02.アイツのモノローグ
いつからだっけ、あの子に心惹かれるようになったのは。
わたしは女の子。翔ちゃんは男の子。そんなこともうとっくに――わ、わたしも意識し始めたのはちょっと前だけど――知ってる。
だから裸を見せ合うのに恥ずかしいのは当たり前。翔ちゃんはクールを気取ってるクセに昔っからデリカシーがないよね、そう、デリカシーが。最近になってようやく落ち着いてきたかな。
さすがにアレはちょっと怖かったよ。男の子って本当に力が強くなるんだ……他の人だったら泣くどころか猛ダッシュで逃げてた、ぜったい。
それから男の子はなんとなく苦手。元凶の翔ちゃんが大丈夫ってのも変な話だけど。
まあ、男の子が嫌いだからって女の子が女の子を好きになってもそれはそれでおかしいよね。
夜遅くにお花摘みに起きたら、お父さんとお母さんは翔ちゃんのことをわたしの許嫁だって笑って話してた。
恥ずかしいけど結婚したら男の子も女の子もまた裸見せ合ってもいいんだね。でも寒いなら引っ付いてないで服着ればいいのに。
男の子は女の子を好きで、女の子は男の子が好きなのも当たり前。
翔ちゃんのことは好きだし、それがそうなんだってずっと思ってた。
その当たり前を忘れ始めたのが、あの子を初めて見た入学式。
新入生代表の挨拶をしてたあの子は外人さんみたいにスタイルが良くってモデルさんみたいに凛としてて有名な絵みたいに整っていて――とにかくとってもカッコよかった。
わたしとは大違い。
わたしは小っちゃいし、足短いし、ちょっと……その……ぽ、ぽっちゃり、だし。あんな風に人前に立てない。堂々とできない。
どうしたらああやってキリッとしていられるのか知りたかった。
だから同じクラスって聞いたときは嬉しかったんだ。
周りの子たちも大騒ぎで――出遅れちゃいけない、すぐに友達になろう――そう思ってた、はず。
翔ちゃんとは違って、偶然に名字が同じで、席も前後ろで隣合ってたのはある意味良かった。
――実際に話してみてすぐに気付く、きっとあの子とは誰も友達になれない。
あの子は本当に分け隔てなくみんなに優しい。だからいつもあの子対みんな。
あの子からの眼差しは平等に距離があって柔らかいし、おまけに住む世界が違うんじゃないかってくらい優秀で誰も手が届かない。
まるでお日様みたいな子。
あの子がいないとみんなが日陰みたいに暗いところもそう。
あの子を巡ってちっちゃなことで喧嘩ばっかりする。わたしはそれがイヤだし、喧嘩する人たちの気持ちがほんのちょっぴりでも分かる自分もイヤ。
あの子の一番が、うん、あの子の光を返せるだけのお月様が決まってないからそうなんだ、って思う。
太陽は二つも昇らない。
わたしとあの子は違うし、あの子のような本物には到底なれない。
それでももっとあの子に近づきたい。
わたしはお月様になりたい。
あの子が疲れた時、代わってあげられて、それでいて決して寄りかからずにあの子の孤独を支えられる存在になりたい。
この憧れ、これは恋、なのかな。
わたし――蝶野梓――はあの子――蝶野マリア――に恋をしている。
実は『初恋トライアングル』で投稿予定でしたが、ネットで調べるとすでにそのタイトルで作品があったので、急遽変更致しました。そちらのほうの内容は全く存じ上げておりません。