前に赤城くんと一緒に帰っている時に、叔父から電話あったの覚えている?」

「もしかして、食事が駄目になった時か?」

「そう。あの後、電話で言われた通りに、叔父の屋敷を訪れた。そこで告げられたの。沢西嘉人の元へ嫁げと」

「ちょっと待って。なんで光莉が関係あるんだ? しかも、沢西って悪名高い奴だろ? 派手に女遊びしてろくに仕事もしてないって」

「……代わりに沢西から叔父の会社へ五千万円の融資が約束されているから」

「光莉! まさか婚姻契約書に署名とかしてないだろうな?」

「してないよ。偶然とある人に助けて貰ったの」

「そうか……よかった……」

ほっと胸をなで下ろした赤城くんは、前のめりになり私へと向けていた体をゆっくりとソファへと沈めていく。


「その人が代わりに五千万円払ってくれたんだ」

「はぁ!?」

あまりに勢い良く身を起こしたせいか、ソファのスプリングが大きく軋む。

それは些細な音なのかもしれないけれども、まるで深い森のような室内では、やたら大きく響き伝わっていく。


「一体誰だ? そいつ。怪しすぎるだろ」

「大丈夫。すごく良い方で、ちゃんとした会社の社長をしているから。とても素敵な大人の男性よ」

青ざめている赤城くんを落ち着かせようとそう告げたんだけれども、ぐっと眉間に皺を寄せてしまった。

険しい顔をしたまま、こちらを睨むように見つめている。

確かに傍から聞けば怪しいけれども、黒崎さんはとても優しくて紳士的な人。


「どうしたの……?」

「そいつに何もされてないか?」

「何もされてないわ。時々食事に誘ってくださってとても良い人なの。だから申し訳なくて……」

「食事っ!?」

赤城くんの裏返った声に、私は小首を傾げる。

どうしたんだろうか?


「光莉は信頼しているかもしれないけれども、そいつ下心ありまくりだぞ。絶対に」

「そんな事ないと思う。だって、赤城くんとの外出した時も、洋服もその方がプレゼントしてくれたの。選んだのは違う人だけれども」

「……待ってくれ。そいつは俺と外出する事を知っていたのか? その上、わざわざ服を光莉に? 一体何を考えているんだ? 本当に下心なんてないのか? 全くわからない」

「あのね、きっと妹のように接してくれていると思う。だって年齢も離れているし。それにさっきも言ったけれども、婚約者もいるのよ? すごく綺麗なモデルさん。服もその人が選んでくれたの」

「……モデル?」

そのフレーズに、ぴくりと赤城くんの動きが止まった。

そして顎に手を添え、何かを思案するようなしぐさを見せる。


「たしかその人、女性を着飾るのが好きだって言ってなかったか?」

「うん。そう」

「もしかして、そいつモデルの花梨?」

「え……」

私は目を大きく瞬きして、彼を見た。

その私の反応を視界に入れた赤城くんは、頭を抱えて項垂れてしまう。

やはり彼は花梨さんの事を知っていたようだ。


「――……という事は、黒幕はまさかあいつかっ!?」

「ごめんね。黒崎さんに赤城くんには黙っていてって言われて……赤城くん黒崎さんの事知っているみたいだよね?」

「知っているも何も、兄だ……」

げんなりとしながら赤城くんはそう告げた。

でも、この時になって始めてあの時、黒崎さんの瞳を見て、赤城君が過ぎったのか理解できた。

だから似ていたんだって。


「でも、名字は?」


「赤城は母方の旧姓。一応バイト先も学校も知っているよ。学生証とかはさすがに黒崎になっているけど」

「でも、どうして?」

そう聞いてふと浮かんだのは、いつぞやの話。

それは、「年齢が離れている弟が可愛くて仕方がない」「可愛がりすぎてうざがられるレベル」ということ。

ということは、もしかして赤城くんは――


「距離が欲しいんだ、俺。兄貴とは年が離れているせいか、あっちが妙に構いまくるんだよ。高校の頃は、ちょうど黒崎の名前が重かった時期で、その時に大学の進学先まで口出されてキレちゃってさ……しかも、あのうっとうしい兄貴は、想像も出来ないぐらいに優秀で立派。そんなのが重なって父と兄貴と喧嘩して、大学進学をきっかけに家を出て一人で暮らしているんだ」

「そっか……」

「ここの保証人を祖父に頼んだ。その時に居場所を絶対に教えないで欲しいって言ったんだけど、聞きつけたのか兄貴が押しかけてきてさ。その時に俺の方から賭けを持ち出したんだ。大学生活四年間のあいだに、実家を頼るような事があったら将来兄貴の下で働くって。あの人、一緒に働くのを勝手に予定していてさ……夢なんだ! って、もう俺の事は放置していて欲しいんだよ……」

「ごめんなさい」

「どうして光莉が謝るわけ?」

「私、黒崎さんとお食事とか行くたびに、赤城くんの事聞かれて少しお話してたの……」

「いいよ、それぐらい。――って、待て。食事行くたびにって、そんなに頻繁に行っていたのかっ!?」

「うん。時々、花梨さんや新さんも」

「はぁ!? 花梨はわかるけど、新はなんで?」

「この間、黒崎さんとパーティーに行ったの。花梨さんが来られなくなったから、その代理で。その時にね、叔父達ともあったの。憎しみを込めて私を見ていたわ。刻まれたドレスは、あの時に着ていたもの。だから、もしかしたらって思ったのよ」

「今日はもう遅いから、眠ろう。明日、一緒にその件を話すために警察に行こう。それから、弁護士事務所にも。知り合いがいるからその人に相談しよう。このままずるずるは絶対に駄目だ」

「……本当に迷惑かけてごめんね」

私は深々と頭を下げた。


「いいよ。なんでも一人で考えこまずに、俺に言ってくれ」

「でも……」

「好きな子に頼られて迷惑って考える男いないと思うよ? 少なくても俺は思わない」

……え? 今、好きな子って……

弾かれたように顔を上げると、赤城くんと瞳が絡み合う。


「あのさ、俺、光莉の事ずっと好きだったんだ。だから、俺と付き合って欲しい。今はそんな事を考えられないかもしれないけど、気持ち伝えておきたい。だから、頼って欲しいし甘えて欲しい」

顔を真っ赤にしている赤城君。

きっと私も赤城くんなみに顔が真っ赤だと思う。

頬に血液が集中しているせいか、火照っているのがはっきりとわかる。


「あの……私も……好きです」

私がそう告げれば、赤城くんは泣きそうな顔をしたまま、こちらに手を伸ばす。

そして優しく私の体に手を回すと、そのまま抱きしめてくれた。


「ありがとう」

そう赤城くんが口を開けば、ちょうど玄関のチャイムが室内へと響いてきた。





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