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「ゲームみたいに魔獣が出なくて良かった」
この世界に魔獣はいないのだろうか。そんなわけないか魔獣がいないなら魔王もいないだろう、なら聖女を召喚する理由がない。
「単に運がいいだ、って。うわぁんいたよぉ!」
突然現れた。一匹の魔獣。
これなんだろう。狼? それともコヨーテ? ゲームの画面と違って立体だと分かんないっ。殿下の顔もゲームとはだいぶ印象が違ったし、平面と立体の差だろうか。
「ええと、炎はまずいから氷の扇子っ!」
実際に戦うなんて初めてだから、思わず目を瞑りながら扇子を振り回す。
「ギャンッ!!」
「あれ?」
手ごたえはあったし、悲鳴のような鳴き声も聞こえたけど、私は氷の扇子を一回振り回しただけだよ?
恐る恐る目を開けて、悲鳴が聞こえた方を見る。見なきゃ良かったと後悔したのはその直後だった。
「一撃ですか。私」
氷の刃というか、大きなつららが魔獣に突き刺さっていた。
技の名前は言わなくても使えるらしい、良かった。
「生で見るとグロいわね」
呆然と魔獣の死骸を見つめていると頭の中に『狼の毛皮』の文字が浮かびそして死骸と共に文字が消えた。
「アイテムオープン」
無意識に呟くとNEWの文字が光る狼の毛皮+1がウィンドウの中にあった。
「自動で収納されるのはゲームと同じか、それなら死体も見えなくして欲しかったなあ」
これからどれだけ魔獣を倒すのか分からないのに、いちいちその死体を見せられたんじゃストレスが溜まる。
「ていうか、私魔獣の死体を見ても死体だとしか思わないんだ。それっていいの?」
ゲームの世界だけど、でもここは多分現実だ。
私の手には武器の感触が伝わっているし、着ている装備も履いているブーツの感触も本物だと分かる。
「掌の傷、これ木の枝にしがみついた時についた?」
掌に細かい傷がある。今まで気づく暇もなかったけど、こうしてみるとジンジンとした痛みがある。
「私回復魔法使えないんだけど、そうだポーション」
腕輪からポーションを一つ取り出して手の平を洗う様に浴びせかける。
「一個じゃ治らないのかな? 沢山あるし何本か使っちゃおうか……あ、治った」
使ってすぐ治るわけじゃないのか、傷は少しずつ治っていった。
「映像の巻き戻しみたい」
コマ送りで映像を巻き戻している感覚に似ている。
ちょっとずつ傷が治って、最後には痕も見えなくなった。
「ポーションも使えると、あとはなんだろ食料かな」
傷が治るのを確認しながら歩くと出口の階段が見えてきた。