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「うわあ。美味しそう。これ具はなんだろう」
「なんだろ。ええとポテトグラタンかな。あ、グラタン他にほたてとカニとエビがあったかも。ドリアだったかな」
「うっそ、梢ちゃん料理マスターなの? 私なんて成功率15パーセント以下よ」
美羽菜がびっくりした様な声をあげるけれど私の方がびっくりだ。
料理スキル初級で成功率は15パーセントに上がる、初級は料理作成30回で獲得できるから美羽菜は殆ど料理していないことになる。
ちなみに料理のスキルはみならい、初級、中級、上級、特急。マスターの5段階だ。
「美羽菜あんまり料理マスターのイベやってないの?」
ゲームの中では街毎に覚えられる料理が3~5あって、レアのレシピを含めると50種類の料理がある。レシピを覚えるには最低一回は作らないといけないしレシピによっては10回程作らないともらえないものもあるから……って、そこじゃないわ。
「美羽菜このゲームやってたんだ。びっくり」
「それはお互い様な感じ。あの梢ちゃんがゲームとかびっくりなんですけど」
「私だってゲーム位するよ。いつも勉強ばっかりしてるわけじゃないし」
上位の成績を取るのが寮に入るための条件だったから、必死に勉強していただけだ。
家に居たくない為に勉強するなんて馬鹿げてるけど、それが真相。勉強が好きなわけじゃない。
「ふうん。私はこのゲーム以外したことないの。これだって寮での暇つぶしにって従妹がくれたから始めただけだし。初心者でも出来るよって言われたけど難しいんだよねえ」
「そう?」
「うん。まだ一回も魔王倒せて無いの。何度もやり直したんだけどなあ」
「何度も」
パンを齧りながら美羽菜はため息をつく。
「そう、何度も。頑張ってレベルあげてるのに瞬殺なの」
「レベル幾つなの」
瞬殺されるって、聖女で空間移動が出来るなら相当上のレベルの筈だよねえ。
「昨日80になって、魔王に瞬殺されたとこ。今日寮に戻ったら初心者の村からやり直しだなあって思ってたの。今回はポイントが結構あったらかレベルとかアイテムとか必要な物は殆ど引き継げてたの。アイテム持ってこられてるみたいだし、良かったあ昨日引き継げてて」
「そうだね。それは……て、あんたもしかして殿下との恋愛条件クリアしてないんじゃないの?」
聖女でレベル80なんて相当だ。人の事言えないけどどれだけこのゲームやりこんでいるんだ。それで瞬殺なら答えは一つ殿下の恋愛条件クリアしていない上に好感度が低いんだ。
「よくわかるね。なんで?」
「聖女でゲーム進める場合は恋愛条件クリアしないと魔王に必ず負けるんだよ。攻略本に載ってたでしょ」
攻略サイトでは殿下より他キャラと恋愛したいと文句を言ってる人も多かったけど、このゲームは無課金だと殿下と聖女の組み合わせしかない。
殿下ルートのスチルをコンプリートすると初めて他キャラの恋愛ルート購入用の課金誘導画面が出てくるのだ。これも攻略本には載っている。
「だって殿下苦手なんだもん。それより攻略本ってなに?」
「なにってゲームを攻略するための本だよ。アイテムはどこで買えるとかこのイベントの発生条件はこれとこれとか。魔獣のドロップアイテムの一覧とか。なくてもゲームは進められるけどイベとか称号とか取り逃しでてくると思うな」
こういうのは好みかもしれないけど、私は攻略本片手にゲームを進めたい派だ。
好みのゲームは攻略本か攻略サイトが出てから始めて、メモを取りながら進める。
アイテムとか武器とか全部集めたいし、イベントもミニゲームもクリアしたいしやりこみたい。
どうしても出来ないのは低レベルでゲームをクリアするって奴。
この手の称号は全然持ってない。
首の皮一枚でボス戦クリアなんて出来ないのだ。
キャラに感情移入しちゃうから、いくら後で生き返らせることが出来ると分かっていてもHPがゼロになるのが嫌で、ボス戦でも余裕で戦えますレベルまでならないうちはひたすらレベルを上げまくっている。