2
「……殿下?」
美羽菜がぼそりと呟いた。あれ? なんで美羽菜がそれを知ってるんだろ。
「そうです、聖女様。どうぞ私の事はローガンとお呼びください」
「私はカーソン・レイランと申します。神官をしております」
殿下とカーソンが美羽菜の前に膝を付き、頭を下げたのを見て私は予想していたことが現実になった事を知った。
「どうぞ聖女様、この国をお救いください」
「聖女、私が?」
白い服を纏い、右手に金杖を持ったまま美羽菜は呆然と二人を見下ろしていた。
「で、説明をすると言って私と美羽菜を引き離した理由はなんなの」
儀式の間から客間に移動すると言われ、私と美羽菜は仕方なく歩き出した。
美羽菜の隣は殿下が陣取って譲らないから、私は仕方なく二人の後を付いていくことになり右隣にはカーソンがぴたりと張り付いていた。
警戒しながらも状況が把握できるまでは大人しくしているしかないから、美羽菜も私も素直に二人のいう事を聞くことにしようと目配せして決めたまではいいけれど。それ以上の会話をすることは出来なかった。
「聖女様への説明は殿下がなさいます。私は邪魔者が殿下の傍に近づくのを阻止するのが役目」
聖女と王家のものしか入れない部屋があると言われ私はカーソンとこの部屋で待つことになった。
だけど、それは多分口実だ。
儀式の間も殿下と美羽菜が入っていった部屋までの廊下も豪華な彫刻が彫られた柱や高そうな飾り物が壁に飾られていたのに、この部屋はあまりにも質素すぎる。
使用人の部屋というより使われなくなって久しい部屋というかそんな感じだ。
「邪魔者。私のことですか、別に元の世界に帰してくれるならそれが一番の阻止じゃないんですかね」
無理だと分かっていて嫌味のつもりで言ってみた。
召喚の儀式には難しい条件があった筈。ここが私の知っている世界ならの話だ。
「邪魔なお前など、そうしてしまいたいのは山々だが今はそれも出来ない」
「どうして」
「召喚には様々な条件がある。月と星の位置。時間。召喚するための力」
「月と星の位置」
記憶通りの答えにため息が出そうになるのをなんとか堪え話の続きを促した。
美羽菜と離されてしまった今、少しでも情報を集めなくてはいけない。
「そうだ。年に一度。昼と夜の時間が等しくなる日、月の真下に赤い星が光る。それがこの世と異なる世界への扉が開く合図。儀式の間にはその扉があるのだ」
そんな重大な事を私に教えていいのかねえ。こいつ馬鹿じゃないの? って呑気にしてる場合じゃないのか。
答えが分かっていたとはいえこの現実は辛い。
「つまり最低でも一年は帰れないと」
「いいや、十年だ。儀式の間にある魔法石。あれに力を蓄えるには十年の時が掛かる。その力がなければ扉が開いても異なる世界への道は繋がれない」
そういう設定なんだっけ? オープニングは一度しか見たことがないから詳しい事までは覚えてない。
「つまりこの世界を救うために美羽菜を呼んだけど、返すつもりはないってことか」
十年の時を掛け力を蓄えても儀式を行うつもりはない、そういう事か。
「そうだ、そしてお前はここで死ぬ」
どうして神官の癖に剣なんか持ってるんだ。
着ていたローブから突然剣を登場させるって、こいつはこんなキャラだっけ?
カーソンは確かに短絡的なキャラだったけど、ここまでじゃなかった筈だ。
「生憎簡単に殺される程殊勝な性格はしてないんだよねえ」