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デート当日

「そうね。夏らしく、肌見せした方がいいと思うわ。けど、堅苦しいのは駄目。そこのスポサン見せて。それと、あそこにディスプレイされているやつも」

私の隣にいる美女は、テキパキと店員さんへと指示を飛ばしている。

緩くウェーブかかった髪に、ノースリーブのボーダーカットソーとホワイトデニムというシンプルな出で立ち。それなのにスタイルの良さから、それが様になっている。

はっきりとした目元に、常に綺麗に上がった口角。そして佇んでいるだけなのに、整った姿勢。

まるでモデルのような端正な顔立ち……というか、彼女は売れっ子モデルの花梨かりんさんだ。


黒崎さんに「任せて!」と言われた時はなんだかわからなかったけれども、どうやら私の服等を準備するのを任せてという意味だったようだ。

「時間ある日教えて?」と告げられ、その時間帯に現れたのが花梨さん。

最初待ち合わせ場所の私のアパートの前に現れた時は息を呑んだ。


今まで画面や紙面上でしか見た事がないような人が、目の前に現れたのだから。

しかも、わざわざ車で迎えに来てくれたのだ。

戸惑う私に颯爽と自己紹介をして、助手席に促してくれ、ここへと到着。


「あの、花梨さん……」

私は指示を出している花梨さんへと声をかける。

「大丈夫! ちゃんと約束の午後まで間に合わせるから!」

「いえ、その……お金の問題が……」

ここはセレクトショップのようなもので、色々な海外ブランドも揃っている店。

そのため、桁が多い。私のプチプラな普段着とは違う。

せっかく選んで貰っても、購入出来る資金が……


「心配しないで。ちゃんと彩人から貰っているから!」

「えっ!? どうして黒崎さんが?」

もしかして、心配をかけてしまったのだろうか?

ちゃんとそれなりの恰好をしていくつもりだったんだけれども……


「気にしなくてもいいわよ。どうせ、当麻をからかうためなんだから。彩人は可愛がりすぎて嫌われるタイプなの。だから今回の件もそう。きっと当麻のリアクションみたさよ」

「花梨さんも赤城くんの事をご存じなんですか?」

「え? 赤城……?」

小首を傾げる花梨さんに、私も首を傾げた。

てっきり当麻と呼んでいたから知り合いかと思ったのに。

もしかしたら、違う当麻さんの方だろうか。


「赤城当麻くんです」

「もしかして当麻、赤城って名乗っているの?」

「え? 本当は苗字違うんですか?」

「……当麻がそう名乗っているなら、ちょっと言えない。そうか、名字赤城って名乗っているのかぁ……もしかしたら、彩人とのあの喧嘩のせいかな?ごめん、聞かなかった事にしてくれる?」

「はい」

一応頷いてはみたけれども、しこりのようなものが残った。

それから言い知れぬ不安も。


――私が知っている赤城くんは、一体何者なのだろう?


「さて、彩人達の話は置いておいて、今は光莉ちゃんよ! 服が終わったら髪ね!」

「え、あの……」

「さぁ、当麻を驚かせましょうね」

顔を輝かせながら花梨さんは、私の腕を掴むとそのまま更衣室のある方向へと足を進めていく。

スキップでも踏み出しそうなぐらいに足元が軽やかで、なんだか雰囲気を醸し出している。


「花梨さん。楽しそうですね」

「勿論。私、人が着飾ったりするのが大好きなの」

「そう言えば、服のデザインもしているってこの間見ました。コラボしているって」

「そうなのっ! 特に女の子が可愛くなるのが好きでね~。モデルの仕事も好きだけれども、将来はそういった方向で重点的に動きたいなって。だから、今日は凄く張り切っちゃってるの!」

そう言ってこちらにほほ笑んだ花梨さんは、雑誌で見た笑顔よりも輝いて見えた。



多くの人々がタクシーや送り迎えの車で乗り降りをする駅のロータリー。

そこに駐車している長い車の列。その中に私達もいる。

全て完了し、ここまで花梨さんが送ってくれた。


「あの……送って下さってありがとうございました」

助手席にて深々と頭を下げれば、くすくすとした笑いが零れてきたのが耳朶に触れてくる。

まるで鈴の音のように澄んだそれは、彼女の容姿に似合っていた。


「初デート頑張ってね!」

「いえ、そのデートでは……本当にお世話になりました」

「いいのよー。私も楽しんでいたし。せっかくだから、今度絢人も混ぜてランチでも行こうね!」

「はい。是非」

私はそう告げると、深く頭を下げて車の扉を開け外へと出た。

生暖かい風がむき出しの肩を撫でつける。

花梨さんがコーディネイトしてくれたのは、上がオフショルダーのブラウスで襟元から袖口がフリルになっているタイプだ。

それに小さめのシルバーのイニシャルネックレス。

そして下が紺と黒の中間色なガウチョパンツ。足元はスポサンなので歩きやすい。

服だけじゃなくて、鞄も選んでくれた。

なので、全身の金額が時々頭を過ぎってしまう。

メイクはナチュラルに、髪は軽く巻いて左側で結って纏め帽子を被っている。


「じゃあ、またね!」

窓を開けて、手を振る花梨さんに私も手を振った。

サングラスをかけているけど、バレないかとひやひや。

いくら隠れていても、その容姿は隠せてない気がする。


その後花梨さんと別れた後、私は待ち合わせ場所である駅のエントランスまでやってきた。

外にも待ち合わせスポットはあるが、外は炎天下の下なので皆こちらで待ち合わせをしているらしい。

でも、人口密度が高いせいかなんだか熱気が……


きょろきょろと辺りを見回して、目当ての人を探す。

するとすぐに発見。

花梨さん同様に赤城くんも目立つ容姿のため、すぐに見つけられたのだ。

彼の姿を視界に入れ、すぐに駆けたくなったけれども、一呼吸置くことに。

そうしないと、顔が緩んで変に思われてしまいそうだった。


エントランスに時を告げる大時計台。その下に赤城くんがいる。

時間よりも早くきてしまったんだけれども、それよりも先に待っていてくれたみたい。


ゆっくりと歩いて行こうと思ったのに、足を踏み出すのが自然と早くなっていく。

早く早くと心が急かすのに同調するかのように……


「赤城くんっ!」

周りに人がいるせいか、埋もれてしまうのを恐れ私は軽く手を上げた。

すると彼はこちらへと視線を向けてくれたのだけれども、目を大きく見開いたかと思えば、そのまま幾度も瞬きを繰り返している。


驚くのも無理はない。

だって、今の私はあまり


「……え? 光莉?」

そう呟くと、赤城くんはこちらへと足を進めてくる。

それはこの格好のせいだろう。どう考えてもいつもの私とは違う。


「うん」

「最初誰だかわからなかったよ。いつもと違うな」

「変かな?」

「いや。かなり可愛いよ。でもさ、肩が……」

「もしかして、露出しすぎ? 夏だから問題ないって言っていたんだけれども……やっぱり、何か羽織った方がいい?」

「いや。問題ないよ。そういう感じの人多いし。ただ、心情的には羽織って欲しいなって思っただけなんだ。そういう服着ているの見た事ないけど、似合うな」

「ありがとう」

良かった…花梨さんに後でお礼を伝えよう。

ほっと一安心し、私はようやく赤城くんの前で笑みを浮かべる事が出来た。


「じゃあ、さっそく行こうか。見たい映画って、確か西口の方の映画館だっけ?」

「うん。そう」

私は頷く。

今日の予定は映画。

行きたい所を聞かれた時に、ちょうど見たい映画があったので告げた。

そうしたら、ちょうど赤城くんも同じのを見たかったらしく、一緒に行く事になったのだ。

なので、映画見てその後駅周辺をぶらりとして、夕食を一緒に摂る予定。


「普段はそういう恰好なのか?」

駅構内を歩きながら、赤城くんは口を開いた。

「ううん。今日は頭の先から足先まで全部任せなんだ。知人になるのかな? その人が女の子を可愛く着飾るのが好きな人で……」

「え?」

その言葉に、赤城くんの動きが止まる。

ぴたりと足を縫いつけられたかのようだ。


「どうかしたの?」

「いや……年の離れた幼馴染もそんな感じなんだ。だから、ちょっと頭に過ぎっただけ。悪い。行こうか」

そう言って赤城くんは蓋タブ足を動かし始めてしまう。


それは花梨さんの事だろうか?

赤城くんの言葉に、私はつい口を挟みたくなったけど、花梨さんに内緒と言われているので唇を結んだ。


――ただ、ほんの少しだけ罪悪感を感じてしまう。赤城くんに秘密にしている事を。




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