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余裕のある振りで視線だけで部屋の中を見渡す。
右手奥に大きな窓。暗いけど、窓の外には大きな木の陰が見えた。
「それでも殿下の邪魔をしそうなお前は生かしてはおけない」
「邪魔するとは限らないでしょ」
じりじりと窓の方へ後退る。
後退りながら、そっと右手にあるものを掴んだ。
「存在が邪魔だと言ったら鈍いあなたにも分かりますか」
「どういう事よそれ。私は巻き込まれた被害者だよ」
言っても多分納得しない。
こいつは自分の考えが正しいと信じ込んでる奴なのだ。
確かそれで殿下と衝突するエピソードがあった、気に入らないキャラだから台詞はスキップしたけど、殿下の理想とこいつの盲信している宗教が食い違って
「悪いけど、大人なしく殺されるわけにはいかないのよ」
どんな状態でも命は惜しい。だから、逃げる。
「そういうことだから」
ほいっと右手の中の物を床に投げつけた刹那、窓へ向かって走りだした。
「なっ」
ぼふっ! という情けない音とともに現れたのは白いけむり。
「ごほっ。ごほごほっ。お前一体なにを」
「一時間もすれば覚めるから、じゃあねおやすみなさいっ」
一か八か、窓をけ破り外へ飛び出すとその反動のまま木の枝に飛び移る。
「ま、まて…」
カーソンの声がかすかに聞こえた様な気がしたけど、木の枝に必死でしがみついていた私はそんな事にかまっている暇はなかった。
「よかった。思っていたより木が近くにあって」
なんとか地面に足を付ける事に成功するとそのまま走り出した。
「儀式の間から結構歩いたけど、あそこに東の塔が見えるから井戸はこっちかな」
記憶を頼りに走るけど、不安だらけで泣きそうだった。
「信じらんない、信じたくない。ここ、本当に現実なの」
不思議な事に警備の騎士の姿はない。
夜の闇にまぎれて私はひたすら井戸を目指す。
「信じたくないのに、井戸もちゃんとあるし井戸の隣にはちゃんと……」
抜け穴。井戸の隣にある小さな石の祠。水神様を祀ってあるのだと確かモブの兵士が教えてくれた祠。
「祠の後ろの石をずらして、そしたら抜け穴が……あるんだ」
決定打だ。これで、完全にこの世界がなんなのか分かった。というか、納得した。
「ここやっぱりゲームの世界なんだ」
へたり込みそうな気持をなんとか奮い立たせ、現れた抜け穴に飛び込んだ。
「戻すのはこの石」
光の石を取り出し辺りを照らしながら、足元に不自然に一つだけ飛び出た石を押し戻すとぽっかりとあいた頭上の穴がギギギという音とともにふさがった。